第61回都市圏研究部会(開催日:2017年11月18日大会部会アワー)

日 時:2017年11月18日(土)10:30~12:00(予定)
※人文地理学会大会部会アワーとして開催

会 場:明治大学駿河台キャンパス リバティタワー
(〒101-8301 東京都千代田区神田駿河台1-1)
※会場へのアクセス方法はこちらをご参照ください。
http://www.meiji.ac.jp/koho/campus_guide/index.html

テーマ:都市社会学と都市地理学の対話

研究発表:
都市社会学のフロンティアと地域へのアプローチ
・・・・町村敬志 (一橋大)

コメンテータ:豊田哲也(徳島大)

趣旨:

複雑化する現代の都市圏研究には学際的視点の重要性がいっそう高まっている。年度の部会アワーでは「都市経済学と都市地理学の対話」として,地域経済循環の考え方について議論した。今回は近年の都市(東京)と都市論の動向を踏まえつつ,都市社会学で何が問題とされているか,また,より広く都市に関わる学術研究がどのような問題提起を行っていくべきかを考えてみたい。

連絡先:豊田哲也(徳島大)E-mail: toyoda.tetsuya[at]tokushima-u.ac.jp
2017.10.06  Comment:0
第60回 都市圏研究部会

共 催:経済地理学会関西支部
日 時:2017年1月28日(土)13:30~18:30
会 場:TKP天王寺会議室
〒545-0052 大阪府大阪市阿倍野区阿倍野筋1丁目3-15 阿倍野共同ビル 8F
会場へのアクセスは、以下をご参照下さい。
http://www.kashikaigishitsu.net/facilitys/kg-tennoji/access/
懇親会参加の場合は,下記の要領で事前申し込みが必要です(先着順)。

テーマ:公共交通と都市空間構造

趣 旨:
近年、人口高齢化や環境問題に対応するため,地域公共交通の維持・改善が政策課題としてクローズアップされるようになった。鉄道やバスなど公共交通を中心としたコンパクトで高密度な都市への再編成に向け,地方公共団体,民間交通事業者,市民の協働が求められている。交通インフラと都市空間構造のあり方や路面電車が果たす役割について議論し,合わせて現状視察をおこなう。

1.研究発表 (13:30~15:45)
地方中規模都市における公共交通沿線の空間構造に関する研究
-地域公共交通網形成計画の今後の動向を視点に-
・・・・・石川雄一(長崎県立大)
路面電車が可能にする交通インフラと一体となった暮らしに関する研究
-大阪 阪堺電気軌道を事例として-
・・・・・徳尾野徹(大阪市立大)

■地方中規模都市における公共交通沿線の空間構造に関する研究―地域公共交通網形成計画の今後の動向を視点に―
石川雄一(長崎県立大)

2007年の「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」施行後、数多くの自治体等が地域公共交通網形成計画の策定に取り組んでいる。本法律では、本計画策定にあたっては市町村の役割が大きく、市町村は、公共交通事業者等その他の関係者と協力し、主体的に持続可能な地域公共交通網の形成に資する地域公共交通の活性化及び再生に取り組むよう努めなければならない、とされている。人口及び人口属性の変化に鑑み、多くの地方中規模都市で、行政主体の交通体系のあり方の見直しが進められつつある。
本報告では、すでに策定された地域公共交通網形成計画から、地方の中規模都市の事例を抜出し、公共交通の現状と方策を考察し、人口減少と高齢化によって公共交通の維持の困難さが増している地方中規模都市の課題を、本計画にも示されている総合的なまちづくりの視点から、公共交通沿線の空間利用・人口分布等の地理学的な分析・考察を中心に論じることとした。
具体的には、人口40万から50万クラスの中心部に路面電車網を有する地方中規模都市(富山市、広島市、松山市、高知市、長崎市、熊本市、鹿児島市)における沿線の都市構造を考察、フランス、アメリカ合衆国の地方都市の事例も参照しつつ、都市間で相違のある運行維持のための方策を検証した。
また北部九州における人口20万から30万クラスで、地域の公共交通としては、バス交通主体の都市(佐世保市、佐賀市、久留米市)における中心市街地バス路線沿線の都市構造を考察し、公共交通の再生・新たな交通モード導入可能性の検証をおこなった。
報告者は、2014~16年にかけて、佐世保市の地域公共交通網形成計画策定のための委員会の委員として策定にかかわり、また実態調査にも関与してきた。佐世保市は天然のコンパクトシティとしての地形上の利点もあり、佐賀市、久留米市と比較してバス交通をはじめとする公共交通利用に適した環境を有する。ただし多様な交通事業者(JRと第三セクター鉄道、市営と民営のバス、さらにこれらと一部競合する民営沿岸航路)が市域に存在し、委員会においてもそこでの意思統一が重要な課題であり、ゆっくりではあるが成果が出つつある。行政が今後、本法律に基づいて、いかに主導的な立場に立てるかが、公共交通改善のカギを握るであろう

