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第60回 都市圏研究部会

共 催:経済地理学会関西支部
日 時:2017年1月28日(土)13:30~18:30
会 場:TKP天王寺会議室
〒545-0052 大阪府大阪市阿倍野区阿倍野筋1丁目3-15 阿倍野共同ビル 8F
会場へのアクセスは、以下をご参照下さい。
http://www.kashikaigishitsu.net/facilitys/kg-tennoji/access/
懇親会参加の場合は,下記の要領で事前申し込みが必要です(先着順)。

テーマ:公共交通と都市空間構造

趣 旨:
近年、人口高齢化や環境問題に対応するため,地域公共交通の維持・改善が政策課題としてクローズアップされるようになった。鉄道やバスなど公共交通を中心としたコンパクトで高密度な都市への再編成に向け,地方公共団体,民間交通事業者,市民の協働が求められている。交通インフラと都市空間構造のあり方や路面電車が果たす役割について議論し,合わせて現状視察をおこなう。

1.研究発表 (13:30~15:45)
地方中規模都市における公共交通沿線の空間構造に関する研究
-地域公共交通網形成計画の今後の動向を視点に-
・・・・・石川雄一(長崎県立大)
路面電車が可能にする交通インフラと一体となった暮らしに関する研究
-大阪 阪堺電気軌道を事例として-
・・・・・徳尾野徹(大阪市立大)

2.懇親会 (16:00~18:30)
・阪堺電車の貸切車両で天王寺駅前と浜寺駅前を往復します。
・募集人数:30名(先着順)
・参加費用:5000円、大学院生は4000円(乗車料金および電車内での飲食代を含みます。研究発表会場にて当日お支払いください。)
・出発場所:阪堺電車天王寺駅前ホーム(研究発表会場から徒歩で移動します。)
・懇親会への参加申し込み:定員の都合があるため,以下の情報をEメールでお知らせ下さい。申し込みは12月20日(火)午前10時から先着順で受け付け、人数が30名に達した時点で募集を締め切ります。また,参加者は人文地理学会会員または経済地理学会会員に限らせていただきます。
  (1) ご氏名:
  (2) ご所属:
  (3) 連絡先:(住所,電話,メール)
  (4) 研究発表: 参加/不参加
  (5) 懇親会:  参加/不参加 (参加費:5000円or4000円)
・連絡先/申し込み先
  鍬塚賢太郎(龍谷大学) jaeg17kansai@gmail.com(受付はメールのみ)
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2016.12.10  Comment:0
第59回 都市圏研究部会(大会部会アワー)
日 時: 2016年11月12日(土) 11:00~12:30
会 場:京都大学吉田南キャンパス 吉田南総合館北棟 3階 共北32
会場へのアクセスは、以下をご参照下さい。
https://www.h.kyoto-u.ac.jp/access/

研究発表:
地域経済循環と都市の経済―都市経済学からのアプローチ―
・・・・・中村良平(岡山大学)

発表者のプロフィールは、以下をご参照下さい。
http://www.cc.okayama-u.ac.jp/~ubbz0252/

コメンテータ:豊田哲也(徳島大学)

連絡先:豊田哲也(徳島大学) toyoda.tetsuya@tokushima-u.ac.jp

<報告要旨>

■地域経済循環と都市の経済―都市経済学からのアプローチ―
中村良平(岡山大学)
都市経済学は、当然ながら「都市域」を対象としており、マクロ経済学やミクロ経済学、また財政学や金融論などと異なり、「空間:距離」という概念を正面から取り扱う経済学である。その意味では、地理学、特に経済地理学とは近い関係にある。また、同じ都市を対象とする「都市計画」とは逆の関係にあるときが多い。都市計画は、土地利用計画など規制を中軸とするが、経済学は市場の失敗があるときに規制を行う。都市経済学では、都市そのものを単体として扱うマクロ的側面、つまり都市の適正規模、都市の産業、都市の住宅問題などと、都市内部を空間的広がりとして扱うミクロ的側面がある。これには、土地利用、人口密度や地価の分布、交通行動などが該当する。
都市を経済循環の視点でマクロ経済的に見る際、域際収支に注目することが多い。三面等価はマクロ経済の基礎概念であり、生産、分配、支出の三面で捉えた金額は等しくなる。ところが、地域経済では一国の経済で考えるより人・財・金の出入りが大きい。生産活動に必要な中間財や本社サービスが都市の外から購入されると当時に、生産されたモノやサービスが都市の外へ出荷される。また、都市の近隣から通勤している就業者の所得は都市外に帰属する。これらは、都市の経済にとって「漏れ」となり、この程度が大きいと生産と分配所得の二面の乖離が大きくなる。
人口や生産額は財・サービスのフローに対価が伴う実物経済の指標であるのに対し、預貸額は金融経済の指標である。地域で分配された所得は、税負担を除いて支出されるか貯金される。預貯金は金融機関にとって融資の資金となるが、自地域内に有望な融資先が見当たらないと、国債や社債など有価証券の購入や東京でのコール市場で運用され、域外へ漏出する可能性が高い。結局、域際収支は「資本収支(有価証券)+所得収支(所得の純流出)+交易収支(移輸入超過)=財政収支(財政移転)」という式で表される。地域経済を語るのに移輸入超過が注目されることが多いが、マネーの流れの全体を把握することが重要である。
現代の日本では、実物経済以上に東京へのマネー経済(資金フロー)における東京集中が進んでいる。東京都の銀行貸出額や卸売業販売額は全国シェアの4割を占める。同じ商業という産業分類に属するが、卸売業は消費者を対象とする小売業と異なり、ほとんどが企業間取引の仲介である。東京には大手総合商社の本社が立地し、財貨の空間的な移動を統括している。地方経済に目を転じても、多くの県で県庁所在都市に経済が一極集中している。長崎県の市町村について域際収支を見ると、人口当たりで見た民間企業の収入額は、長崎市や松浦市、西海市で高く、依存財源額は島嶼部や周辺部の町村で高い。
都市経済を考える視点として、規範的な理論と実証的な手法がともに重要である。データを分析するとき、どうやってそれを読み解くかが課題であり、それには問題解決のストーリーが必要となる。すなわち、「ここをこうすればここがこうなる(はず)」という因果関係の明確化、仮説とその検証が求められる。都市分析の代表的なモデルには、経済基盤モデル、都市階層理論、産業連関分析などがあるが、分析手法として回帰分析や因子分析、クラスター分析、など多変量解析も使いやすくなった。また、政府は総務省のe-Statのほか地域経済分析システム(RESAS)を提供しており、統計データの整備が進められている。
一例として、愛媛県の市区町村を対象とする経済分析を紹介する。個人所得(課税者所得+年金所得)と小売業販売額の関係には線形回帰がよく当てはまる。ところが、新居浜市では市内に大型SCが立地しているにもかかわらず、小売業販売額は予測値より過小となる。これは大手製造業で働く単身赴任者が多く、家族への仕送りなどで所得が漏出しているためと考えられる。次に、通勤流出率と課税対象所得額及び対象人数を勘案し、通勤による所得の流入額・流出額を推定した。松山市、今治市、新居浜市など地域就業圏域の中心市はマイナス(純流出)を示すことがわかる。
地域の産業は、派生産業と自立産業に大きく分類できる。派生産業とは人口や企業の集積が必要な産業であり、行政サービスや対個人サービス、対事業所サービスが該当する。これと対称的に、製造業における工場部門や場所(土地、山、海)を必要とする農業、林業、水産業、鉱業は、需要者が域外に存在し、自然条件のストックがあれば成立しうる。さらに、情報通信技術や輸送技術の進歩で空間の克服も可能となった今日では、IT利用のサービス(ネット販売等)や、供給側が動かなくても需要者がやってくるサービス(観光、視察ビジネス等)も考えられる。
地域の経済成長戦略を描くには、稼ぐ力のある基盤産業と雇用を生み出す雇用吸収産業を見極める必要がある。両者の間にBtoBやBtoCの取引があり連関している地域には強みがある。基盤産業は地域に新たな所得をもたらす産業であり、定量的には純移輸出額がプラスである移出産業として定義される。本来は派生産業であっても人口集積によって移出産業化するため、大都市ではサービス業も基盤産業と見なしうるケースが多い。本社機能を持つ事業所のほか、シンクタンク、デザイン開発、報道機関本社等は情報発信で移出を担っている。こうした基盤産業の数・種類と規模は、東京を頂点とする都市階層の中での位置によって大きく異なる。したがって、都市の階層構造に応じた産業振興策が求められるだろう。

■討論とまとめ
Q 地域の生産活動でモノやサービスの流れは市場を介した取引として示されるが,「本社サービスの購入」は企業内取引で意味が異なるのではないか。
A 本社機能を欠く工場の場合,域外の本社が工場の仕入れや経理など管理サービスを引き受けるのであり,これは企業内取引にあたる。
Q 域際収支の均衡式の右辺(財政移転)について,財政上の理由で地方交付税交付金が削減されれば,均衡がくずれて赤字となり,地域間の不均衡や格差などの問題が深刻化するのではないか。
A 式は財政移転で域際収支が調整されていることを強調している。補助金が減少したら地域の輸入代替産業を振興するなどの政策が必要になるだろう。
Q 県庁所在都市の人口当たり卸売業販売額において, 三大都市が卓越して高いのは当然だが,水戸市が札幌市よりも値が高いのはなぜか。
A 大手家電チェーン本社など本来卸売業に分類される活動が小売業として計上されているのかもしれない。
Q 都市の階層構造に応じた産業振興策が必要という主張について具体的事例があるか。また,現状の東京一極集中を是正するためには中小都市を育成する必要があると思うが,どのような振興策が考えられるか。
A 例えば,四国では四国通信局が松山市に立地した関係で,放送関連業務は高松ではなく松山が中心となっている。多くの自治体は地域振興策として企業誘致に執着するが,工場など固定資本だけでなく人材の誘致も重要である。鹿児島市はデザインやIT産業を集積させるため,人材誘致から産業育成を図っている。
Q 経済学の主目的は法則追及と予測にあると思っていたが,今回の発表は外れ値に表れる地域の個性に着目している点で興味深い。長崎県の域際収支の例示では,島嶼部など周辺部の自治体で財政が赤字となっている。こうした地理的条件不利地域には,自律的振興策だけではなく政策的支援が求められるのではないか。
A ケースが限られているため説明できない部分は多いが,島嶼部では特殊な要因を考慮する必要がある。長崎県の雲仙と熊本の天草は地理的に近接しているため,両地域一体で観光振興を考えるべきである。人材・資源を中心に波及効果が期待できるだろう。
Q 都市地理学の可能性について意見を聞きたい。
A GISとビッグデータは,地域研究のどの分野でも重要性を増しており,情報を共有することが望ましい。

■座長所見
同じ都市を研究対象としながら,都市地理学と都市経済学では異なったアプローチをとる。第一に,地理学は伝統的に土地利用や景観など可視的現象に関心を持ってきたのに対し,経済学は主にモノ・サービスや資本の非可視的な流動を扱う。第二に,地理学は空間スケールを重視し伸縮可変なものとして扱うが,経済学は都市をマクロとして扱うかミクロとして扱うかで別の枠組みを採用する。第三に,地理学はそれぞれの地域の個性に注目するが,経済基盤モデルや産業連関モデルでは規範的な現象理解を前提にする。今回の発表者は都市経済学の立場から具体的な地域分析にも多くの成果を上げ,地域政策立案の助言者としても信頼を得ている。討論では地域分析の方法論や結果の解釈について活発な意見交換がおこなわれ,両分野の対話を通して学ぶべきことは多いと感じられた。(豊田)

(参加者28名,記録:豊田哲也・鍬塚賢太郎・根田克彦)
2016.10.28  Comment:0
第58回 都市圏研究部会

日 時:2016年4月23日(土)14:00~17:00
会 場:大阪市立大学文化交流センター大セミナー室
   〒530-0001 大阪市北区梅田1-2-2-600 大阪駅前第2ビル6階
会場へのアクセスは、以下をご参照下さい。
https://www.osaka-cu.ac.jp/ja/about/university/access#umeda

テーマ:小地域データからみた東京大都市圏の居住分化

趣 旨:都市の空間的内部構造と居住分化(セグリゲーション)は旧くて新しい
問題である。人口の都心回帰が進む東京大都市圏では、単身世帯の増加や高所得
者の集中など大きな変化が進行している。本研究会では、小地域統計を用いた
GIS分析によって、賃貸住宅の分布や居住者の社会経済的属性を把握し、居住分
化の実態と問題点を検討する。

研究発表:
賃貸住宅の特徴からみた東京大都市圏における単身世帯の年齢構成
・・・・・・・・・・・・・・ 桐村 喬(東京大学空間情報科学研究センター)
居住者の社会経済的特性と「近隣の質」
・・・・・・・・・・・・・・ 上杉昌也(立命館大学衣笠総合研究機構)

連絡先:豊田哲也(徳島大学) toyoda.tetsuya@tokushima-u.ac.jp

<報告要旨>

■賃貸住宅の特徴からみた東京大都市圏における単身世帯の年齢構成
桐村 喬(皇學館大)

