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日 時: 2023年11月25日(土)10:30~12:00(大会部会アワー)
  ※2023年人文地理学会大会(法政大学)1日目の部会アワーとして開催

会 場:法政大学 市ケ谷キャンパス 大内山校舎7階Y704

テーマ:東京大都市圏「郊外」の変容と展望

趣 旨:
 2000年代以降の東京大都市圏では郊外の外延的拡大から「都心回帰」の傾向が顕著となり,都市地理学の研究においては,都心における住宅供給や郊外住宅地の持続可能性,大都市圏郊外の「地方都市化」などが関心を集めてきた。そうした中,通勤圏の定義でも議論がみられるように,都心と機能分担する空間としての「郊外」ではない領域が拡大している。今回は,大都市圏郊外における小規模開発地の研究や,地方都市における人口集中地区の変化など,丹念な実証的研究を積み重ねている駒澤大学の西山弘泰氏から近年の東京大都市圏郊外の変容についてお話をいただき,ディスカッションを通して議論を深めたい。

報告者・題目

■西山弘泰(駒澤大学):住宅供給と就業構造からみた東京大都市圏郊外の変容

連絡先:小泉 諒(神奈川大学)  E-mail: rkoizumi [at] kanagawa-u.ac.jp
2023.11.03  Comment:0
日 時: 2023年9月9日(土)14:00~17:00(対面開催)

会 場:キャンパスプラザ京都 第6講習室

テーマ:景観政策と京都の都市空間

内 容:
講演:大庭哲治(京都大学)「都市計画制度の科学的検証と都市空間情報の未来:古都京都での学術的・実務的実践からの洞察」
コメント:桐村 喬(京都産業大学)「京都市都心部における建物高さの変化の都市地理学的検討」
※16:20ごろより、会場を出て京都駅周辺でミニ巡検を行う予定です。途中参加される方はご注意ください。

趣 旨:
 京都市では、2007年から新景観政策を実施し、高さ規制の引き下げや建物のデザイン規制の強化などを図ってきたが、2023年からは一部を見直し、南部などにおける高さ規制や容積率の緩和などの新たな都市計画を実施している。このような新景観政策を中心とする都市計画が与えた京都の都市空間への影響とその見直しについては、都市地理学の立場からも検討が必要な課題である。そこで、今回は、この都市計画の見直しに関わった京都大学の大庭哲治氏をお招きし、京都における事例をベースとした、都市計画学の立場からの都市計画制度の科学的検証に関するお話をいただいたのち、都市地理学からのリプライの報告を行い、その後に全体でディスカッションしたい。

参加申し込み:
 対面開催ではありますが、会場の都合上、下記フォームより、可能な限り、事前に参加申し込みを行ってくださいますよう、お願いいたします。
 申込フォーム https://forms.gle/huoq52YvxBN2LRo59