■討論
Q 従業人口と交通流動との関係を見ているが、通学との関係を考慮するなら、学校施設との関係を考えるべきではないか。
石川 松浦鉄道沿線には長崎県立大学と高校がある。松浦鉄道利用者のおよそ50%が通学定期利用者である。市バスも通学割合が高い。おっしゃるとおり、通学も考慮する必要がある。
Q 佐世保のバス路線では二つの企業が競合しているので、一つにまとめるということであるが、その前に、航空会社のように共同運行は模索されていないか?
石川 一本化、共同運行などいくつかのパターンを想定し現在、行政とバス事業者との間で調整中である。
Q 今後の動向に関してお聞きしたい。本発表では、詳細なデータを用いて外国との比較を行っている。LRTを導入した富山では公共交通利用者が増えている。外国はもっと徹底しており、公共交通のために税金を投入している。交通システムの導入により都市の空間構造はどう変わったのか、それを検討することにより今後の動向が見えるのではないか。
石川 フランスではサルコジ政権がLRTの建設に税金を投入した。ヨーロッパの都市は、一般に中心部の人口密度が高いのでランニングコストが安い。日本の場合、富山市に続く都市が少ないということは、需要規模の小さい都市で公共交通を維持することが困難であることが考えられる。また、重要なのは国の支援政策が不足することと思われる。国が果たす役割は非常に大きい。地方公共交通は独立財源で運営するが、実際には補助金が入る。しかし、もっと料金を安くすると利用者は増えると思う。利用者にとって、車より公共交通を利用する方が安いなどのメリットがないと公共交通は利用されないのではないか。それがまちづくりにも影響するのではないか。
Q 独立採算を求められているということは、コストの問題がある。採算が合わないから廃止される公共交通もあるだろう。佐世保市の場合は、行政からの支援はあるのか。
石川 行政からの支援はある。市バスの場合は運行収支だけなら赤字である。市が駐車場収益をまわしているので、採算がとれている状況にある。民営の路線バスは、ネットワークが旧市域を超えて合併市域にも広がり赤字路線を抱えているので、路線単位で補助金を得ている。
Q 地方公共交通の法改正で規制緩和が進んでおり、事業者の申請で赤字路線が切り捨てられている。山間部の赤字を中心部の黒字で補てんすることはどこまで可能か。発表では、それは好ましくないとのことであったが。
石川 低密度のところで限界が来ている。街の中心だけなら料金を下げても対応できるが、赤字路線がネックとなっている。
Q 赤字路線を廃止して、中心部の料金を下げることで対応するとのことか。
石川 交通事業者の経営圧迫につながらないように、赤字路線や交通空白地域は別な方策を考えることも必要である。