近年の単身世帯の割合の高まりは,とりわけ大都市圏で顕著にみられる現象である。近年の東京大都市圏における5歳階級別の単身世帯数をみれば,1990年では20~24歳が突出するものの,2010年には,25~29歳が最多で,30歳代や60~64歳の厚みも増した。特に増加した青年・壮年層(25~44歳)の単身世帯をみると,1990年代以降,東京大都市圏の都心でその割合が高まっている。また,未婚単身世帯のコーホート残存率を求めると,1990年代後半に青年層(25~34歳)の単身世帯の都心での残存率の高まりが認められ,都心での人口回復の結果として,青年層の単身世帯が増加してきたことがわかる。
近年の単身世帯の増加と,年齢構成の多様化については,人口学などから要因が分析されており,団塊世代の高齢化や離別の増加,子との同居の減少によって中高年・高齢の単身世帯が増加し,未婚の増加によって若年・青年の単身世帯の増加が生じたとされている。単身世帯の年齢構成に関する地理学的な視点からの研究は少ないが,その増加傾向に関しては,都心の人口回復現象や住宅取得を行う女性単身世帯に関する研究において検討されている。
ところで,東京圏(1都3県)の単身世帯を住宅の点からみると,高齢ほど持ち家居住が増える傾向にあり,1990年以降,持ち家に居住する単身世帯が全般的に増加したものの,依然として単身世帯の大部分は,民営の賃貸住宅に居住している。単身世帯に関する既往研究の多くは分譲住宅に着目しており,単身世帯の多数派である民間賃貸住宅の居住者の分析は必ずしも十分ではない。そこで,本研究では,大規模な不動産物件データベースを利用して,民間賃貸住宅の供給(フロー)や既存物件の特徴(ストック)と,近年の人口・世帯動向および,単身世帯の年齢構成の多様化との関係を検討した。
分析に用いた資料は,アットホーム社が提供する「不動産データライブラリー」であり,2001~2013年にアットホーム社が取得した賃貸物件情報から,棟単位で情報を集計した。対象地域は,2010年の国勢調査結果に基づく関東(東京)大都市圏である。フローの分析では,2001~2010年を対象に,小地域単位(町丁・字)での民間賃貸住宅の供給状況を求め,人口・世帯の動向との関係から,都心の人口回復への民間賃貸住宅の寄与の程度を検討した。ストックの分析では,小地域単位内に存在する全民間賃貸住宅を分析対象とし,小地域単位でストックの特徴を求め,単身世帯の年齢構成の多様化との関係を検討した。
まず,フローの分析の結果から,民間賃貸住宅の供給が多い鉄道駅周辺地域では,人口増加が総じて顕著であることが確認され,都心の人口回復には民間賃貸住宅の供給も一定程度寄与したことが示された。また,若年(15~24歳),青年(25~34歳),壮年(35~44歳)の男女別人口についてコーホート単位でみると,民間賃貸住宅が多数供給された地域では,年齢が若いほど増加傾向が顕著であり,特に2000年代前半には女性のほうが顕著に増加していることが確認された。さらに,民間賃貸住宅の供給が多かった地域のほうが,単身世帯と夫婦と子世帯の増加が顕著である一方,高齢単身世帯では,供給量の差による増加率の差はそれほどないことが明らかになった。職業別の就業者数の増減と,民間賃貸住宅の供給動向との関係は明瞭であり,供給が多く,都心寄りの地域ほど,ホワイトカラーの増加が顕著であり,販売職,サービス職,ブルーカラーは減少傾向にあることが確認された。
次に,2000年の東京大都市圏を対象にストックについて検討した。まず,小地域単位の単身世帯の年齢構成を類型化し,学生,若年・青年,中高年,高齢という4類型を得た。中高年類型や高齢類型の地域では,面積が広く,家賃の安い民間賃貸住宅が多い。しかし,中高年,高齢類型の地域では持ち家に住む世帯が大部分を占め,民間賃貸住宅のストックとの関係はそれほど重要でないと考えられる。一方,若年・青年類型は,最も多くの民間賃貸住宅が存在する地域に広がり,実際に民営借家に住む世帯が多い。また,相対的に狭いものの,新しく家賃の高い民間賃貸住宅が多いという特徴をもつ。2000年の民間賃貸住宅のストックについての分析を施した結果,年齢が若いほど,新しい小規模な民間賃貸住宅の多い地域に居住する傾向にあり,高年齢ほど,古く広い民間賃貸住宅の多い地域に居住する傾向を確認できた。
続いて,民間賃貸住宅のストックの時系列的な変化が与える,単身世帯の年齢構成の多様化への影響を検討するため,小地域単位の年齢階級別の単身世帯数を時系列的に把握できる川崎市に注目して,1995~2010年の分析を行った。その結果,川崎市では鉄道駅周辺などで民間賃貸住宅の供給が進み,青年層の単身世帯が増加した。一方,民間賃貸住宅の供給が進まなかった地域では,単身世帯の高年齢化が進み,中高年,高齢層を中心とする年齢構成に変化したことが明らかになった。
以上の分析から,単身世帯の増大と年齢構成の多様化に関しては,民間賃貸住宅のフローおよびストックが一定程度寄与してきたことが明らかになった。単身世帯も大幅に増加した1990年代後半以降の都心での人口回復期では,民間賃貸住宅の供給が多い地域ほど人口増加の程度は大きく,ホワイトカラーの増加が顕著になっており,民間賃貸住宅の供給は都心での人口回復に対して一定の役割を果たしたと考えられる。また,単身世帯の年齢構成の多様化に関して,民間賃貸住宅の供給と建築年が新しい住宅の多さは,若い世代の単身世帯の増加に寄与するものであり,単身世帯の年齢構成を“若返らせる”効果があると考えられた。また,高年齢化には直接的に寄与しないが,民間賃貸住宅の供給が少ない地域では,高年齢化が進行しやすくなることも示唆された。

■居住者の社会経済的特性と「近隣の質」
上杉昌也(立命館大・衣笠総合研究機構/
日本学術振興会特別研究員PD)

近年,欧米を中心とした近隣効果研究をはじめ,拡大する経済格差を背景として近隣(neighborhood)スケールでの居住分化と都市内で不均衡に分布する「近隣の質」や生活の質との関連が指摘されている。本報告ではGISや小地域データを用いた定量的な分析によって,都市内での所得階層による居住分化とそれに関連づけられる「近隣の質」の空間的不均衡との関係を明らかにするため,所得格差の進展する東京都区部を対象とした2つの実証研究を示し,その成果と今後の展望について議論する。
一つ目の分析の目的は,地区の社会経済的特性が犯罪発生に与える効果について,両者の関係が地区によって空間的に変動する不均質性を検証することである。地区レベルでの客観的な治安のレベルを示す指標として犯罪率がある。本分析では地区の社会経済的特性として町丁目単位の高所得世帯割合に焦点を当て,地区の物理的環境とは別に犯罪率(住宅対象侵入窃盗の1万世帯当たり件数)に与える影響を明らかにする。
初めに重回帰分析の結果,地区の昼夜間人口比率や世帯当たり人員,高齢者率が犯罪率に負の影響を与えていることがわかり,「人の目」としての自然監視性が犯罪を抑制していると解釈される。一方,一戸建世帯率や低層共同世帯率,東京駅までの距離は正の効果を持っており,侵入やアクセスのしやすさが犯罪を誘発することを示唆している。そして地区の高所得世帯割合は,これらの物理的環境を統制しても負の効果を持っていた。つまり地区の社会経済階層が高いほど犯罪リスクは低下することを示しており,逆に階層が低いほど犯罪リスクは高まることから,社会経済的困難による社会的コントロールの減退が犯罪を招くとする社会解体理論が支持される。その要因として,経済的な「防犯弱者」の存在や高所得地区での防犯対策の進展なども考えられる。
続いて地理的加重回帰モデルを用いた分析では,高所得世帯割合も含めて環境要因と犯罪率との関係の空間的不均質性が確認された。約9割の地区では高所得世帯割合が高いほど犯罪率が低いが,地理的には江東・江戸川区,足立区,杉並・中野区などで特にその傾向が強かった。これらの地区は近年再開発が進む江東区の湾岸エリアなど一部を除き,相対的に高所得層の割合が低いエリアに属している。逆に非有意ではあるが係数が正となる地区も大田区など一部存在している。このような地区では,高所得層の集積が犯罪企図者にとっての魅力度を高めている可能性がある。以上の知見は,近年地理的に平準化しつつある犯罪発生パターンに対する説明力の向上にも寄与する。また防犯対策の面では,建造環境の操作(防犯環境設計)だけでなく,警察資源の投入の選択・集中といった方策も有効であると考えられる。
二つ目の分析の目的は,地区の社会経済的特性が近隣関係満足度に与える影響について,居住者層や近隣スケールによる違いを検証することである。近隣関係満足度は,個人レベルでの近隣関係に関する主観的な居住満足度を示す指標であり,本分析では「近隣の人たちやコミュニティとの関わり」(国土交通省住生活総合調査2008)について,近隣の所得構成(高所得世帯割合,低所得世帯割合,所得階層多様性)が与える影響を個人・世帯属性と区別して明らかにする。
マルチレベルモデルを用いた順序ロジスティック回帰分析の結果,住宅特性(所有形態,建て方,床面積),世帯主特性(性別,年齢,居住歴),世帯人員,世帯収入といった世帯属性を統制すると,町丁目近隣の所得構成は満足度に有意な影響を与えなかった。しかし,近隣効果の異質性を検証するためクロスレベル交互作用項を導入したところ,高所得世帯ダミーとの交差項のみすべての近隣変数が有意になり,高所得層にとっては近隣の高所得層の存在は満足度に正の影響を与える一方で,低所得層や多様な所得構成は負の影響を及ぼすことが分かった。同質性の原理からは,社会経済的地位やライフステージが類似している方がよい関係や社会的つながりは形成されやすく,逆に異質的だとそれが難しい。また近隣での住宅所有や子育てといった社会経済的投資が可能な高所得世帯にとっては,将来その見返りが期待できる居住者と良い関係を作っていく動機となる。ただし低所得世帯ダミーとの交差項は全て非有意となり,低所得層にとっては近隣の所得構成は満足度に影響を与えないことが明らかになった。この点に関しては,低所得層の方が近隣との社会的相互作用が小さいために正負にかかわらず影響を受けにくい可能性が考えられる。
さらに近隣スケールの影響も確認するため小学校区近隣を想定すると,町丁目近隣で有意であった高所得世帯ダミーと近隣変数との交差項は近隣の低所得世帯割合のみ負に有意であり,さらにその効果量は低下していたことから,地理的に近い近隣ほど居住者に与える影響が大きいことが確認された。いずれにせよ,高所得層の方が近隣環境に敏感であるのは予想がつきやすいが,本分析ではその効果量や近隣スケールの影響を定量的に明らかにしたことが重要であると考える。それにより,例えば一定以上の低所得層が集積しやすい公的住宅団地を特定の町丁目に集中させないなど具体的な対策が可能になると考えられる。
以上二つの実証分析を通して,日本のように居住分化が小さいとされる都市であっても,小地域の居住者特性が「近隣の質」の空間的不均衡を説明する要因にあることが示された。本研究の意義は,両者の関係が場所や居住者層,近隣スケール等によって変化するという不均質性を定量的に明らかにした点にある。それにより,効率的な犯罪対策や近隣満足度の改善が期待される。ただし,本研究では居住者の所得構成のみに焦点を当てているが,世帯類型や年齢階層といった人口属性の多面性を考慮する必要もある。また因果関係やメカニズム・プロセスの解明も重要であり,海外理論の適用可能性も含めた検証や,対象地域の都市圏への拡張や国際比較も念頭に置いた研究の蓄積が今後の課題として挙げられる。

■討論とまとめ

Q 桐村報告で示された京阪神大都市圏と東京大都市圏の比較分析において,青壮年層の単身世帯の割合の高まりを示すため,単身世帯に限って年齢別構成比を求めているが,人口学的には各年齢階級人口に占める単身者割合を分析する方が妥当ではないか。
A(桐村) 今回は単身世帯の内訳とその変化を分析することを目的としたが,別の集計法も試みたい。
Q アットホーム社「不動産データライブラリー」の特性について,登録データは大手不動産会社が扱う物件が主であることから,東京大都市圏における住宅供給分布の一般的傾向をどこまで説明できるのか。
A(桐村) たしかに,古い文化住宅などは含まれていなかったり,駅に近いエリアのデータが多かったりという偏りが見られる。また同社に加盟していない中小の不動産業が強い地域ではデータがない場合もある。しかし,2004年以降は登録件数が多く,大都市圏の一般的傾向を反映しうるものと考えている。
Q データの集計単位は町丁目であるが,町丁目の面積に分析結果が依存するのではないか。
A(桐村) 東京大都市圏では,京都市内のように町丁の面積差が大きいわけではないのでそれほど問題でない。また,件数ではなく比率で分析すると,外れ値が生じる可能性がある。
Q 分析の結果,単身世帯の増加に民間賃貸住宅の供給が寄与している事実が明らかになったとして,そこから導かれる政策的含意はなにか。近年,東京への人口集中と極端に低い出生率が問題視されている。ファミリー層向けの賃貸住宅が少なくかつ家賃が高額なことが,人口構成の偏りを生む要因の一つであろう。賃貸住宅に住む若年単身世帯の増加を“若返り”として肯定的にとらえるだけでよいのか。
A(桐村) 賃貸住宅数の増減を単純に肯定ないし否定するわけでないが,近年増加する空き家問題については注意を払うべきである。また,建て替えなどで退去を迫られた高齢単身者が新たに賃貸住宅を借りられない事例があるため,このようなケースが増加している地区を把握し,新たに賃貸住宅を借りる際に保証人を代行するなど政策的な支援を行うことが必要だろう。
Q 上杉報告分析に関して,犯罪率と高所得者世帯率(または低所得世帯率)との間には直線的な相関関係があるのか。
A(上杉) 犯罪率と変数の単相関は考察していない。既存の研究では物理的な建造環境要因の役割が強調されているが,本分析ではその影響を統制して関係を見ている。なお,回帰モデルでは,犯罪率に対して低所得世帯率はプラスで有意という結果が得られている。
Q 地区の社会経済的属性と犯罪発生率の理論的背景について,1)犯罪発生場所と犯人の居住地との対応関係はどうなっているのか。2)「割れ窓理論」のように犯罪が犯罪を誘発する過程を分析に組み込む可能性はあるか。3)近隣コミュニティの犯罪抑止力をどう考えるか。
A(上杉) 1)犯罪者の居住地や行動を考慮すべきだが,データがなく,分析は困難である。2)割れ窓理論に関しては分析のスケールが異なり,また,社会的コントロールがあれば犯罪の誘発を防ぐことができる。3)コミュニティの監視を変数とすることに関しては,例えば一戸建て世帯率を用いることなどが考えられる。
Q 1)犯罪率に対して東京駅からの距離が独立変数として有意なのは,都心では空き巣に入る住宅自体が少ないためか。2)「近隣の質」に関する後半の分析では,近隣の人間関係の満足度を従属変数とし,近隣環境そのものに対する満足度を扱っていないのはなぜか。
A(上杉) 1)世帯当たりの犯罪率なので,住宅数は分析上統制されている。2)今回の分析では,近隣の何に満足しているかを検討するため,理論的な説明が容易な近隣の人間関係に着目した。また,他の土地全体の要素を変数に含めると解釈が難しくなると予想される。
Q 近隣関係の満足度の評価について,回答者が「濃密なコミュニティの交流があるから満足」と感じるのか,「煩わしい近所付き合いがないから満足」と感じるのか,人によって異なると思われる。実際の日常生活行動と満足度の関係に注目すべきではないか。
A(上杉) 高所得層の方がコミュニティとの関係性が強い傾向があるが,利用したデータでは近隣住民との付き合いを尋ねていないためその点は考慮できない。今後は独自調査が必要と思われる。
Q 世帯規模が小さくなり単身世帯が増加することによって,犯罪や近隣の満足度に対して影響するのか。
A(上杉) その地域の所得が低いから負の外部性を与えているのか,単身世帯が多いことや賃貸住宅が多いことが負の外部性を与えているのか,今後の研究課題としたい。