問い合わせ先:
 桐村 喬(京都産業大学) kirimura [at] cc.kyoto-su.ac.jp
※お手数ですが[at]を@に置き換えてください。

■都市計画制度の科学的検証と都市空間情報の未来:古都京都での学術的・実務的実践からの洞察
大庭哲治(京都大学)
 本報告では,歴史都市・京都の都市計画制度や歴史的景観保全をテーマに,報告者自身の学術的・実務的実践に基づき,大きく4つのセクションに区分して,研究報告と話題提供がなされた。
 最初のセクションでは,「古都京都の歴史的景観保全研究:学術的実践とその経緯」と題して,2000年代初頭の京都市を取り巻く都市・景観問題と行政対応について解説した後,その背景のもとで報告者が歴史的景観保全の計量的研究に取り組むこととなった経緯や当時の研究内容を紹介した。具体的には,都心部で景観上良好なまちなみを形成する京町家が喪失し,中高層マンションが過剰供給されるメカニズムを,社会的限界費用を考慮した余剰分析で確認した後,都市空間情報の収集が当時は容易ではないため目視調査のデータを地理空間情報に変換・表示した都心部の京町家と中高層マンションの分布状況を概観した。その上で,地理的加重回帰モデルを援用した京町家集積による近隣外部効果の解明,アンケート調査データをもとに仮想評価法と階層分析法の組み合わせた独自の分析方法による住民の京町家に対する価値意識構造の解明,そして,社会的相互作用を明示的に取り扱う限界質量モデルで推計した元学区別の反応曲線とそれに基づく地域互助を通じた京町家の保全可能性評価など,分析の概要をそれぞれ紹介した。
 次いで,「都市空間情報の高度化と歴史的景観保全の科学的検証の重要性」のセクションでは,その後の行政対応として,景観法の施行,「時を超え光り輝く京都の景観づくり審議会」の設置,さらには,2007年9月の京都市新景観政策の施行について解説した。特に,市街地全体の約3割の区域で高さの最高限度を引き下げた高度地区の規制強化については,先述の余剰分析を通じてその経済学的意味付けを確認するとともに,京町家まちづくり調査の実施や眺望景観保全地域の設定をはじめとした京都市の新景観政策の取り組みにおけるデータ活用事例を取り上げながら,科学的裏付けの乏しかった歴史的景観保全へのデータ活用や都市空間情報の高度化の状況を説明した。さらに,報告者は2012年の長期在外研究以降,高度化が進む都市空間情報を活用して,歴史地区登録による政策効果とその効果の空間的異質性や帰着先の公平性(ジェントリフィケーションとの関係性)を定量的に明らかにすることを目的に,米国南東部に位置するジョージア州の州都アトランタを対象とした実証研究に取り組み,得られた知見を礎として,今度は,歴史都市・京都を対象に,実証研究の更なる深度化に着手しており,その内容も併せて紹介した。具体的には,米国連邦政府が管轄する国家歴史登録財とアトランタ市が管轄する歴史保全条例に基づいたCity of Atlanta Designated Propertiesの2種類の歴史的資産登録制度を対象に,それぞれの歴史地区登録の効果を,不動産価格帯毎の異質性を明示的に考慮して検証するとともに,登録による所有権や利用権の制約の程度により,その異なる影響がどのように変化するのか,歴史地区がもたらす恩恵と負荷が住宅市場に反映された形でどこに存在するのかを,分位点回帰モデルで明らかにしている。
 続いて,「京都市の都市計画見直しに参画した実務的実践からの洞察」のセクションでは,京都市が2023年4月に実施した都市計画見直しにおいて,その改定案の原案策定を担当した「京都市駅周辺等にふさわしい都市機能検討委員会」での主な議論の内容や,報告者が委員として関与した経緯などを報告した。その上で,都市計画の見直しの内容と特徴,とりわけ,一部地域での新景観政策による高さ規制強化の弊害と条件付き(公共貢献を前提にした)規制緩和の政策的意義について,先述の余剰分析を用いながら説明した。また,都市計画見直しに参画した報告者の実務的実践からの洞察として,科学的な政策議論の活発化を図るには,都市空間情報(統計・データ)の利活用の促進とともに,都市計画制度の効果・影響把握,さらには,PDCAによるマネジメントサイクルを有する検証システムの必要性について言及した。
 最後に,「都市計画制度の効果検証と都市空間情報の未来」と題して,昨今の科学的根拠に基づく政策立案の現状を概観するとともに,3D都市モデルの整備・活用の事例をはじめ,国内外の都市空間情報の利活用について情報提供が行われ,Urban PlanningとData Scienceの融合によるUrban Scienceの可能性と期待について解説した。その上で,本報告のまとめとして,1)現代のニーズと価値観に合った方法で,伝統と革新のバランスを取りながら,持続的に都市を発展させる方法を探求する必要がある点,2)そのためには,都市計画分野においても,科学的アプローチによる検証とデータ駆動の意思決定は不可欠である点,3)加えて,学術研究と行政的実務との連携が古都京都の未来をより良くするために不可欠である点,4)連携を促進する上でも,都市空間情報の利活用の促進と都市計画制度の検証システムの構築が今後の重要課題である点の計4点を示した。

■コメント:京都市都心部の建物高さについての都市地理学的分析
桐村 喬(京都産業大学)
 本報告は,都市地理学の立場からのコメントを兼ねており,都市空間の立体化という都市地理学的視点から,それに伴う景観の変化や,京都市の新景観政策(2007年)の影響を考えるために建物の高さに注目し,フォトグラメトリによって得られたDSM(数値表層モデル)による分析の結果を示した。分析の対象地域は京都市都心部の「田の字地区」であり,空中写真が利用できる,1946・1961・1975・1987・1995・2008・2020年の7時点のDSMを作成した。地盤の高さと建物等の高さを含むDSMから,DEMで得られる地盤の高さを差し引くことで,建物の高さを求め,都心部での建物高さの変化を検討した。
 分析の結果,急速な都市空間の立体化(高層化)は,1960年代~1970年代半ばに生じてきており,田の字地区の四条通・烏丸通沿いから始まり,1980年代後半以降,田の字地区の外郭をなす,御池・堀川・五条・河原町通沿いで高層化が進むようになったことが示された。新景観政策の影響を受けた2008年以降も高層化の流れは継続しており,田の字地区の内側の地域でも,北西・北東ブロックを中心に高層化が進んでいることが示された。このことから,新景観政策によって建物高さの上限を引き下げることには成功したが,高層化自体は開発によって進行してきたといえる。
 複数時点のDSMからは,建物の高さを広域的かつ時系列的に捉えることができる。このような高層化の状況を,都市内部構造の変化と関連させながら分析することで,都市計画的な制度変更の地理的影響を都市地理学的に考えていくことができると考えられる。