■路面電車が可能にする交通インフラと一体となった暮しに関する研究―大阪 阪堺電気軌道を事例として―
徳尾野 徹(大阪市立大)
本研究は、建築計画学の視点から路面電車をコンパクトシティにおける交通インフラとして再評価するものである。研究対象は、大阪都心と郊外とを結び、都心・高級・密集・郊外と様々な市街地を通過する阪堺電気軌道である。まず、軌道敷やホームと沿線市街地との接し方や利用者の過ごし方を詳細に観察することにより、路面電車と地域との物理的な繋がりの実態を把握した。ホームへの店舗や住宅玄関の直結、掃除・鉢植え等の沿線住民による自主的環境整備や物干し等の生活感の表出、夜間の住宅・店舗の灯りや賑わいのホームへのあふれ出しにより、地域は沿線環境整備や利用者の安心感醸成に寄与している。また、開放的なホームや専用軌道敷際が通路として沿線住民の生活動線の一部になったり、ホームのベンチが買い物途中の休憩や井戸端会議といった立寄り場所として機能していることも確認できた。以上は、路面電車が有する建築や人に近いスケール感、構築物の簡素性や非完結性に起因すると考えられ、交通インフラに留まらない機能や使いこなしを誘発し、街や建築との高い連続性・接続性、つまり親和性を生んでいる。
次に、利用者アンケートより利用実態を把握した。利用目的は「買物・食事」が最も多く、「通勤・通学・仕事」「病院」が続く。利用距離は2km未満の「近距離」や2~4kmの「短距離」が多く、距離が延びるほど少なくなる。年代別でみると、若年層ほど利用距離は長くなるが、10~20代、30~50代、60代以上のいずれも3~4割で近距離利用がみられる。「主人と買い物に行くと荷物が多くなるので1区間でも利用する」(50代女性)、「定期があるので郵便局など時間に追われている時は迷わず使う」(20代女性)。最寄駅と目的地とから行動パターンを類型化すると、「単一の目的地を持つ型」「最寄駅を起点に一方向に複数の目的地を持つ型」「最寄駅を起点に双方向に複数の目的地を持つ型」「最寄駅を複数持つ型」を確認することができた。このように路面電車の使われ方は、都心と郊外との移動といった郊外電車的利用だけでなく、短距離のバス的利用、より近距離の自転車替わりの利用も加わり、利用者の個別の生活パターンに柔軟に対応する親和性の高い使われ方がなされていることが分かった。
路面電車は、都市や都市生活に対して親和性の高い、暮らしと一体となる交通インフラの可能性を有する。

■討論
Q 私は、阪堺電車を毎日利用している。発表にあるとおり、阪堺電車は親和性がある。しかし、もっと改良できないかと思う。天王寺駅前からの電車の運行本数は多いが、恵美須町からの路線の運行は田舎のバス並みである。運行本数を増やしてほしいと思うが無理であろうか。そのための案として、恵美須町から路線を北に延長して、日本橋まで延ばすと近鉄と阪神電車と結ぶことができると思う。さらに、バリアフリーに関しては、古い車両は対応できない。
徳尾野 バリアフリーには古い電車は対応できないが、なんとか新車両を導入している。阪堺電車のホームは、乗車しない人も利用する点で、沿線住民・事業者と連携しており、親和性がある。ハード面だけではなく、ソフト面から高齢者対応ができるのではないか。
Q 昔は、恵美須町からの路線は運行本数が多かったが、今は減少した。親和性とまちづくりの観点からみると、この変化をどう解釈していいか。
徳尾野 恵美須町からの路線の方が人口密度や事業所の密度が低く、商業施設などが少ないからかもしれない。
Q 沿線住民が、鉄道沿線に植木鉢などを置くことを、鉄道側がどう考えているのか。沿線で植木鉢などがあれば普通は除外する。都市の親和性にとっては、住民のいい例かもしれないが、管理責任からみると困る。住民の行動を阻害するだけではなく、親和性のある都市空間を形成するにはどういう条件が必要か。
徳尾野 鉄道側は1年に1度調査している。危険なものに関しては、毎年撤去の要請はしている。残っているものは安全なのかもしれない。安全性と責任との関係は難しい。ホームを電車利用者以外の人が利用していることに関して、それが「みまもり」の目となる。賑わいとか安全性とか、長い時間をかけて形成され慣例として定着したものがあり、何らかの価値観を沿線住民と共有していることから可能なのであろう。新たに建設するLRTでは、このような関係性をすぐ形成することはすぐには難しい。運営者が全てを決めてしまうのではなく、時間の積み重ねによって、無人のホームがまちの居場所となるような余白やスキのある運営・計画が必要である。
Q 阪堺電車が好印象である理由が、合理的に説明されてよくわかった。富山のLRTは、車いす対策と視覚障がい者対策に関しては、きちんと整備されている。しかし、親和性の観点からみると、物理的整備が進むと無機質な感じがして、精神的に壁ができるのではないか。今日の発表にあった精神的な面から親和性を形成するということと、物理的なバリアフリーの形成とをうまくよりそうようにするにはどうしたらいいか。
徳尾野 阪堺電車は、レトロな電車が走っていることが親和性を醸し出している。最新型のLRTは工学的には正解だが、沿線の住民に成熟度を醸し出すことや、愛着を形成するには歴史、つまり時間軸を考慮した設計が必要である。
Q 熊野街道沿いと紀州街道沿いに、歴史的建造物がある。歴史的景観の保存と阪堺電車の存続との関係はどうなっているのか。
徳尾野 阪堺電車は街道沿いではあるが、歴史的景観保護と対立するわけではない。路面電車沿線では、線路の錆が舞い上がって瓦屋根に付着して街が汚れることがある。これを「汚れ」ではなく「特徴的な錆色の景観」と解釈すると、路面電車沿いの景観は独特なものに見えてくる可能性がある。