座長所見 都市の空間構造と居住分化(セグリゲーション)は地理学にとって旧くて新しい問題である。1990年代以降,都心での人口回復が進む東京大都市圏では,単身世帯の増加や高所得者の集中など大きな変化が進行している。こうした社会経済属性の構成や分布の変化は,住宅市場の需要・供給関係と深く結びつくと同時に,近隣空間やコミュニティの質に影響を与えていると考えられる。今回の研究部会では,小地域統計を用いたGIS分析によって,賃貸住宅の分布や居住者の社会経済的属性を把握し,居住分化の実態と問題点を検討することを目的に,2件の発表と討議をおこなった。研究発表はいずれも精緻なデータ分析に基づくもので,東京を事例に近年の都市社会の変化を指摘した点で大きな意義をもつ。ただし,小地域データを用いた大都市圏の分析には,使用できるデータとエリアの限界を克服する難しさも指摘された。また,単身世帯とファミリー世帯,低所得者と高所得者が居住分化する傾向が強まっているとすれば,それは同質的な近隣の形成と住民満足度の向上につながるのか,あるいは社会的格差や分断の空間的な固定化をもたらすのか,今後の都市像を見通す広い視点から議論が求められるだろう。           (豊田哲也)

(参加者18名,司会:豊田哲也,記録:木村義成・根田克彦・山神達也)

2016.04.01  Comment:0
第57回 都市圏研究部会

共 催:経済地理学会関西支部,日本都市地理学研究グループ

日 時: 2015年12月5日(土) 13:00~17:00

会 場:新大阪丸ビル新館609号室
東淀川区東中島1-18-27、新大阪駅から徒歩2分 Tel: 06-6321-1516
会場へのアクセスは、以下をご参照下さい。
http://www.japan-life.co.jp/jp/buil/sinkan/map.html

テーマ:企業のグローバリゼーションと地域振興

オーガナイザー:日野正輝(東北大学)・西原純(静岡大学)・阿部和俊(愛知教育大学名誉教授)・藤塚吉浩(大阪市大)

報告と討議:

日系多国籍企業のアジア立地展開とサプライチェーン・・・・・・鈴木洋太郎(大阪市立大学)

Value Capture Trajectories and Strategic Coupling of Regions with Global Production Networks・・・・・Henry Wai-chung Yeung(シンガポール国立大学地理学科)

座長: 日野正輝(東北大学)、宮町良広(大分大学)

■日系多国籍企業のアジア立地展開とサプライチェーン
鈴木洋太郎(大阪市大)
本報告では、近年における日系多国籍企業のアジア立地展開とサプライチェーン(供給網)の特徴と動向について、産業立地論の観点から研究報告を行った。特に、日系アジア現地法人の原材料の現地調達と製品の現地販売が増大する「サプライチェーンの現地化」に着目して、研究報告を行った。
日系アジア現地法人が原材料をどこから調達するのか(現地からか、日本からか、第三国からか)、製品をどこに出荷するのか(現地向けか、日本向けか、第三国向けか)は、その日系アジア現地法人の役割を反映している。たとえば、原材料をもっぱら日本から調達しているのならば、日本の分工場的な役割を有していると考えられる。また、製品をもっぱら日本向けに出荷しているのならば、日本市場への輸出拠点の役割を有していると考えられる。
最初に、統計データを整理しながら、日系多国籍企業のアジア立地展開とサプライチェーンの特徴を述べた。日系アジア現地法人の仕入高内訳データと売上高内訳データから、2000年代以降、進出国における現地調達割合も現地販売割合も増加してきたことがわかる。特に、現地調達割合については、約40%から約60%へと大幅に拡大している。
日系多国籍企業のアジア立地展開は、労働指向型よりも市場指向型になりつつあり、「市場に関する立地環境」に注目すべきであることを指摘するとともに、日系アジア現地法人の現地調達と現地販売が増大する「サプライチェーンの現地化」の背景には、アジア新興国の大都市圏における産業集積の形成があることを指摘した。
 次に、筆者のインタビュー調査にもとづいたサプライチェーンの現地化についての事例研究を紹介した。現地の市場ニーズに対応した製品開発など日系多国籍企業(家電メーカー)のアジアでの現地販売拡大への取り組みについて述べるとともに、インドネシアとベトナムにおける家電マーケット面での立地環境上の特徴を比較検討した。
また、日系物流企業のアジアにおける事業展開として、インドネシアにおける自動車部品の物流事業のケースとタイにおける食料品の物流事業のケースを述べた。前者は、現地の日系部品メーカーから完成車メーカーへとミルクラン方式でのJIT(ジャストインタイム)物流を行っている。後者は、現地の食品メーカーからコンビニや飲食店への「コールドチェーン」(低温での保管・配送)物流を行っている。
最後に、サプライチェーンの現地化に対応しながら事業展開するための日系多国籍企業の課題として、日系多国籍企業のアイデンティティと「安全・安心・信頼のバリュー」の構築について論じた。

■Promoting regional development in a world of global production networks
Henry Wai-chung Yeung(National University of Singapore)   
In its World Investment Report 2013, UNCTAD estimated that some 80 percent of international trade was now organized through global production networks (GPNs) coordinated by lead firms investing in cross-border productive assets and trading inputs and outputs with partners, suppliers, and customers worldwide. If these production networks are indeed the organizational backbone and central nervous system of today’s global economy, how does a regional economy develop and thrive by taking advantage of access to markets, technologies, knowledge, and capital embedded in these chains and networks?
I believe regional growth and development can be sustained through a process of strategic coupling that brings together key actors (e.g. firms) and institutions (e.g. state authorities) in regional economies and global lead firms in those production networks. This process of mutual complementarity can work to the benefits of both regional economies and GPNs. The former gain employment, production knowhow, and market access. The latter become more competitive through efficiency gains and technological innovation.
In East Asian regions, my research has identified three forms of such strategic coupling.
1. International partnership: In the Taipei-Hsinchu region, this articulation has taken the form of domestic Taiwanese firms serving as strategic partners of lead firms in the global information and communications technology (ICT) industry. In Singapore, global lead firms have made a direct presence through inward investment. This international partnership with global lead firms, either through transactional relationships or direct presence, brings tremendous growth dynamics and development potential to global industries in both cases: the Taipei-Hsinchu region (e.g. electronics and ICT) and Singapore (electronics, chemicals, finance, and transport and logistics).
2. Indigenous innovation: The presence of the developmental state creates the possibility of indigenous innovation through sustained national efforts in developing new products and process technologies embodied in such organizational forms as national firms (e.g. Samsung and TSMC) and strategic industries (e.g. semiconductors). These are large lead firms emerging from decades of sustained industrial policies that work in tandem with the return of technological and business elites from advanced industrialized economies (e.g. the US). Indeed, some of these national firms have become lead firms in their own global production networks, underscoring the developmental possibility of increased autonomy and capabilities in East Asian regions such as Seoul Metropolitan Area (South Korea), Taipei-Hsinchu (Taiwan), and Singapore.
3. Production platforms: Since the early 1980s, developing regions such as China’s coastal regions, Malaysia’s Penang, and Thailand’s Greater Bangkok region have been strategically coupled with the huge demand for competitive production platforms by lead firms in GPNs. As production platforms, these regions provide very competitive cost structures, abundant labour supply, stable policy environment, fiscal and other financial incentives, and so on.
In short, strategic coupling is a selective process that incorporates only certain regional and GPN actors. It is unrealistic for regional policy makers and practitioners to expect such global-regional coupling process to be always inclusive; it is even more dangerous for them to rely exclusively on such strategic coupling as the only pathway to regional upgrading and positive development outcomes. There is always a critical role for regional institutions and groups of actors to engage in joint decision and collective action to mitigate the negative consequences of such GPN coupling and to consider a more balanced and equitable form of regional development.

■討論とまとめ
討論では,主として以下の点に関して質疑が行われた。
第1に,日系企業の進出先として、アジアを一括して扱うことに対する疑問である。例えば,アセアンは関税を排して一体化した地域とみなせ,アセアン内と外とでは取引が異なる。鈴木氏は,国と地域の違いを多様な側面から検討する必要があるがデータの限界もあると回答した。
第2に,日系企業のアジア進出における現地企業との関係と,現地への貢献に関する質問がなされた。日系企業は主として富裕層を対象にしているのではとの指摘がなされた。鈴木氏は,2000年以降日系企業による現地企業への調達への依存度が高まったことを指摘した。その背景には,進出先の国からの強い要望があり,それは自動車メーカーに対して強く,電器機産業ではそれほどでもなかった。また,日系企業は現地調達の際に,地域・国を使い分けている。アジアのレンタル工場では,1次下請けのティア1だけではなく,ティア2,ティア3と呼ばれる2次、3次下請けも進出している。最後に,BOP(Bottomo/Base of Pyamid)ビジネスに携わる日系企業は少ないが,インドネシアではBOPビジネスに近いことを行っている日系企業があることを指摘した。
第3に,グローバル生産ネットワークにおける国家・地域・都市政府の役割と,多国籍企業の役割に関しての質問がなされた。Yeung氏は,経済的価値を作るのは国家・地域・都市政府ではなく企業であると回答した。しかし,グローバル生産ネットワークにおける多国籍企業の競争は複雑化しており,現在の競争は企業のネットワーク間の競争である。多国籍企業は複数の国・地域を利用して,企業内,企業間,企業外における経済的・非経済的関係の中で競争する。なお,グローバル生産ネットワークとグローバルシティネットワークとは密接に関係し,多国籍企業の本社が置かれる都市がリーダーとなり,それはしばしばグローバルシティとなる。
第4に,グローバル生産ネットワークの中で,発展途上国が内生的に発展するためのカップリングの効果に関する質問がなされた。Yeung氏は,技術と知識に対する投資などにより,国際的比較により内生的競争力を発展できることと,日本の役割を保つために,グローバル生産ネットワークにおける新たな国際分業のあり方を模索する必要があることを指摘した。
(参加者33名,司会:日野正輝・宮町良広,記録:根田克彦)


2015.09.28  Comment:3
第56回 都市圏研究部会
(大会部会アワー)

日 時: 2015年11月14日(土) 11:00~12:30

会 場:大阪大学豊中キャンパス 全学教育推進機構講義B棟 B207
〒560-8532 豊中市待兼山町1番16号
会場へのアクセスは、以下をご参照下さい。
http://www.osaka-u.ac.jp/ja/access/toyonaka/toyonaka.html

研究発表:

都市の空間構造の変容と商業集積―「中心地―補完地域関係」から考える―
・・・・・・・・・千葉昭彦(東北学院大学)

趣旨:2014年に日本都市学会賞(奥井記念賞)を受賞した,千葉昭彦(2012):『都市空間と商業集積の形成と変容』原書房をもとに討議する。本書は,商業集積の盛衰をその補完地域に相当する住宅開発との関係で解明したものである。商業集積の衰退を都市構造の変化との関係で解明することにより,都市地理学の立場からまちづくりに取り組むための理論的枠組みを示した点で高く評価できる。

連絡先:根田克彦(奈良教育大学) E-mail: neda#nara-edu.ac.jp (#を@に置き換えて下さい)

<報告要旨>

■都市の空間構造の変容と商業集積―「中心地‐補完地域関係」から考える―
千葉昭彦(東北学院大学)
 クリスタラーの中心地理論では、供給原理に基づく中心地システムなどでその中心地の分布と補完地域の広がりが論じられている。しかし、これは静学的分析であり、擬制に過ぎないとしていて、現実を扱うのは動学的分析であるとしている。中心地の盛衰を補完地域の変化でモデル化すると、3つのパターンとなる。すなわち、人口が増加した場合、人口減少の場合、人口がほとんど変わらない場合である。以下、主として最寄り品取り扱いを念頭に置いて整理する。
 人口増加の一例として都市郊外での宅地開発を挙げることができる。これは、新たに補完地域が形成されることから中心地の発生をもたらす。特に面積が大きい開発地では、その販売促進に資するために開発地の個性化として商業施設の誘致もみられた。中小規模の宅地開発が多数みられる場合には、開発地の近隣で商業集積が形成されることもあった。これは自家用車普及等によって加速されることにもなった。なお、近年ではまちなか居住の増加に伴い、その近隣での商業施設の立地が目立っている。例えば、小規模スーパーや惣菜等の取り扱いを増やしたコンビニなどである。
 都市の外延的拡大が進む中、人口がそれほど増加しない地方都市などでは中心部での人口減少がみられ、そこでの中心商店街の停滞・衰退が進んだ。旧来の商店街では一定の業種が揃うことによって利便性が確保されていたが、ある業種が欠けることによって利便性が低下し、その商店街などの衰退が加速される。近年では郊外住宅地などでも人口減少・高齢化などの進行によって類似の動向がみられる。特に大型店の撤退・倒産などによって買物難民(弱者)問題が顕在化しつつある。
 人口に変わりがないとしてもその社会的属性が変化することが少なくない。従来専業主婦が居る核家族が中心であった地域の居住者が、単身化や共稼ぎ化するのに伴って、消費者が求める商品量、価格帯、商品内容、営業時間等に変化が生ずる。商店・商業施設がこの変化に適応できなければ受給間のミスマッチが発生することになり、買い物客は他の商業集積を選択することになる。このような状況下ではミスマッチを解消することが商店街の活性化につながると思われる。
なお、買い回り品の取り扱いのウエートが大きい商業集積地の場合、補完地域は広域になることが多い。そのため、人口の増減もその盛衰に影響を及ぼすが、同時に交通体系の変化、とりわけ道路網の整備などの持つ意味が大きいと考えられる。