■質疑・討論
Q 今回の高度規制の緩和は,なぜ祇園などの都心部ではなく,周辺地域が対象となったのか。
A(大庭) 京都市は都市計画マスタープランなどでも,市内を保全エリア,再生エリア,創造エリアの三つに大きくエリアを分けている。地域の将来性や経済活動の促進を考慮し,創造エリアにあたる京都駅の南部や市街地西部などに議論が集中した。
Q 学区における町家の保全状況や集積状況が,その住民の意識などにも関連しているのか。
A(大庭) 残存する町家を大事にしている方が多いと,しっかりしたコミュニティが形成されており,保全活動に対して協力的な反応を示すのではないか。
Q(桐村) 都市計画の歴史においても,都心部と郊外が区分され,これが都市構造に対する京都の人々の認識に影響を与えてきたのではないか。都市全体を考えて,都市の内部構造に応じた景観政策についての議論が不足しているのではないか。
A(大庭) 市全体としてこの地域はどうあるべきか,あるいはその地域にフォーカスした景観政策の具体的議論はこれまで少し足りなかったかもしれない。
Q(桐村) データサイエンス人材はこれからも必要で,都市計画だけでなく地理学も関わらないといけないと思う。ただ,まちづくりを考えると,その地域の人たちの主観や思いも大事で,客観的なデータに基づいた議論とのバランスをどう取っていくのか。
A(大庭) 難しい問題だが,現状では事実をしっかりデータとして捉えて、情報共有して議論ができる環境づくりがまだまだできていないと思われるので,客観的な方の底上げが必要だと思う。
Q 京町家を守っていくためには,税金の減免なども重要だと思うが,そういったことをデータで説明できる状況ができるとよい。
A(大庭) 利活用可能なデータがあれば非常に参考になると思う。また海外では余剰容積率の売買の仕組みなどもあり,新しいデータや制度を活用できると,京都らしい取組みができるのではないか。

■ミニ巡検
 質疑・討論後に,桐村の案内で,京都市立芸術大学の新キャンパス建設などの再開発が進む京都駅前でのミニ巡検を実施した。
(参加者:15名,記録:上杉昌也・桐村 喬)
2023.07.24  Comment:0
日 時: 2022年11月20日(日)15:00~16:30(大会部会アワー)
  ※2022年人文地理学会大会(佛教大学)2日目の部会アワーとして開催

会 場:佛教大学 紫野キャンパス,1号館4階 1-408

テーマ:『田園回帰がひらく新しい都市農山村関係』をめぐる農村の現場と都市

趣 旨:
 2010年代に入り,都市から農山村への移住に対する関心が高まりをみせるとともに,都市と農山村の関係も変化しつつあるという。この新しい都市と農山村の関係を「田園回帰」というキーワードのもとに多面的に検討した筒井一伸編『田園回帰がひらく新しい都市農山村関係―現場から理論まで―』(ナカニシヤ出版,2021年)は,多数の書評が執筆されただけでなく,本書をはじめとする一連の研究業績をもとに編者の筒井一伸氏が農村計画学会賞(論文)を受賞するなど,地理学やその関連分野に大きなインパクトを与えた。今回の研究部会では,同書の編者・執筆者による本書出版の趣旨や書評での論点についての紹介とコロナ禍における地方移住の動向などに関する報告をもとに,田園回帰に関する理解を深めつつ,都市―農山村関係に関する都市地理学からのアプローチや農山村社会の変容過程からみえてくる都市社会のあり様などについて議論する。