■まとめ
公共交通に対するニーズは,いかなる背景や情況のもとに生まれるのか?公共交通を取り巻く環境が,制度的な側面も含め劇的に変化していくなか,異なる角度から,このことを問いかける示唆に富む報告がなされた。それらは,利用者のアクセシビリティやモビリティを確保することに誰が責任を持つのか,といった交通サービスの担い手の問題やその効率的な運用にかかわる問題とともに,発地と着地ばかりに注目していては見落としがちな,利用者の移動時間や移動経験にも光を当てるものでもあった。このことはまた,自家用車とは対照的に,人々の集う場所(駅・停留所)と時間(時刻表)とを定めることで利用可能となる公共交通が,時間をかけて地域に編み出してきた何らかの「パターン」,もしくは地域や社会の「リズム」といったものついて,より深く掘り下げていくことの大切さを示唆しているようにも思われた。討論では,参加者から自身の利用体験に基づく質問もなされ,また交通サービスの提供側と利用側との視点の違いにも関心が及んだ。
報告終了後,阪堺電車に乗り込みエクスカーションを行った。天王寺駅前と浜寺駅前との間を往復する短い時間ではあったものの,車窓からの風景をゆっくりと楽しむ間もなく,公共交通の持つポテンシャルについて更に活発な議論が交わされた。ご参加頂いた会員の方々に感謝申し上げます。

(参加者28名,企画:鍬塚賢太郎,司会:豊田哲也,記録:鍬塚賢太郎・根田克彦)
2016.12.10  Comment:0
第59回 都市圏研究部会(大会部会アワー)
日 時: 2016年11月12日(土) 11:00~12:30
会 場:京都大学吉田南キャンパス 吉田南総合館北棟 3階 共北32
会場へのアクセスは、以下をご参照下さい。
https://www.h.kyoto-u.ac.jp/access/

研究発表:
地域経済循環と都市の経済―都市経済学からのアプローチ―
・・・・・中村良平(岡山大学)

発表者のプロフィールは、以下をご参照下さい。
http://www.cc.okayama-u.ac.jp/~ubbz0252/

コメンテータ:豊田哲也(徳島大学)