■討論
根田克彦(奈良教育大学):補完地域について人口増減という観点で整理していたが,都市圏と対応する最高階層の補完地域を念頭においているのか,その他の階層のものも含めて考えているのか。
千葉:いずれの補完地域も視野に入っている。酒田や青森のケースは,最寄品を扱うことを想定している。仙台都市圏のような広い範囲を想定した場合,高速バスや高速道路の整備状況が集客に影響を及ぼしている。人口増減だけでなく,アクセスなどを考慮した交通体系も念頭におく必要がある。
根田:どちらかというと仙台は最高階層に位置する都市であり,仙台都市圏の中心地と想定できる。理論化する場合は,いくつかの段階に分けて考える必要はないか。
千葉:その通りである。
根田:鶴岡の例に関して,中心市街地と郊外とで需要の特性が異なることから,中心地と郊外大型店とですみ分けが可能という点は,ある程度,イギリスの場合と似ている。ただしイギリスでは郊外に計画的に配置されたスーパーストアが,その周辺の需要をまかなっている。一方で日本では立地規制が弱く,住宅地や農地のなかに立地する場合がある。そうすると,日用品や食料品などの需要を郊外全体では満たしているかもしれないが,公共交通や徒歩での利用を考えるならば,需要に対して供給が不足するエリアが生じるのではないか。すみ分けについて,全体的には可能かもしれないが,一方で,中心地論でいう中心地の配置を考慮すべきではないか。
千葉:すみ分けについて,仙台では明確である一方で,鶴岡や白川ではそうではない。後者の中心市街地では買回品と最寄品とが混在していることから,大型店の立地によって郊外に客を奪われてしまう。ただし,ここには客の居住地変化という動きもあり,当該客が中心市街地に求めていたものが変化していくことを考慮する必要がある。こうしたこともあって,すみ分けと明快に言い切れるものではない。このほか酒田の場合,中心部で大火があり居住者が郊外に移転した歴史をもつ。そのとたん中心市街地が衰退していった。これも中心市街地の補完地域が変化した例である。
荒木一視(山口大学):発表テーマから少しずれるかもしれないが,商店街を構成する個々の店舗の実状などについて,お聞かせ願いたい。
千葉:高齢化の進む住宅地の商店街の例になるが,ここは,かつて核家族世帯を客として商売していた。しかし,大学生など単身世帯が増えてきたため,客にあわせて商売のやり方を変える必要性がある。こうしたことを商店街で話す機会があったが,反発もあった。店主のすべてが,これまでの商売のやり方を変えることができるわけではない。この他,小学校や役所の近くで営業していた店舗について,少子化や役所の移転によって客が減少していた。ここでも,時代にあわせ閉店時間を遅くすることなどを提案したことがあるが,店主にも生活があり受け入れづらいものがある。ただし,偶然に遅い時間まで店舗を開けていた際に,以前から関心をもっていた近隣住民の来店があった。そうした状況を考えていく必要がある。
伊東 理(関西大学):どのような意味で補完地域を捉えているのか伺いたい。というのも中心地論の最近隣中心地利用仮説は,現代では自動車利用などもあり崩れてしまっている。また,中心地に対する補完地域それぞれは排他的ではなく重層的である。こうしたことを踏まえると,大型スーパーは近隣商業地をいくつも含むかたちで大きな補完地域をもつこと,また経営サイドからみると最寄品などを中心としたスーパーマーケットが典型だが,成立閾値が人口という観点でかなり上がっていること,こうした点を突っ込んで議論する必要はないか。また,政策などを考えるのであれば,衰退せざるを得ないところと,衰退させてはいけないところなど,中心地を選択的に考える必要はないか。現代的な意味合いで補完地域をどのように捉えれば良いのか伺いたい。
千葉:中心地や補完地域はモデルであり,それが現実にストレートに当てはまるわけではない。ショッピングセンター,食品スーパー,個人商店があったとしても,それぞれの消費者がそれぞれのニーズに合わせ店舗を選択するため,補完地域が重なっているのは間違いない。また,ショッピングセンターの利用においても,最近隣中心地利用仮説は成り立つのではないか。というのも,仙台で消費者の買物行動についてアンケート調査したことがある。それまで,既存のショッピングセンターに行っていた消費者は,近くにできた新規のショッピングセンターに行くようになった。身近なところを通り越して遠くに行くことは,一般的ではない。重層的であることにはかわりないが,原理原則的な傾向は認められる。もう一点,買物難民などの問題との関係から,「なくしてならない中心地」について政策的に考える必要性に同意する。イギリスで聞いた話だが,多くの財政を公共交通機関など様々なインフラ整備に投入した既存中心市街地について,それを無に帰すことは,社会的に不適切な選択になるという考え方がある。これは明らかに商業だけでなく都市空間の整備の問題でもあり,市場に任せれば解決される問題でもない。
伊東:もう一つ質問したい。ショッピングセンターのみを取り上げれば,最近隣中心地利用仮説が成り立つかもしれない。しかし,実際には自然発生的で非計画的な近隣商店街もある。そうした違いを考えることが重要ではないか。計画的なものと旧来からの非計画的なものとの競合を考えると,両者には圧倒的な力の差がある。
千葉:計画的なものが旧来からの近隣商店街に与える影響について,その妥当性を考える必要はあるし, 利便性における競合は間違いなくある。
根田(奈良教育大):イギリスの場合,都市計画においてセンターの階層構造がきちんと設定されている。都心を頂点とするクリスタラー的な階層構造に合わせるかたちで食料品や日用品などの必需品を取り扱うセンターが計画される。一方で,そうでないものは,これが適用されない。こうした点について,どのように考えるのか。
千葉:日本にはイギリスのような計画性はない。ただし,住宅団地のなかに商業施設が誘致されることは,民間の行為であっても,計画的な配置なのかもしれない。 ただし,民間であるが故に撤退などを制約できない。しかも,日本の住宅団地は高齢化が進展し,商業施設の撤退や倒産が発生するなど,利便性が十分でない地域が生まれる。商業政策の問題とはいえ中心地論の体系を想定した場合,それを維持するために補完地域の人口や地域社会のあり方を問う必要がでてくるのではないか。
駒木伸比古(愛知大学):日本の場合,郊外で誘致する自治体があると,大型店の立地もそれに従う傾向がある。日本の場合,政策的影響により,逆に補完地域を歪めるのではないか。
千葉:今回の報告では政策的な話に触れることはできなかった。日本の場合,十分にそれをコントロールするかたちではない。自由にやらせた結果としての現状がある。商業施設の立地とともに居住のあり方も考えないと,結果として不経済なかたちが生まれる。自由にやらせた結果としての買物難民や郊外の人口減少を,どのように考えるべきなのか。そこでの道路やインフラの維持に公的資金が必要となることなどを含め,きっちと考える必要がある。
(参加者25名,司会:根田克彦,記録:鍬塚賢太郎)
2015.09.28  Comment:0
第55回 都市圏研究部会

日 時: 2015年10月17日(土) 14:00~17:00

会 場:明治大学・駿河台校舎研究棟4F第2会議室
会場へのアクセスは、以下をご参照下さい。
https://www.meiji.ac.jp/koho/campus_guide/suruga/access.html

テーマ:現代都市の「住宅問題」―東京圏と地方都市

趣 旨:住宅をめぐる問題は,都市研究の重要テーマであり続けてきた。東京一極集中と少子高齢化の進展によって、住宅問題はその要因や帰結に地域差を孕みながら新たな局面に至っている。本部会では、東京圏と地方圏をフィールドとしてこれらのテーマに取り組んできた2名の研究者を招き、議論を深めたい。

研究発表:2000年代以降の東京都心部における住宅供給と人口増減の地域的対応
・・・・・・・・・・・・・・・・・小泉 諒(神奈川大学)

地方都市における空き家増加のメカニズム―宇都宮市を事例に―
・・・・・・・・・・・・・・・・・西山弘泰(九州国際大学)

連絡先:久木元美琴(大分大) E-mail: kukimoto#oita-u.ac.jp (#を@に置き換えて下さい)

<報告要旨>

■2000年代以降の東京都心部における住宅供給と人口増減の地域的対応
小泉 諒(神奈川大学)
 1990年代後半以降の東京都心部における人口増加や住宅供給,居住者特性に関して様々な研究が蓄積され,東京大都市圏の空間構造への影響が議論されている。本研究では,1990年代後半以降のマンション供給と人口動態を分析し,2000年代以降の都市圏構造への影響を考察することを目的とする。
 東京都心部における平均分譲価格と平米単価の推移を示すと,その関係の変化から,研究対象期間は3区分された。首都圏では,1994~1996年と1999~2005年には8万戸を上回る大量供給がみられたが,2006年以降は急減し,2009年には4万戸を下回った。その翌年には4万戸を回復したものの,供給は未だ低水準である。地域別の供給動向としては,埼玉県と千葉県におけるリーマンショック以降の回復の遅れが指摘できる。供給戸数を部屋数別にみると, 3LDKを典型とする3部屋タイプが全供給の約7割を占めているが,2006年以降は3部屋以上のタイプの供給戸数が大幅に減少している。
 また2000年代後半以降,地価上昇や建設費増大等により,都心部のみならず物件価格が高騰している。一次取得層向けとされる4000万円以下の物件が全供給に占める割合は2007年に50%を割り込み,2014年には33.1%にまで落ち込んだ。住宅取得を促進させる税制として,住宅ローン金利と最大控除額が市況を反映して変動しているが,最大控除額と専有面積平米単価の関係を分析すると,1990年代後半~2000年代前半と2000年代後半以降で異なる関係が示された。
 続いて住宅取得に重要な年齢層と指摘される30代と40代の人口動態(2014年)を分析した結果,23区全体としては流出超過であるが,都心3区や湾岸部など13区で流入超過であることが示された。住宅の所有形態別の平均世帯収入をみると,基本的に持家率と平均世帯収入には正の相関がみられるが,都心3区では高収入世帯の持家率が他地域に比べて低く,この地域における賃貸市場の果たす役割の大きさが示された。
 以上より考察すると,上記のような変化は特にミドルクラスのファミリー世帯の持家取得に影響を与えると考えられる。1990年代後半から2000年代前半は,複数の条件が重なったことで,それまで都心部ではみられなかったアフォーダブルな物件が大量に供給され,住宅取得税制の充実も相まって都心部での持家取得が可能となっていたといえる。しかし2000年代後半以降の住宅価格高騰は,都心部での持家取得を望む世帯に一層の世帯収入の確保を必要とさせ,共働きの必然性を高めている。そのため都心部での持家取得が困難と判断された場合,共働きの就業継続に困難が大きいとされてきた郊外で持家を取得するのか,それとも就業継続を優先し持家取得を先送りないし諦める等の判断に迫られると考えられる。このような状況は,居住地域構造をはじめ大都市圏構造へ影響を及ぼすと考えられ,今後さらなる分析が必要である。

■地方都市における空き家増加のメカニズム
―宇都宮市を事例に―
西山弘泰(九州国際大学)
 近年,空き家の増加によって発生する諸問題(以下,空き家問題)が社会的に大きな関心を集めている。国土交通省が行った試算では,2040年に全国で1335戸,約4戸に1戸が空き家になるという。この空き家問題は,2012年ごろからマスコミなどで大きく取り上げられるようになり,それに呼応するかたちで自治体も空き家の適正管理に関する条例を相次いで施行している。とはいうものの,空き家に対する関心がここ数年で一気にクローズアップされ,いわばブームやパニックの様相を呈していることは否めない。「空き家」という言葉の中身が全く整理されないまま一人歩きし,空き家に対するぼんやりとした不安が市民の危機感を煽っている嫌いがある。本研究は,空き家を詳細な実態調査に基づき,地方都市の空き家問題の本質は何かを明らかにするものである。
 本研究では,栃木県宇都宮市を事例とし,宇都宮市が2013年度に実施した空き家実態調査(空き家の悉皆調査)によって把握された戸建や店舗併用の空き家4,635件を対象に分析を行った。宇都宮市は東京から北方約100kmに位置する中核市である。人口は約52万人で,市域の大部分は平野か緩やかな丘陵地になっており,市街地の拡大が比較的容易なことが特徴といえる。また北関東工業地域の中核的な工業都市でもあり,郊外や市隣接地には大規模な工業団地や工場がいくつも立地している。
 まず,空き家実態調査による空き家の分布をみてみると,1970年までに都市化した地域,すなわち中心市街地とその周辺(以下,既成市街地)において空き家が多かった。では,どうして中心部で空き家が多いのだろうか。
 その要因は,第1に宇都宮市を含めた地方都市の住宅市場から説明できる。大都市圏はともかく,多くの地方都市では圧倒的に戸建住宅志向が強い。それは郊外において地価が安く,場所や住宅メーカーを選ばなければ1,000万円台で購入可能だからである。一方,既成市街地ではそもそも空き家を解消する上で重要な中古住宅の流通が少ないことに加え,ニーズに合致しない住宅も多く,価格も高い。
 第2に地方都市における都市構造の問題である。宇都宮市は道路交通網が高度に発達し,典型的な自動車依存都市である。郊外にはロードサイドの商店街が軒を連ね,自家用車を利用すれば短時間で複数の店舗を回ることができる。一方,既成市街地はスーパーマーケットなどの生活関連施設が少なく,生活が不便である。狭隘道路が多いことから自動車の利用にも適していない。
 以上のように,地方都市の空き家発生の最大の要因は,過度の自動車依存の交通体系とそれに合わせた生活関連施設の郊外移動による都市構造の変化である。そうした都市構造が居住の郊外化をより促進させることで,既成市街地の空き家増加を促進していると結論付けられる。この都市構造の変化こそが地方都市の空き家問題であり,今後の地方都市の持続可能性を揺るがす大きな問題となっていくことを危惧している。