報告者・題目

■筒井一伸(鳥取大学):田園回帰と都市農山村関係―移住・コミュニティー・関係人口―

■嵩 和雄(國學院大學):新しい人の流れをつくる―コロナ禍での動向と課題―

連絡先:山神達也(和歌山大学)  E-mail: yamagami [at] wakayama-u.ac.jp

■田園回帰と都市農山村関係―移住・コミュニティ・関係人口―
筒井一伸(鳥取大学)
 『田園回帰がひらく新しい都市農山村関係―現場から理論まで―』(筒井一伸編,ナカニシヤ出版,2021年)は,田園回帰の潮流における農山村の地域づくりの文脈から地域を動かす「源泉」を探り,今後の地域づくりで参照し得る理論的枠組みの提示を試みた研究成果である。議論の軸は二つあり,一つは都市農山村交流の延長線上に移住や田園回帰を位置づけた点である。もう一つの軸が,田園回帰を読み解くための枠組みとして農山村における「内発的発展論」を採用した点である。本書はこの枠組みを意識しつつ田園回帰の実態を読み解き,「ネオ内発的発展」という観点からこれからの地域づくりのあり方を模索することを目指した。
 本書で提示した田園回帰の論点は,まず「人口移動論的田園回帰」として①広域的な視点からの移住政策,②移住前の移住希望者という都市住民の移住ニーズやその志向性などに関するトピックス,③移住後の移住者に着目したその価値観や満足度など,④農山村住民の受け入れ意識などであり,次に「地域づくり論的田園回帰」として⑤暮らしの拠点たるすまい,⑥経済的基盤となるなりわい,⑦コミュニティとの関係,⑧移住者と農山村住民の相互関係を円滑にすすめ実践的に支える仕組みづくりにあり,最後に「都市農村関係論的田園回帰」として⑨都市農山村交流の再評価や下支えする理念と理論の検討である。
 本書の出版後,次に挙げる13の書評などで示唆に富む指摘を得た。それは,地理学評論94-4(西野寿章),経済地理学年報67-3(中澤高志),人文地理73-3(高柳長直),季刊地理73-2(渡辺理絵),地理科学76-4(中條暁仁),地理空間14-2(吉田国光),農村計画学会誌41-1(中川信次),日本地域政策研究28(杉岡秀紀),茨城キリスト教大学紀要55 II(澤端智良),大韓地理學會誌56-6(韓柱成),都市計画356(山村崇),月刊地理66-9(吉田国光),日本農業新聞2021年10月31日付(藻谷ゆかり)であり,これらの論点を整理すると,(1)現場記述の物足りなさ,(2)理論の掘り下げ方の浅さ(地理学より)と難解さ(実務家などより),(3)都市地理学などとの横断的研究の必要性や「数の多寡」による「地表面の諸現象」選別への警鐘など地理学での田園回帰研究へのインプリケーション,(4)地方自治論やマーケティングといった他分野との新たな接合のヒント,となろう。本書の「はしがき」で記した「それまでの農山村への移住を取り上げた書籍や論文の多くが「移住者」という主体に着目をして,個人個人の“ストーリー”が中心に描かれていたことに違和感を持っていた」という経緯から,04章を除いてあえて個別の現場の記述を減らした経緯があり,その一方で現場との共通言語として「図式化」を心がけた。この点が(1)と(2)の論点として指摘されたと言えよう。
 本書では移住を軸とした田園回帰を中心に議論を進めたため,現在は「広義の田園回帰」に関わる研究を展開している。例えば,関係人口に関して,「関係人口受け入れの地域側要素の検討」農村計画学会誌39(小林悠歩と共著)と『若者を地域の仲間に!秘訣をつかむハンドブック』筑波書房(小林悠歩と共編著)を発表し,農山村コミュニティに関して「農山村におけるコミュニティブームと地域運営組織の再編過程」E-journal Geo 17-2(小関久恵と共著)を発表した。