連絡先:豊田哲也(徳島大学) toyoda.tetsuya@tokushima-u.ac.jp

<報告要旨>

■地域経済循環と都市の経済―都市経済学からのアプローチ―
中村良平(岡山大学)
都市経済学は、当然ながら「都市域」を対象としており、マクロ経済学やミクロ経済学、また財政学や金融論などと異なり、「空間:距離」という概念を正面から取り扱う経済学である。その意味では、地理学、特に経済地理学とは近い関係にある。また、同じ都市を対象とする「都市計画」とは逆の関係にあるときが多い。都市計画は、土地利用計画など規制を中軸とするが、経済学は市場の失敗があるときに規制を行う。都市経済学では、都市そのものを単体として扱うマクロ的側面、つまり都市の適正規模、都市の産業、都市の住宅問題などと、都市内部を空間的広がりとして扱うミクロ的側面がある。これには、土地利用、人口密度や地価の分布、交通行動などが該当する。
都市を経済循環の視点でマクロ経済的に見る際、域際収支に注目することが多い。三面等価はマクロ経済の基礎概念であり、生産、分配、支出の三面で捉えた金額は等しくなる。ところが、地域経済では一国の経済で考えるより人・財・金の出入りが大きい。生産活動に必要な中間財や本社サービスが都市の外から購入されると当時に、生産されたモノやサービスが都市の外へ出荷される。また、都市の近隣から通勤している就業者の所得は都市外に帰属する。これらは、都市の経済にとって「漏れ」となり、この程度が大きいと生産と分配所得の二面の乖離が大きくなる。
人口や生産額は財・サービスのフローに対価が伴う実物経済の指標であるのに対し、預貸額は金融経済の指標である。地域で分配された所得は、税負担を除いて支出されるか貯金される。預貯金は金融機関にとって融資の資金となるが、自地域内に有望な融資先が見当たらないと、国債や社債など有価証券の購入や東京でのコール市場で運用され、域外へ漏出する可能性が高い。結局、域際収支は「資本収支(有価証券)+所得収支(所得の純流出)+交易収支(移輸入超過)=財政収支(財政移転)」という式で表される。地域経済を語るのに移輸入超過が注目されることが多いが、マネーの流れの全体を把握することが重要である。
現代の日本では、実物経済以上に東京へのマネー経済(資金フロー)における東京集中が進んでいる。東京都の銀行貸出額や卸売業販売額は全国シェアの4割を占める。同じ商業という産業分類に属するが、卸売業は消費者を対象とする小売業と異なり、ほとんどが企業間取引の仲介である。東京には大手総合商社の本社が立地し、財貨の空間的な移動を統括している。地方経済に目を転じても、多くの県で県庁所在都市に経済が一極集中している。長崎県の市町村について域際収支を見ると、人口当たりで見た民間企業の収入額は、長崎市や松浦市、西海市で高く、依存財源額は島嶼部や周辺部の町村で高い。
都市経済を考える視点として、規範的な理論と実証的な手法がともに重要である。データを分析するとき、どうやってそれを読み解くかが課題であり、それには問題解決のストーリーが必要となる。すなわち、「ここをこうすればここがこうなる(はず)」という因果関係の明確化、仮説とその検証が求められる。都市分析の代表的なモデルには、経済基盤モデル、都市階層理論、産業連関分析などがあるが、分析手法として回帰分析や因子分析、クラスター分析、など多変量解析も使いやすくなった。また、政府は総務省のe-Statのほか地域経済分析システム(RESAS)を提供しており、統計データの整備が進められている。
一例として、愛媛県の市区町村を対象とする経済分析を紹介する。個人所得(課税者所得+年金所得)と小売業販売額の関係には線形回帰がよく当てはまる。ところが、新居浜市では市内に大型SCが立地しているにもかかわらず、小売業販売額は予測値より過小となる。これは大手製造業で働く単身赴任者が多く、家族への仕送りなどで所得が漏出しているためと考えられる。次に、通勤流出率と課税対象所得額及び対象人数を勘案し、通勤による所得の流入額・流出額を推定した。松山市、今治市、新居浜市など地域就業圏域の中心市はマイナス(純流出)を示すことがわかる。
地域の産業は、派生産業と自立産業に大きく分類できる。派生産業とは人口や企業の集積が必要な産業であり、行政サービスや対個人サービス、対事業所サービスが該当する。これと対称的に、製造業における工場部門や場所(土地、山、海)を必要とする農業、林業、水産業、鉱業は、需要者が域外に存在し、自然条件のストックがあれば成立しうる。さらに、情報通信技術や輸送技術の進歩で空間の克服も可能となった今日では、IT利用のサービス(ネット販売等)や、供給側が動かなくても需要者がやってくるサービス(観光、視察ビジネス等)も考えられる。
地域の経済成長戦略を描くには、稼ぐ力のある基盤産業と雇用を生み出す雇用吸収産業を見極める必要がある。両者の間にBtoBやBtoCの取引があり連関している地域には強みがある。基盤産業は地域に新たな所得をもたらす産業であり、定量的には純移輸出額がプラスである移出産業として定義される。本来は派生産業であっても人口集積によって移出産業化するため、大都市ではサービス業も基盤産業と見なしうるケースが多い。本社機能を持つ事業所のほか、シンクタンク、デザイン開発、報道機関本社等は情報発信で移出を担っている。こうした基盤産業の数・種類と規模は、東京を頂点とする都市階層の中での位置によって大きく異なる。したがって、都市の階層構造に応じた産業振興策が求められるだろう。