■討論(AKは小泉氏,ANは西山氏の回答)
Q1(久木元美琴・大分大):(小泉報告に対して)東京圏において子育て世帯が住宅取得しにくくなっていることを指摘されたが,過去と比較した場合どのような違いがあるのか。また、他の大都市圏と比べて東京圏固有の状況とはどういうものがあるか。
AK:過去と現在の違いについては,東京圏においては東京圏出身者割合が非常に高く,そもそもの住宅取得の発地が大都市圏内であるという点で,郊外第1世代とは大きく異なる。また男女雇用機会均等法を背景に,女性のキャリア継続の実現可能性が高まってきたこともあり,女性の職の層が厚い。つまり高給女性も増加していることが,これまでとは大きく異なる特徴といえる。東京圏の固有性については,1980年代以降における東京一極集中が重要と思われる。特にハイクラスの女性の集中と,グローバルマネーの流入が,他の大都市圏にはない東京圏の固有の特徴と考えられる。
Q2(久木元美琴):(西山報告に対して)宇都宮市の空き家の事例が,他の同規模の都市においてどの程度普遍性をもつと考えるか。
AN:推測になるが,空き家の発生状況はある程度人口規模が関係するのではないかと考えている。また人口規模が小さくなれば,空き家率も高まると考えられる。今後,都市規模を変えて空き家の状況を検討することも必要になる。
Q3(久木元):(西山報告に対して)空き家の発生状況には,同じ都市規模であっても中心性の強さや隣接・周辺都市との関係なども影響しているのではないか。
AN:宇都宮の場合は,東京の影響が考えられる。
Q4(後藤寛・横浜市立大):(小泉報告に対して)マンションのストックが東京圏ではかなり蓄積されているが,このことがどのような地域差につながっていると考えるか。また今回の発表は,シンプルな同心円構造を念頭に置いているようだが,例えば京阪神圏では通勤流動が錯綜し,圏域が分極化している。こうした分極化の萌芽は東京圏ではどの程度みられるか。
AK:1990年代後半以降,シングル女性が都心の特定エリアで増加してきたが,近年はそうしたエリアでも家族向けの物件が供給されている。これは,従来の家族的因子の分布パターンを変えていくと考えられ,同心円構造もいっそう不明瞭になっているではないかと考える。また京阪神圏の分極化をふまえた比較検討は,今のところ実施しておらず,今後検討していきたい。
Q5(安倉良二・立命館大学・非):(西山報告に対して)宇都宮市中心部のマンション開発はさほど活発ではないとのことだが,コンパクトシティなど,行政による中心市街地活性化の取り組みはどうなっているか。
AN:中心市街地活性化には取り組んでおり,中心部での居住を促進するための家賃補助なども実施している。しかし,家賃補助の対象年齢を超えると郊外に居住地移動してしまうなど,十分な効果を上げていない。また宇都宮市が掲げるコンパクトシティはネットワーク型のものであるため,郊外にも配慮している。この結果,中心部に集中的に施策を行える状況ではなく,結果的に郊外への分散がすすんでいる状況である。
Q6(川口太郎・明治大):(西山報告に対して)用途地域ごとの空き家の発生状況に違いはあるのか。また専用住宅と店舗併用住宅では空き家発生プロセスが異なると思うが,この点について教えてほしい。住宅所有者へのアンケートも実施されたようだが,そちらの結果についても教えてほしい。
AN:用途地域ごとには分析していないので詳細はわからないが,宇都宮市の用途地域の特徴として,建蔽率が緩やかな用途地域が多いことが挙げられる。これも中心部において空き家が多いことの背景にあるのかもしれない。専用住宅と店舗併用住宅の比較は,今回は分析しておらず,今後検討したい。住宅所有者へのアンケートでは,不明が5分の1とかなりの割合を占めている。また複数の空き家を所有する者が非常に多く,この大部分は貸家であった。これは,1970年代に工場労働者向けに大量に供給されたものであり,この貸家が放置されて空き家化するという状況もある。空き家発生の理由で最も多いのは,借りていた人がいなくなること,次いで所有者の死亡(相続),子どもの元や施設への移動と続く。空き家の定義も住宅所有者によってまちまちであり,住宅・土地統計調査などと同様の結果は得られにくい。
Q7(久木元):(西山報告に対して)空き家問題の焦点化には,政治的な背景があるのではないか。
AN:あるのかもしれない。例えば,限界集落として報道されている山村集落であっても,実際には耕作放棄地も空き家も少ないということもある。
Q8(中川聡史・埼玉大):(小泉報告に対して)今回の報告のマンション供給には分譲だけでなく賃貸も含まれているのか。人口増減からみると,分譲だけでなく賃貸も重要であるし,分譲でも投資用に購入するケースも多いと考えられる。
AK:今回の報告は,データの制約上,持ち家のみを取り上げている。中古や賃貸も取り入れていくべきであると考える。
Q9(西山弘泰・九州国際大学):(小泉報告に対して)東京23区では中古物件がファミリー層の受け皿になっていると思われるが,これはどの程度の割合になっているか。
AK:中古物件はデータをとりにくいという問題があるが,約15%という報告があり,決して小さくない数字である。
Q10(荒井良雄・東京大):(小泉報告に対して):タイトルに東京都心部とあるが,分析では東京23区を対象としている。実際,23区でも都心区と周辺区とでは大きく異なる。この報告ではこれらをどのように区別しているか。また現在の居住を過去と比較検討する場合,両時期の住宅取得行動モデルを同一のものと考えるのは難しいと思われる。例えば,結婚年齢,住宅取得コストなどは現在と30年前とでは大きく異なる。
AK:23区を一つとしてみることには限界があるが,今回の分析は東京圏という大きなスケールで検討するものであるため,あえて形式地域として一つにまとめた。今後,東京23区に着目した分析を行う際には,分譲マンションの分布をもとにして区別していきたい。住宅取得行動については,全体的にライフステージ進行が遅れていることが,特に男性においては影響を及ぼしている。
Q11(川口太郎):(小泉報告に対して)現在の東京圏において割合が高まっている東京圏出身者は,結婚直前に親元に住んでいることが多い。こうした人々が結婚して住宅を探す際,実家の場所が重要な意味を持つ。これが高度経済成長期の住宅取得行動とは大きく異なる条件ではないか。
AK:高度経済成長期には,不動産価値が上がっていったため,住宅取得したほうが資産の総量が大きくなると言う,住宅取得のための誘因があった。しかし現在は,新築で購入しても数年後には価値が大幅に下がるため,マンションを購入する最後の後押しが弱いといえるのではないか。その際に,実家の場所は購入物件の選定に影響を及ぼすと考えられるので,今後検討を進めたい。
Q12(久木元):(小泉報告に対して)現在は,非正規雇用化,給料の上昇が見込めないことなど,住宅取得のコスト感が増しているように思えるが,一方で30年前は物価・給与の上昇と同時に非常に高い住宅ローン金利によるコスト感があった。こうした点を比較検討することも重要と考える。また,東京圏内部におけるライフコースの地域差の検討も重要であろう。
AK:その点も重要と考えているので,今後検討を進めたい.
Q13(荒井良雄):(西山報告に対して):賃貸用住宅の扱いについて,入居者がいないケースも空き家としてカウントされる。これは空き家問題と言うよりは,住宅需給のアンバランスの問題と言えるのではないか。また空き家発生の要因として,就業地の郊外化等を挙げているが,これは空き家発生が顕著になる以前から生じている現象であるため,直接的に空き家発生と結びつけるのは難しいのではないか。むしろ,都心空間が更新されないことが大きいのではないか。
AN:ご指摘のように,賃貸で空き家になっているものは他の空き家とは性格が異なるので,分けて考えるようにしたい。空き家発生要因について,中心部において,デベロッパーがマンション開発を行うメリットがあれば,空き家は解消されていくと思われる。しかし,そのようにはなっておらず,人々は利便性を求めて郊外へと移動していくため,空き家は増加していると考えられる。
Q14(根田克彦・奈良教育大学):(西山報告に対して)中心部では,家主が賃貸料を下げないし売りたがらないため,不動産価格が下がらないという問題もある。これも中心部衰退の要因の一つと言えるのではないか。もう一つ,イギリスの例を挙げると,住宅市場において中古物件が多く,10年後,20年後の人口予測に基づき,新築住宅の建設数は制限されている。同様の政策が日本でなされる可能性はないのか。
AN:住宅市場における民間の力がイギリスと日本では違っており,日本では規制が緩く,民間任せになっているところがあるため,新築住宅が増えていくのではないか。また日本の住宅はスクラップアンドビルドが中心であることも,ヨーロッパとは異なる点である。
Q15(熊野貴文・京都大・院):(小泉報告に対して)東京23区の住宅密集地において,木造賃貸住宅が新たな一戸建て住宅に細分化されているようなケースがあれば教えてほしい。
AK:東京23区は地価が高く,一戸建て住宅の供給には大きな制約になっていると思われる。供給された一戸建て住宅もかなり狭いものが中心である。木造賃貸住宅の密集するエリアは所有関係が複雑な場合が多く,そのような事例は非常に限られていると考えられる。
Q16(熊野貴文・京都大・院):(西山報告に対して)宇都宮市において,民間の分譲業者が参入して空き家が更新されるような事例はあったのか。
AN:中心部において,大規模な空き家をパワービルダーが取得して数棟の住宅を建てるという事例はある。

(参加者17名,司会:久木元美琴,記録:稲垣稜)
2015.07.04  Comment:0
第54回 都市圏研究部会

日 時: 2015年4月25日(土) 14:00~17:00

会 場:京都市生涯学習総合センター山科(アスニー 山科),ラクト山科C棟2階
会場へのアクセスは、以下をご参照下さい。
http://web.kyoto-inet.or.jp/org/asny1/yamashina/yamashinatop.html

テーマ:大都市の商業空間

趣 旨:日本の商業地の性格は非常に多様である.とりわけ大都市においては,多様であるだけでなくその変容も著しい.本報告では,主要な大都市を事例として,商業地の多様な側面と変容過程について議論する.

研究発表:現代における商業集積地の特徴と役割―商業空間の歴史的変遷を踏まえて―
・・・・・・・・・・・・・・・・・牛垣雄矢(東京学芸大学)

都心商業地周辺に誕生する新しい商業地について―80年代の大阪・アメリカ村を中心に―
・・・・・・・・・・・・・・・・・吉本勇(就実大学)

連絡先:稲垣稜(奈良大) E-mail:inagakir#daibutsu.nara-u.ac.jp (#を@に置き換えて下さい)


<報告要旨>

■現代における商業集積地の特徴と役割
―商業空間の歴史的変遷を踏まえて―
牛垣雄矢(東京学芸大学)
 近年におけるチェーン店やショッピングセンター(以下,SCとする)の増加により,日本の商業空間の性格は大きく変化している。本発表では,各学問における盛り場論やSC論等を整理し,日本の商業空間の伝統的な性格とその変化を検討するとともに,現代における同業種型商業集積地の特徴と役割を検討する。
 日本の近世盛り場では,火除地というオープンスペースにおける人々の自由な活動により,見世物・飲食等の屋台ができ,様々なレクリェーションが行われた。そこは老若男女が身分を問わず自由に出入りができ,人々は雑然とした雰囲気を五感で楽しみ,ユーモラス・グロテスク物や変態見世物にも寛容的であった。
 明治期に入ると,違式詿違条例等によって盛り場における自由な振る舞いが否定された。見世物小屋の病理は追放され,盛り場は清潔という記号が支配する秩序への転換が生じ,多様な機能を有していた道路も交通機能に限定されて賑わいを失っていった。大衆メディアが場所を規定し,映画館の登場は劇場における人と人との関わりを喪失させ,用途地域制に基づく土地利用の分化と路面電車の敷設は目的に応じて商業地を使い分ける消費スタイルの変化をもたらした。一方,百貨店や商店街の誕生により「ぶらつき」という消費スタイルが生まれ,女性や子供が重視されるようにもなった。しかし近代化に際して全体的発想に基づくバロック的都市計画を経なかった日本の都市では,空間は不特定多数の人々の思惑によって形成され,土地や建物は依然として小規模であった。商業地の店舗構成は雑多で,人々はその雑踏の雰囲気や呼び込みの音,食べ物の匂いなどを五感で楽しんだ。政策では意図しなかった民衆活動によって賑わいを創出・維持させてきた商業地も多く,日本における伝統的な商業空間が継承されている面もみられた。
 一方,近年は国内外におけるチェーン店の進出により,大都市の商業地を中心に取扱商品・景観・人間関係の均質化が進み,人々の空間的経験も均質化している。また大規模商業施設やSCの増加により,少数の大企業が空間を支配・管理・演出することとなった。SCでは秩序・清潔・安全という記号が重視され,意図しない人々や振る舞いは事前に排除されるなど,自由は制限されている。このように,空間形成に対する小規模な主体の影響力が小さくなり,本能をさらけ出し五感で楽しむ空間を失い,消費文化が一部の専門家によって創出されることは,日本における都市空間の文化が喪失することを意味する。また国や世界スケールで空間的差異がなくなることや,あらゆる決定が現場から離れた本社で行われることは,商業に関する地域性と多様性が失われることを意味する。
 一方,同業種型商業集積地は,多数の小規模な店舗が自然発生的に集積して形成された商業地であり,挑戦的な商品が扱われるために消費者は商品を発見する喜びがあり,比較購買欲求が高い業種の場合は「ぶらつき」を楽しむことができ,商品を介した客と店員との関わりがあり,悪所的性格を有する場合もある。これらの店舗の受け皿となるのは裏通りの雑居ビルである。この空間的性格は,日本における伝統的な商業空間に似ている。世界各地の多様性や空間的差異が重要とされる今日において,同業種型商業集積地は日本の商業空間における数少ない差別化された空間であり,かつ日本の都市空間の文化が反映した空間でもあり,重要な役割を担っている。