■新しい人の流れをつくる:コロナ禍での動向と課題
嵩 和雄(國學院大學)
 今回の報告の前段では,首都圏における地方移住希望者の増加について,認定NPO法人ふるさと回帰支援センターの相談傾向等を含めた報告を行い,移住希望者と移住者の実態について,農山村へ関心を寄せる都市住民の増加と,移住のネックとなる仕事や人間関係への不安について考察した。また,『田園回帰がひらく新しい都市農山村関係』で提示した「人口移動論的田園回帰」における①広域的な視点からの移住施策の検討,②移住前の主体のトピックスの2点について,田園回帰論前後での研究動向の整理を行った。
 ②の移住前の主体のトピックスについて,1990年代~2000年代前半には,移住希望者や移住者への意識調査や自治体施策分析等を通じた「移住者理解」が中心であったのに対し,2000年代後半~近年には移住可能層の働き方への関心,生活状況,担い手としての役割等の「移住者検証」が主流となった。また,①の広域的な視点からの移住施策に関して,県による移住者の定義の違いを分析し,移住者数のカウント自体が難しいこと,さらに国も移住者の定義を定めていないことで政策にブレが生じる可能性を指摘した。
 後半では,社会情勢の変化による移住スタイルの変容について,リーマン・ショック,東日本大震災,地方創生といった社会的インパクトが大きい事象において,移住動向が消極的移住から疎開的移住,積極的移住へと変化してきたことを論じ,コロナ禍における移住動機や行動変容について報告した。特に新たな移住者像として,コロナ禍で認知度が向上したリモートワークの拡充で生じた「転職なき移住」の可能性を述べ,完全リモートワークが困難な現状では首都圏近郊の自治体への移住増加が見られることを,群馬県・長野県・静岡県の3県の移住者推移と,移住者増の自治体と東京への交通アクセスの関連性から論じた。
最後に,コロナ禍における移住行動の変容について,従来のライフスタイルの変化を求めての移住とは異なり,特に首都圏近郊への移住はリモートワークという働き方の変化に伴う通勤圏の拡張で生じた郊外の概念の拡大とも言えること,さらに政策的に進められる転職なき移住は新型コロナの収束に伴って定着するのか,さらに大都市から地方都市へという人口移動は地方移住と言うべきなのかという新たな論点を提示して,都市地理学研究者への投げかけとした。

■討論
Q 反都市化現象と田園回帰とはどう関わるのか。
A(嵩) 都市を棄てて農村に移動する移住者は少なく,反都市化の流れで説明していいのか分からない。また,都市と農村を行き来する人がいることから,そもそも移住という表現が適切かという問題もある。
A(筒井) 反都市化と捉えられることもあるが,一定数は進学や就職を契機として農村から流出しており,田園回帰を数字上で把握するのは難しい。
Q 補助金をもらって東京から地方都市に転居してコミュニティとは接点を持たずに生活する人は移住者といえるのか。その場合,郊外の拡張とは異なるのではないか。地方都市への移住について,数を把握しながら学問的にどう理解するかが重要であろう。
A(嵩) ライフスタイルを変える意思を持った転居を移住と考えている。国が定義を定めていないので数を把握しにくいが,大都市から地方都市の移動は現実に生じており,それを歓迎する動きもある。
A(筒井) 移住と単なる引越しとは厳密には区分できない。これまでライフスタイルが変わる農山村への移動を前提としたが,大都市から地方都市へというライフスタイルが変わらない移動も増加した。大都市から地方都市を間にはさんで農山村に移住する二段階移住もあり,農村研究者も関心がある。また,移住希望先として地方都市が増えたが,農村や漁村など「田舎の田舎」への希望も根強くある。
Q テレワークなどで移住が特別なことではなくなってきており,移住が「軽く」なったが,今の軽い移住者を定住させるためのポイントは何か。
A(嵩) 移住が軽くなったというのは,その通りだと思う。一方で,都市農村関係で見ると,人の出入りによって新しい刺激が生まれるなどの可能性があり,定住ありきでなくてもよいのではないか。
A(筒井) 農村の社会は変わりつつある。人の流動性が高まる中でコミュニティの方がどう変わるのかという調整が始まりつつあると認識している。
Q 若い移住者はライフスタイルを変えているのか。
A(嵩) 団塊ジュニアより下の世代では田舎を持たない人が多く,ヒアリングすると田舎は可能性が大きいと語る。そうした世代の価値観は我々とは異なる。また,YouTubeやSNSで移住者の生の声を気楽に聞けるようになったのも重要であろう。
Q 農村地理学では田園回帰の議論を始めとして農村の価値の見直しが進んでいるが,都市地理学では都市の価値をどのように考えているか。
Q 都市地理学がそこまで都市の価値を考えているとは思えない。むしろ今日の発表者からの投げかけに個々の都市地理学者が考える必要がある。
A(筒井) 人文地理学で都市と農山村の交流や関係を研究するのは農村側だけであり,地理学の良さが活かされていない。政策でも農村側の研究者の意見が反映されやすい現実がある。もう少し都市に関心がある方々にも開いていけるようになるとよい。
A(嵩) 今回の新型コロナで都市の価値が少し変化したのではないか。都市と農村の魅力の違いに気づくきっかけが都市農村交流になるかもしれない。都市と農村の二元論ではなく,新しい関係づくりの議論が分野を超えてできるようになればよい。
(参加者:33名,記録:上杉昌也)
2022.11.07  Comment:0