■討論とまとめ
Q 地域の生産活動でモノやサービスの流れは市場を介した取引として示されるが,「本社サービスの購入」は企業内取引で意味が異なるのではないか。
A 本社機能を欠く工場の場合,域外の本社が工場の仕入れや経理など管理サービスを引き受けるのであり,これは企業内取引にあたる。
Q 域際収支の均衡式の右辺(財政移転)について,財政上の理由で地方交付税交付金が削減されれば,均衡がくずれて赤字となり,地域間の不均衡や格差などの問題が深刻化するのではないか。
A 式は財政移転で域際収支が調整されていることを強調している。補助金が減少したら地域の輸入代替産業を振興するなどの政策が必要になるだろう。
Q 県庁所在都市の人口当たり卸売業販売額において, 三大都市が卓越して高いのは当然だが,水戸市が札幌市よりも値が高いのはなぜか。
A 大手家電チェーン本社など本来卸売業に分類される活動が小売業として計上されているのかもしれない。
Q 都市の階層構造に応じた産業振興策が必要という主張について具体的事例があるか。また,現状の東京一極集中を是正するためには中小都市を育成する必要があると思うが,どのような振興策が考えられるか。
A 例えば,四国では四国通信局が松山市に立地した関係で,放送関連業務は高松ではなく松山が中心となっている。多くの自治体は地域振興策として企業誘致に執着するが,工場など固定資本だけでなく人材の誘致も重要である。鹿児島市はデザインやIT産業を集積させるため,人材誘致から産業育成を図っている。
Q 経済学の主目的は法則追及と予測にあると思っていたが,今回の発表は外れ値に表れる地域の個性に着目している点で興味深い。長崎県の域際収支の例示では,島嶼部など周辺部の自治体で財政が赤字となっている。こうした地理的条件不利地域には,自律的振興策だけではなく政策的支援が求められるのではないか。
A ケースが限られているため説明できない部分は多いが,島嶼部では特殊な要因を考慮する必要がある。長崎県の雲仙と熊本の天草は地理的に近接しているため,両地域一体で観光振興を考えるべきである。人材・資源を中心に波及効果が期待できるだろう。
Q 都市地理学の可能性について意見を聞きたい。
A GISとビッグデータは,地域研究のどの分野でも重要性を増しており,情報を共有することが望ましい。

■座長所見
同じ都市を研究対象としながら,都市地理学と都市経済学では異なったアプローチをとる。第一に,地理学は伝統的に土地利用や景観など可視的現象に関心を持ってきたのに対し,経済学は主にモノ・サービスや資本の非可視的な流動を扱う。第二に,地理学は空間スケールを重視し伸縮可変なものとして扱うが,経済学は都市をマクロとして扱うかミクロとして扱うかで別の枠組みを採用する。第三に,地理学はそれぞれの地域の個性に注目するが,経済基盤モデルや産業連関モデルでは規範的な現象理解を前提にする。今回の発表者は都市経済学の立場から具体的な地域分析にも多くの成果を上げ,地域政策立案の助言者としても信頼を得ている。討論では地域分析の方法論や結果の解釈について活発な意見交換がおこなわれ,両分野の対話を通して学ぶべきことは多いと感じられた。(豊田)

(参加者28名,記録:豊田哲也・鍬塚賢太郎・根田克彦)
2016.10.28  Comment:0