■都心商業地に誕生する新しい商業地について
―1980年代の大阪・アメリカ村を中心に―
吉本 勇(就実大学・人文科学部)
 1980年代に東京や大阪などの都心商業地や既存の商業地などの隣接地域や周辺地域に,流行に敏感な若い消費者若者をターゲットとした商業地が誕生していた。これらは都心商業地における地価や賃貸料金の高騰の影響などの理由もあった。当時は感性豊かな若い経営者によるブティックやセレクトショップ,飲食店が点在するに過ぎなかった。(出現する時期や拡がりには地域による差は生じているが)やがてそれらの店舗が点から線,さらに面へと拡大するに至った。本報告ではいくつかの都市の代表例を紹介した。それらは既存の商店街名や通り名,町名から新しいネーミング(カタカナ名が多い)が付けられ,多くのファッション誌やタウン情報誌などで取り上げられるようになるとともに広域から消費者を集めるようになった。(やがて店舗数も縮小あるいは消滅した通りもあるが)広域中心都市や県庁所在地にも出現していった。東京の明治通り,表参道,青山通りに囲まれた裏原宿がとくに有名である。大阪では今回取り上げた心斎橋商店街から西へ御堂筋を越えたアメリカ村が当てはまる。
 アメリカ村のある炭屋町エリアは1970年頃までは,心斎橋にある店舗の倉庫や駐車場,事務所,住居などが混在する地域であった。1969年に三角公園前にカフェ「ループ」が後にアメリカ村の母と呼ばれる日限萬里子氏がオープンしたことから若者の街としての歴史が始まった。店の存在は口コミで拡がり,ファッション好き,音楽好きな若者が集うようになった。70年代前半頃から三角公園周辺にアメリカ帰りの男性が民家のガレージで服や雑貨を売ったことやアメリカ西海岸ブームが起こったことからサーフショップや中古サーフボード,古着屋などが次第に集積していった。その頃からアメリカ村と呼ばれるようになり,78年にはNHKの番組や新聞,雑誌に取り上げられ,若者の街として定着した。83年には「ループ」の常連客であった黒田征太郎氏による街のシンボルとなる鳥をモチーフとしたイラストの壁画が描かれた。80年代から90年代にかけて大手資本のチェーン店の進出,93年には中学校の跡地にファッションビルが誕生するなどアメリカ村は大衆化が進み,来街者層も拡大していった。最近では北欧の人気雑貨店の日本1号店,ハワイの人気パンケーキの店・関西1号店の進出によりその傾向が一層強くなった。もはや若者を中心とした特別な街としてのイメージは薄れた。また従来の中心であった(消費対象や販売商品,店構えはかつてのアメリカ村と異なるが)個性的なセレクトショップや,ブティック,飲食店などは西側の四つ橋筋を越え,かつては家具屋街であった立花通り(現:オレンジストリート)周辺へとその中心が移動していった。一方では心斎橋筋東側に存在し,商店街を挟んだアメリカ村とは対照的な洗練された店構えや商品構成が特徴であり,DCブランドブームとともに登場したヨーロッパ村(通り)は,バブル崩壊,DCランドブームの終焉によって,存在感が消失した。
 街の基盤となる歴史特性や立地環境のほかに,新しい街の知名度向上に貢献した先駆者的な人物や店舗の存在や来街者の特性によって注目され,将来性と人気に目を付けた核となる大型店舗や大手チェーン店の進出などによって街の質の変化や拡散が見られる。関西地方では都心商業地周辺では90年代以降から現在までに,神戸のトア・ウエスト,乙仲通り(栄町)や大阪・キタの茶屋町,ミナミの南堀江,南船場などが注目されるようになった。またこれらのエリア外でもメディアに登場している街も少なくない。街の動きから目が離せない。

■討論(AUは牛垣氏の,AYは吉本氏の回答)
山神達也(和歌山大学):今回の発表における同業種型商業集積地や大規模商業地は東京などの大都市のみを対象とした議論であると捉えてよいのか?
AU:そのようになる。
鈴木英之(ファインアナリシス):伝統的盛り場は現存するのかしないのか。また,伝統的盛り場と秋葉原のような同業種型商業集積地はどちらも「人との出会い」という要素があるなかで,両者の違いはどこにあると捉えているのか。
AU:伝統的盛り場は前近代ないし近代初期のものと捉えており,現存しないと考えている。その中で,同業種型商業集積地には伝統的盛り場の要素がある程度残っているのではないかというのが本発表の趣旨である。また,後半の質問に関し,伝統的な盛り場であれば偶然の出会いがあるものの,秋葉原は個の欲求を満たす空間という側面が強い。ただし,同業種型商業集積地のなかでも秋葉原と原宿では違いがある。
安倉良二(立命館大学):まず牛垣先生に伺いたい。日常生活に関わる近隣型の商業空間をどう捉えているのか。また,ショッピングセンターや地方都市の議論が混在しているように感じるが,この点はどう考えるのか。次に,吉本先生に伺いたい。80年代の商業地でどのようなものが現在まで残っているのか,残っているものに共通するコンセプトのようなものはあるのか。
AU:日常の最寄り的な商店街は対象外とし,買い回り的な商業地を念頭においた。
AY:1980年代のもので現在に残っているのは,商品が山積みになっているバザー的なイメージを出した小売店である。それが当初のアメリカ村のイメージであり,バザーのようなごちゃごちゃした空間がそのまま現在でも残っていると考えられる。
長尾謙吉(大阪市立大学):商業集積の基本タイプが異業種型である以上,異業種型商業集積に関するカテゴリーが必要ではないか。それがあったうえで同業種型があると考えられる。また,大規模商業地が自然発生的とあるが,日本の場合,「自然発生的/計画的」というのが大都市の大規模商業地の特徴ではないかと考えるがいかがか。
AU:異業種型がベーシックではないかというのはご指摘の通りである。本発表では,大規模商業地とSC・SMを異業種型商業集積地と認識している。次に,日本の大規模商業地について,鉄道の敷設が計画的に行われるものであり,その後に自然発生的に商業集積が形成されるとみなすことができ,「/計画的」という言葉が入るべきだということか。
長尾:再開発するにしても,歴史を組み入れながら,大都市ターミナル周辺は大きくなっきた。
AU:そう考えれば,ほぼすべての商業集積が計画性をもって形成されていると考えられる。
長尾:梅田や難波は明らかにそうだけれども,心斎橋などは計画的なものが入ってきても大きくは変わらない。梅田は都市計画的なこともあるし,阪急・阪神等の主体側の計画が大規模に入ってきているのではないか。
AU:ご指摘の通りであり,大規模商業地でもいくつかのパターンを設ける必要があるが,その点は今後の課題にしたい。
澤端智良(ライオン株式会社):10年くらいマーケティングの実務をしてきた立場からみると,ターゲット側の観点から商業集積地を分類できそうである。ターゲットに焦点を当てた商業集積地の分類が学問的な概念として提唱されているのであれば教えて頂きたい。次に,吉本先生にお伺いしたいのが,1990年代から2000年代にかけて,雑誌などのメディアとの相互作用で街が形成されてきたというイメージがあるが,近年では,雑誌メディアが衰退してきている。一方,編集されたもの以外のメディア,例えばSNSなどによって街のイメージや状況に何か変化がみえてきているか。雑誌がつくってきたものとは違う街の動きがあれば教えて頂きたい。
AU:同業種型商業集積地や異業種型商業集積地などは,主に商業分野を中心とする商業集積論でそれらのタイプがどういう特徴をもっているのかということが議論されている。
AY:メディアについて,例えば南堀江では,ファンクラブやファンの人々のネットワーク,フェイスブックなどを通じて人が集まっている。他の店舗でも同様の事例がある。ただし,雑誌メディアは衰退している面もあるが,地域限定型の雑誌や食べ物の本などターゲットを細分化した雑誌が刊行されている。雑誌メディアがなくなったわけではない。
根田克彦(奈良教育大学):まず,先ほどの質問にあったマーケティング的な要素を入れた商業地の類型について。顧客との関係から商業地を捉える場合,地理学的な観点からどのような定義になるのか,またその構築に向けて何か考えていることがあるのか。次にチェーン店について。近年,イギリスでも,都市計画のなかでチェーン店をある程度排除すべきという議論がある。その際,その地の歴史に根差したローカリティを形成して他の街との差別化を図るために,中小独立店を大事にしようという動きがある。そのなかで,秋葉原のような歴史性との関係がそれほど強くない同業種商業集積地におけるチェーン店をどう考えるのか。それから吉本先生に関して。若者向けを目指したストリートがほぼ全滅したとのことだが,それは地方都市の大型店が戦略として進めてきたものが崩壊していると考えられるが,その崩壊の理由はどのようなものか。
AU:1点目について,これまでは主に商学分野での概念を使用してきたが,商学分野では空間的ないし実証的な研究がなされていない。また,地理学での商業集積地の捉え方については現実的な答えは用意できていない。2点目の歴史性のない場所でのチェーン店の存在について,秋葉原には地域の力と呼べるものがあり,チェーン店による均質化が進んでいない。そのような点に同業種型商業集積地の特徴があると捉えている。
AY:地方都市の裏側的な所など壊滅していないところもある。地方都市でも,駅前の再開発ビルや郊外の大型店では,かつての商店街がそのまますっぽり入ったような展開になっている。そのような大型店の戦略としては地元の店舗を誘致しており,街中にあった地元の商店街がテナントとして入っている。また,かつての商店街の役割を大型ショッピングセンターの専門店街が果たしており,映画館も本屋も家電製品も衣服もテナントとして入っていることが理由だと考えられる。
山田 誠(龍谷大学):盛り場や商業集積地の構成要素は物品販売と飲食娯楽とに区別できる。京都の四条周辺の場合,以前は映画館もあったが多くは小売店であった。しかし,最近では小売店の閉店が続き,遊興施設や飲食店に変わってきている。こういった物品販売中心から遊興・飲食へのシフトはよくある事例なのか。またその要因は,どちらがより儲かるのかという単純なものと考えてよいのか。
AU:秋葉原の場合,ラジオ・家電からパソコン,そしてアニメ関係へという小売店中心のなかで,メイド関係の店舗や飲食サービス店が増えてきた。そういう点で,同業種型商業集積地という表現も再考する必要がある。ただ,秋葉原の小売店の場合,家電やパソコンなど技術的な知識を要するような分野から,アニメという技術的な知識が不要な分野に変わったことが大きな変化である。また,技術的な知識がなくても買いまわるという行動が多い点で,同業種型商業集積地ということに問題はないと考えている。しかし,秋葉原では,飲食やサービス店が増えて買いまわるという行為が少なくなっており,同業種商業集積地として過渡期にあるのではないかと考えている。
AY:アメリカ村や南堀江,南船場を見ていると,かつては同業種型の商業集積地に近い性格を持っていたのが,徐々に衣料の小売店などが混在するようになった。時代とともに他の業種が入ってきて,客層も広がりを見せるようになってきている。
長尾:今の議論において,消費者側の行動からみると,異業種型というのは違うものを色々買うのが基本であるのに対し,メイド系にしても電気系にしても,同じ系統のものをいろいろ比べるところに同業種型の特徴がある。その点で,秋葉原も日本橋も同業種型の特徴を強く残していると解釈できる。
中野雅博(立命館大学):学生を連れて,アメリカ村や心斎橋を歩くことがあり,近年の変化を見ていると,これから先に対する不安がある。心斎橋では江戸時代から続くような老舗がどんどん撤退し,全国チェーンの店が出てきている。郊外の駅前などにも多く出店しているチェーン店が心斎橋にある理由は何か。また,このような店で買い物するためにわざわざ心斎橋まで出掛ける人がいるとは思えないことから,市場分割のような形で今の盛り場を考えることができるのではないか。もう一つは,アメリカ村から拡散して南堀江などがある。また,昔のアメリカ村にあった熱気が今は心斎橋にあるように感じる。これからの街はどのような方向に進んでいくのか。
AY:奥渋,渋谷の奥では,かつてはファッション関連やIT関係の店舗があったが,それが少なくなり,普通の住宅地の中に飲食店などが点在するようになっており,そういう場所が注目され始めている。規模は様々だが,駅前から奥側へ広がっていくという流れがあり,消費者が新しいところを開拓する傾向がある。一方,従来の商業集積地ではチェーン店だらけになっているところがある。商店街,アーケードには人が集まり,来訪者を目当てとしてチェーン店が集まり,またそれが新たにチェーン店を引き付けるという傾向がある。
AU:チェーン店について,例えばユニクロは銀座で国内最大級の店舗を構えており,ユニクロという企業ブランドの一部を形成している。そういう意味で,銀座はその時代その時代の勢いのある企業が入ってくる時代の鑑であると言われている。心斎橋でも同様の動きがあるかもしれない。
中野:銀座のユニクロは旗艦店である。一方,各種の安売りチェーン店が心斎橋にあることをどう考えるのか。
AU:低価格化が進んでおり,むき出しの市場原理が都心に押し寄せてきたという議論がある。比較的多くの繁華街で低価格チェーン店が入り込む状況が見られる。
長尾:心斎橋の場合,外国人観光客,特に中国人観光客の流れが圧倒的に多い。そういう商店街ではチェーン店が立地するメリットは大きいという面がある。
稲垣 稜(奈良大学):まず吉本先生の発表と関連し,名古屋の四谷など,1980年代に流行したが1990年代以降に衰退した住宅街の中のファッションタウンがある。現在ではファッションタウンも都心に回帰する傾向があるように感じるが,その点をどう考えるか。それから牛垣先生の議論について,中小小売店が独特の商品を売っているのが同業種型商業集積地である一方で,郊外大型店などでチェーン店の影響を受けた中小小売店は同じようなものを売っている印象が強い。品揃えが少ないのが中小小売店の問題の一つだとすると,その背後にあるメーカーや卸売との関係が大きいと考えられる。中小小売店だと自分たちで商品を調達する能力が弱く,卸売に依存する傾向がある。このような観点から商業集積地をみる研究はあるのか。
AY:四谷について,ファッションタウンといっても,郊外では,駅の近辺の中小小売店や外車のディーラーなどが多い中にぽつぽつとあったという印象であった。駅ビルなどができる過程で,郊外の街的なものは中途半端になってしまった。あと,タウン的なもの,ぽつんと単独店があってその周りに小売店が集まるものがあった。先日,ブルーボトルコーヒーの日本1号店のある清澄白河を訪れたが,住宅街に一軒だけで立地し,そこに行列ができていた。周囲に小売店は全くないところでも行列ができて人が集まっている。このように,街を形成するに至らずとも将来的には成り立つ店舗がある。
AU:例えば,裏原宿を対象とした研究では,ファッションとそれをつくるメーカーとの関係が議論されている。また,秋葉原の場合,個人レベルの作者の存在やそういう人々によるイベントなどが街に大きく影響していることがオタク論で議論されている。こうした点も踏まえつつ,中小の小売店の背後にあるメーカーや卸売の影響についての議論は今後の課題としたい。

(参加者21名,司会:稲垣 稜,記録:山神達也)

2015.02.02  Comment:0
人文地理学会 大会部会アワー

第53回 都市圏研究部会

日時:11月9日(日):15時45分~17時15分
会場:広島大学東広島キャンパス

テーマ:『よくわかる都市地理学』刊行をめぐって

趣 旨:本年3月、ミネルヴァ書房の「やわらかアカデミズム」シリーズとして『よくわかる都市地理学』が刊行された。執筆陣は都市地理学研究者46名からなり、本分野でこれほど幅広い専門家によりまとめられた入門書は初めてと思われる。平易な記述ながら最新の研究成果も取り入れられ、都市地理学研究の全体像を俯瞰することが可能となった。今日における都市地理学の到達点を確認し、今後の研究や教育の課題を展望するため、本書出版の趣旨について編者から説明を聞き、その内容や意義について参加者で議論をおこなう。

話題提供 藤井正、神谷浩夫

連絡先:豊田哲也(徳島大学)toyoda[at]ias.tokushima-u.ac.jp


<報告要旨>

■挨拶と趣旨説明
豊田哲也(徳島大学):学問が主張するためには,スタンダードな教科書が不可欠である。研究の魅力を広く発信しないと,学問の発展はない。都市地理学の成果を広く共有し,発信するスタートとして本書がある。さらに,本書を活用して広めることも必要である。そのために,次の3点の論点に関して議論したい。
論点1 都市地理学の射程と本書の到達点。本書の構成と内容を振り返り,本書の都市地理学の概説書としての意義と課題を考えたい。
論点2 大学の地理学等の教育における本書の活用法。実際に教科書として利用した経験や活用方法などの情報を共有したい。
論点3 アカデミズムや社会への情報発信。社会・人文科学を視野において,本書をいかにアピールするかを考えたい。

■論点1 都市地理学の射程と本書の到達点
藤井:本書の構成は次のとおりである。
 第1章:都市地理学の視点で全般的な話で,後半は地理学的に都市を研究するために必要と考える地形や災害,景観など。執筆者は地理学者か地理出身者だけ。
 第2章:オーソドックスな教科書的な内容。従来の理論などを概観。
 第3章:現代の都市空間の形成の地理学的視点。
 第4章:都市空間の形成メカニズムの内容。
 第5章と6章:現代的なトピックに対する地理学的なアプローチ。
 第7章:これからの都市ビジョンの地理学的な観点からの取組み。
神谷:今気になるのは,他のシリーズと比べると章を細分しすぎたかもしれない。トピックごとに焦点はある。教科書として用いるには,使いにくいかもしれない。また,第1・2章で地理学史,後半がトピックという構成は,バランスが取れていないかもれない。
涌井:ミネルヴァ書房から発行されたこのシリーズは,一般に2ページ1項目であるが,本書は3ページとコラムというふうに工夫をこらしていただいた。本書は辞典としても利用できることが重視され,トピックが多くてもいい。項目を互いに関連させながら使いやすいやり方で使って頂ければいいと思う。
藤井:ここで,本研究会前に寄せられた,本書に対するコメントを紹介したい。好意的意見として,多くの項目がコンパクトにまとめられており,都市地理学の全体像を把握できる,隣接分野の研究者に都市地理学を認知させるために有効な本であるなどの意見があった。一方,批判点としては,都市地理学との言葉になじみのない学生が購入しにくいのではないか,初学者には難解な記述の項目があるなどの指摘があった。また,半期の授業では使いこなせない分量であることと,今の学生に最初から順に読ませることが困難であるので,学部の授業には使いにくいとの指摘があった。また,都市の政治の項目がないとの指摘があり,内容をどこまで広げるかは難しいと感じた。
阿部和俊・愛知教育大学・名誉教授:本書の刊行を歓迎する。このシリーズに,都市地理学が入ることが社会にアピールする。朝倉書店のシリーズでは,都市地理学という項目はなかった。本書はボリュームが多くて学部1・2回生には無理との指摘があったが,それでいい。教員が自分の使える部分を深く説明して,学生が関心を持たせることができればいい。それが卒論を考えるきっかけになれば,本書は成功である。
戸所 隆・高崎経済大学・名誉教授:多くの項目をコンパクトにまとめている。しかし,一つの項目が濃密であるので,教員が相当補足して説明しなくてはいけない。学部と大学院で使い方が異なり,項目ごとにどう組み合わせて講義をするのか,工夫が必要。本書は資料集としても,教科書としても使える。ただ,この本1冊あれば,他の地理の本が不要となる恐れがある。

■論点2 大学の地理学等の教育における本書の活用法
豊田:上記で,論点2とも関係している発言があった。論点2関して,授業で取り上げた方はいるか?
藤井:論点2に関して,本書に対するコメントを紹介したい。次のようなコメントがあった。本書のターゲットは地理学や地域政策専攻の学生であろう。他分野の初学者に都市地理学を紹介するために適切な教科書である。社会科学に強いミネルヴァ書房から出版されたことは強みである。一方,全体構成がオムニバス的で,各項目のページ数が少ないので授業で用いる際には説明が必要であるとの意見と,授業の際に,複数の項目を組み合わせて教員が説明するほうがいいとの意見があった。この点に関して,編者は,各ページの横に注を入れ,関連項目をできる限り入れ,参考文献も充実させた。さらに,索引も作成したので,関連項目を組み合わせることは容易と考える。
中澤高志・明治大学:本書は高度すぎて,私の所属する経営学部の授業では使えない。非常勤先のゼミで使っている。ゼミで卒論の発表の後で,その卒論と関係する部分を説明する。本書を部品として用いて授業を組み立てることは可能だが,さまざまなトピックをカバーしているので,辞書的な使い方ができるし,1項目が2ページほどであるので授業の余った時間を利用して説明もできる。
豊田:2ページほどしかない1項目だけでも,内容が濃いので90分の授業で使うことはできる。その場合,半期の授業で本書をすべて使わないことになるので,学生にとってお得感があるか疑問がある。
涌井:コラムがたくさんあることが本書の特徴といえる。地図と図版が多いので視覚的にアピールできる。同じシリーズの都市社会学の場合は,写真などが多かった。
戸所:よくできていると思うが,他の学問分野との関係が書かれている部分で,他の分野の影響を受けたことが触れられている。しかし,地理学が他分野に影響したとの視点の書き方が少なかった。本書の最初の部分で,地理学が他分野にプッシュしていることを示してほしかった。都市計画の場合,都市計画が地理学に影響を与えていると思っている人が多いが,都市計画は地理学の理論を用いている。地理学が他分野に影響できる点を強調する必要がある。

■論点3 アカデミズムや社会への情報発信
豊田:上記の発言から,論点3となった。地理は他分野の成果を取り入れることは熱心だが,発信することも必要である。
藤井:地理学が他分野から吸収した時期もあったが,編者としては,地理学的な観点のアピールをするとのスタンスで本書を作った。だからこそ,基礎的理論を最初に扱い,現実の都市を分析する第3章と第4章を経て,最後に,将来の都市を考える際に,地理学の手法が有効であることを主張した組み立てとしたつもりであった。
豊田:学問間の勝ち負けの問題ではないと思う。現実の社会問題に有効な処方箋を示せるかどうかが重要である。
戸所:地理学は勝たなければならない。大学で地理学のポストは減っている。たとえば,地域政策の場合,地理学が中心であることを主張する必要がある。地理学が主張しないと,学生は地理学が他の学問のしもべみたいであるとの感想を持つ。
桐村 喬・東京大学:工学部に所属するので,私の周りには都市地理関係者がいない。都市地理学から言いたいことはあるが,どうせ地理でしょ,といわれる。都市工学や都市経済学の人々は都市地理学の内容を知らない。他分野に地理学が貢献することをアピールすればいいと思う。
須田昌弥・青山学院大学:本書を一人で書けと言われて,書ける都市地理学者はいないだろう。都市経済学の場合,教科書でも単著が多い。その差は,理論体系を1つ持つかどうかの違いだろう。地理学の場合,理論はともかく,フィールドに出ろと言われる傾向がある。しかし,地理学にも他学問に影響を与える例は多い。中心地理論は経済学に影響を与えているし,ヘーゲルシュトランドが交通計画に影響を与えている点もある。そのような例を特集することがあってもいい。
長尾謙吉・大阪市立大学:私は都市地理学を担当しないので本書を授業で使うことはできないが,2ページでまとまっている本書のトピックをコピーして配る際には有用である。なお,地理学は多様であり,軸を一本化することは難しい。経済学は軸があるが細かい点は,自分でやれとの風潮がある。学問の特性の違いはあると思う。
神谷:地理学が社会にアピールする点では,本書で,都市地理学のコンテキストの中で理論と実践を整理することもできたかもしれない。
千葉昭彦・東北学院大学:現代のトピックを扱う点は,今までの教科書に比べると画期的である。他の分野がやっているとみなされるトピックを,都市地理学から扱うことができることをアピールする。そういうことにより,都市計画や社会学などとつながっていくと思う。それにより他学問に従うというより地理学が広がると思う。地理学は開かれた学問であるが,本書の後半のさまざまなトピックを広げるだけなら種々雑多で終わる。これを第1章と第2章と関係させると,地理学の根本との関係が見えてくるだろう。本書は教える側の力量により,うまい使い方ができると思う。
由井義通・広島大学:教育学部にいると都市地理学のような特化したことを教えることは難しい。他分野との関係では,地域研究の国際学会で発表すると,地理の人はなぜ発表しないのかといわれる。地理学会だけではなく,他分野の学会で地理学をアピールする必要がある。ハウジングの研究では,地理の定義がそのまま使われている。都市地理学は他分野でアピールすることができる。本書はその際に有用だと思うが,使い方は今後考える必要がある。
若林芳樹・首都大学東京:地理学者ではなくても地理的なセンス・地理的見方を持つ人がある。地理学から,それらの研究に地理学の学問的裏付けを示す必要がある。その際に本書は有用である。
山内昌和・国立社会保障人口問題研究所:人口の推計を扱う中で,地域の問題はクローズアップされている。しかし,地理学的に考えると当たり前と思えることが当たり前ではないことが多い。経済学と社会学には,地理的見方がないことを感じる。本書は人口に関するトピックも多いので,紹介しやすい本でもある。
小泉 諒・首都大学東京・研:本書で地理学が広い可能性があることを再確認できた。都市関係の学生に,持たせたい本である。都市地理学だけではなく,都市関係の卒論を書こうと思っている学生に,本書は有用である。

■まとめ
豊田:これから,本書を広く読んでもらう工夫が必要である。地理学が開かれた学問で多様性が強みであることを,他分野に対してアピールする必要もある。
藤井:都市で考える地理学的研究でも,それが有効ならば都市を考える研究の際にも有用なツールとなる。地域を考える研究と,地域で考える研究との関係のように扱う必要があろう。都市の人口の研究の際には,農村の人口移動も当然考えなければならないことと同様である。
神谷:地理学から情報を発信するためには,他分野の学問の情報を十分に理解する必要がある。それにより,他分野の不足点を指摘し反論することが,他分野へのアピールの有効な方法である。
(出席者27名,司会:豊田哲也,記録:根田克彦)

2014.09.02  Comment:0
第52回 都市圏研究部会
共 催:経済地理学会関西支部

日 時: 2014年10月4日(土) 13:30~17:00

会 場:神戸大学梅田インテリジェントラボラトリ(梅田ゲートタワー8F)
大阪鶴野町郵便局の北にあります。会場へのアクセスは、以下をご参照下さい。
http://www.b.kobe-u.ac.jp/access/osaka_room/
阪急「梅田」駅徒歩3分、JR「大阪」駅徒歩7分。入口がわかりにくいのでご注意ください。正面入口が閉まっているときは、夜間通用口でインターホンを押してください。

テーマ:シンポジウム「持続可能な大都市のものづくりと街づくり」

趣 旨: 脱成長社会を迎えた日本における持続可能な都市空間の形成に関する議論にあたっては、生産機能の持続性の検討は欠かせない。そこで、都市経済の持続的発展の方向性を模索するために、主として産業集積、都市の外部経済の実態、都市の工業空間の変容、生産機能の多様性および、都市の創出するイノベーションについて議論する。

オーガナイザー:日野正輝(東北大学)、西原純(静岡大学)、阿部和俊(愛知教育大学名誉教授)、石丸哲史(福岡教育大学)

話題提供者(発表順):

東京のものづくり産業集積の現在――大田区を中心に――
・・・・・・・小田宏信(成蹊大学)

東京城東地域におけるものづくり作家の増加にともなう皮革産地の変容
・・・・・山本俊一郎(大阪経済大学)

アニメーション産業集積におけるスタジオの役割:スタジオM労働者の転職行動を事例に
・・・・・・山本健太(國學院大學)

ポスト・パネルベイの大阪湾ベイエリア
・・・・・加藤恵正(兵庫県立大学)

コメンテーター: 長尾謙吉(大阪市立大学)、森山敏夫(尼崎市経済環境局)

座長: 伊藤健司(名城大学)、石丸哲史(福岡教育大学)

連絡先:豊田哲也(徳島大学) E-mail: toyoda#ias.tokushima-u.ac.jp (#を@に置き換えて下さい)
    石丸哲史(福岡教育大学)E-mail: ishimaru#fue.ac.jp (#を@に置き換えて下さい)


<報告要旨>

話題提供
■東京のものづくり産業集積の現在――大田区を中心に――
小田宏信(成蹊大学)
東京の製造業集積は,各経営の規模こそ大きくないが,日本の経済発展を下支えするとともに,インナーエリアでの健全な経済社会の保持にも重要な役割を果たしてきた。そして,今日,大都市労働市場の二極化が懸念されるなかにあって,製造業の現場における雇用は引き続き維持されなければなるまい。とは言え,経済のグローバル化の一層の進展と,団塊世代の技能工の引退に伴って,集積の弱体化がいっそう進んでいるのも事実である。本報告では,東京城東地域(台東区・墨田区など)と東京城南地域(大田区を中心に)を対比しつつ,ものづくり産業集積の動向を紹介し,「産業のまちづくり」を考えるための素材を呈示した。
城東地域の産業集積は,周知の通り,日用消費財産業を中心に発達してきた。今日では,問屋やメーカーが海外からの製品調達を進め,量産の場としての役割はもはや終焉しているが,小量品・サンプル品の製造では重要な役割を果たし続けている。また,近年では行政によるクリエーター,デザイナーの創業支援が奏功して,既存の加工技術の集積の上に,よりデザイン・インテンシブな方向にシフトしつつある。また「モノマチ(=ものづくりのまち)」のイベント開催などを契機にして,産業地域社会として地縁的な生産結合が再生する兆しもみてとれる。
他方,城南地域では,かつて「自転車ネットワーク」と表現されたような近隣レベルでの取引関係が弱体化していることは否めないが,「一括受注」業態の出現などの新たなネットワーク化の傾向や,新たな技能者養成の取り組みが見られる。また,大田区産業振興協会は「攻めのグローバル化」ともいうべき戦略を押し進め,区内企業の各国への市場アクセス強化を支援してきた。そして,羽田空港隣接地には「羽田グローバルアライアンスセンター(仮称)」の設置計画が動き出している。こうした取り組みが,アミンとスリフトの言うような「ネオ・マーシャル的なノード」の構築に可能とし,グローバルな知識流動のなかに城南産業集積を結びつけることができるのか,今後とも注視していく必要がある。
城東,城南に共通して,両地域ともさまざまな手段によって「ものづくり」を自産業外の人々に向けて可視化しようという指向を有している。このことは,取引上のマッチングや消費需要の喚起のみならず,次世代の技能者の育成にとっても有意義な取り組みであろう。

■東京城東地域におけるものづくり作家の増加にともなう皮革産地の変容
山本俊一郎(大阪経済大学)
本研究は,第一に同和産業という側面から研究対象として扱われることが少なかった東京都墨田区木下川(きねがわ)皮革産地の生産構造と現状を把握し,第二に,近年,いくつかの企業が産地外の若いものづくり作家との結びつきを重視し,新たな付加価値の形成を目指している点を明らかにする。
きねがわ皮革産地は,高度経済成長期に豚肉消費と皮革需要の増大により拡大してきた。1949年に58社であった革鞣し業者は,1990年には113社まで増大した。現在でも,豚革生産では全国の約8割を当該産地が占めている。しかしながら,バブル経済崩壊以降,当該産地は急激に衰退する。その背景には,安価な輸入皮革製品の増大による原材料の過剰があり,また3k職種のため労働者確保が厳しい点などを指摘できる。近年では,グローバル市場における皮革需要の増大から,と場から仕入れた原皮を鞣すことなく,塩漬けのみで輸出する傾向が常態化しつつある。これにより,当該産地における豚革生産量は最盛期の年間120万枚から2013年には3万枚へと激減している。生産構造は崩壊しつつあり,廃業した工場跡地には住宅が建設され,産地は工業地域から住宅地に変わりつつある。
そのようななか,近年,企業ブランドの構築に積極的に取り組む企業がみられる。原皮処理の仕上げ加工,染色・箔加工などを行うA社は,若いクリエイタ―とのつながりを重視している。創業支援施設である台東デザイナーズビレッジの入居企業との取引や,専門学校生をインターンシップで受け入れるなど,新たな取引先を開拓するとともに,企画開発・デザイン力を向上させている。B社は,皮革の鞣製・染色・仕上げ加工を行っているが,ファッション関連企業,専門学生,地元小中学生など,年間2千人を工場見学会に受け入れている。さらには,墨田の皮革産業を活性化し,産業と地域に事業者のみならず地域の人々が誇りをもてるようなまちづくり活動の推進のために,NPO法人「革のまちすみだ」を設立している。
このように,産地内の生産機能の縮小によって外部との新たなネットワークを構築せざるを得ない状況は,外部住民からの社会的隔絶と内部的に閉鎖されてきた(隠されてきた)空間を,良質な豚革を生み出す生産地として,開放的な(積極的に売り出す)魅せる空間へと変容させつつある。

■アニメーション産業におけるスタジオの役割
山本健太(國學院大學)
アニメーション産業は,労働集約的な生産工程を有し,国際分業構造を発展させるなど,製造業的特徴を有する。その立地は日本では東京西郊外に集中している.その理由のひとつとして,当該地域の有する専門的で柔軟な労働力の存在が挙げられる。
本発表では,このような産業構造と立地の特徴を有するアニメーション産業の集積に対して,スタジオがどのような機能を有するのか検討する.あるスタジオ(2011年解散)に所属した労働者を事例として,彼らの生産活動の実態,技術習得機会や移籍行動に着目する。調査は当該スタジオに所属した労働者10人を対象としたアンケート,聞き取り,参与観察であり,2009年から2014年まで数度にわたり行われた。
 対象となった労働者は,末端の生産工程を担う「動画」および,生産スケジュールの管理,半製品の輸送を担当する「制作進行」から構成される。彼らのスタジオでの活動状況をみると,動画労働者は数日間にわたりスタジオに滞在していた。また,仲間の労働者とのコミュニケーションや助言,指導を通して技術習得していた。制作進行労働者は,主として夜間に仕事をするが,その間数度にわたって近隣に立地する取引先スタジオやスタジオ外の労働者のもとを訪れていた。また制作進行労働者と生産部門労働者の間では,納入品の品質や生産スケジュールなどについて,活発な意見交換がなされていた。
スタジオ解散にあたり,労働者は移籍を迫られた。動画労働者はスタジオ外の「師匠」や以前共に働いた仲間を頼った。制作進行労働者は,所属スタジオ,取引先のプロデューサーや制作部門労働者,以前同じスタジオに所属した制作進行労働者の紹介により,移籍先を見つけた。制作進行労働者の中には,自身が窓口となって仕事を斡旋している労働者を伴って移籍したものもあった。
これらからスタジオの有する機能として,以下の2つが指摘できる。ひとつは,創造性発現の場としての機能である。異なる技術を有する労働者が,ともにスタジオで働き,意見交換をする。労働者はこの仲間とのつながりを通して,技術を習得していく。いまひとつは,人脈形成の場としての機能である。同じスタジオに所属した労働者,他スタジオの労働者との間には,日々の取引を通じて,徒弟や顔なじみという親しい関係が形成される。このような人的つながりが,労働者に次の働き場所を見つける機会を与える。
本発表では,このような機能を有するスタジオを「Creative Nexus(創造的な結節点)」(Yamamoto 2014)と位置付けた。東京西郊外では,労働者を介して創造的な結節点のネットワークが構築されており,労働力の再生産と,産業集積が促されている。
引用文献
YAMAMOTO, Kenta 2014: The Agglomeration of the Animation Industry in East Asia. Springer.

■ポスト・パネルベイの大阪湾ベイエリア
加藤恵正(兵庫県立大学政策科学研究所)
2011年10月,パナソニックは薄型テレビ事業を縮小することを発表。同時に尼崎臨海部に立地するプラズマディスプレイパネル工場の休止を決めた。同時期,薄型パネルに命運をかけたシャープの液晶パネル旗艦工場である堺も操業の大幅な見直しが行われた。パネルベイ盛衰の背後に潜む変化は,大阪湾ベイエリアがもともと有していた地域経済構造の課題をなお克服できていないことを示唆している。本報告では,まず大阪湾ベイエリアに組み込まれたロックイン構造上の課題を整理したうえで,新たな創造的都市空間への展開への視点と政策について検討を行った。
制度革新(社会イノベーション)を怠れば,地域経済がもともと有していたダイナミズムは消失し,地域は衰退する。その象徴が大阪湾ベイエリア(旧阪神工地帯)であった(加藤2014b)。ラスト・ベルト(古い産業地域)再生は,先発工業国共通の悩みであったが,旧阪神工業地帯を核心とする大阪湾ベイエリアは,わが国においてもっとも早くラスト・ベルト化した産業地域であった。1970年代から世界的に顕在化したラスト・ベルトの衰退は,複数の“負のロックイン”が絡まってその再生を妨げていることが明らかになっている(Hassink,R.2005)。大阪湾ベイエリアでは,機能・制度・空間とう3つの負のロックイン構造が存在している(Katoh,Y .2013)。機能・制度面からの検討はこれまでにもあり,現在も継続的な分析を行ってきている。本報告では,空間的な課題を2つのインナーシティという視点を視座としたものである。
 ブランチ経済の再来が懸念される現下の大阪湾ベイエリア臨海部の経済状況を鑑みつつ,ここに隣接するインナーシティ(住工混在地区)の加速度的変容が大阪湾ベイエリア全体の構造的“進化”に及ぼす可能性とこれに関わる政策のあり方について事例地区の抽出・アンケート/インタビュー調査によって明らかにすることを試みた。かつて,産業衰退の象徴であったラスト・ベルトの背景には,臨海部とインナーシティが隔絶し,一体化した形で都市経済の競争力が発揮できない状況にあった。それは,臨海部とインナーシティが空間的に分断されていると同時に,有機的連関性という意味でも各々が孤立していたことにある。その意味で,大阪湾ベイエリアの経済的競争力は,これら2つのインナーシティを多様な形で巧みに結びつけ,その相乗的効果によって大阪湾ベイエリア全体に創造的・革新的活力を導出することによって醸成されるといってよい。本調査は第一次調査終了段階にあり,第二次調査による地区変容などに関わる検討とこれに基づく政策提言を予定しているところである。

■コメント:縮小化のものづくりと関係性の再編
長尾謙吉(大阪市立大学)
 縮小傾向が続いているとはいえ,日本の大都市圏は製造業の役割が他の先進諸国に比べて大きい。その意味で,本シンポジウムは非常に意義のある企画と言えよう。
 まず,オーガナイザーに投げかけた質問は,「街づくり」という表現から「工場街」を対象と想定しているのかということであった。また,「脱成長」という表現が用いられているが,フランスなどではセルジュ・ラトゥーシュの議論のように単に成長が鈍化しているだけでなく,社会の方向性を意味しているので注意が必要であろうと指摘した。
 小田報告と山本俊一郎報告は,東京のインナーエリアの集積地区を対象に,縮小化での新たな取組み,とりわけ付加価値をいかに生み出すのかを検討する興味深いものであった。地区を形成する領域的なまとまりは弱まる面もあるが,広域的なネットワーク形成も進んでいる。東京に比べて大阪は,技術志向が弱く商い志向が強く,かつ地理的分化度が弱く,集積地区の特徴をつかみにくいことから明確な方向性を持つ研究を行いにくいことが討論を通して認識できた。
 山本健太報告は,アニメ産業のスタジオの役割を通じて,創造的な活動を行う人々が実際にどのようにつながるのか検討し,具体の研究に乏しい欧米圏の研究とは異なる研究成果を提示した。労働市場からみると,東京西郊における集積は,低賃金で働く若者が家族との同居でやりくりする状況があり,大都市圏内格差と絡めた研究も期待したい。
 加藤報告は,単に工場立地を追跡するだけでなく,大阪湾岸の斜陽化する工場地域とインナーエリアが重なる地域の状況を明らかにするものであり,都市政策にとっても意義のあるものであった。企業の成長・衰退と地域経済・社会との相互作用をさらに検討するための題材が多く提示された。
 4報告は「縮小化のものづくりと関係性の再編」を共通して論じ、それぞれ研究や政策にとって大きな意義を持つものであった。残念ながら「持続可能な」という部分については,十分な報告と討論がなされなかった。今後の課題としてのさらなる企画を期待したい。

■コメント:大都市圏ものづくりの持続可能性とは
森山敏夫(尼崎市役所経済環境局長)
シンポジウムでは,ものづくりの多様性を受け入れる土壌が,大都市圏にあることは示されたが,一方で,その受容性をいかに活かし,持続可能なものにするかが問われた。
地域経済は時々刻々変化している。大都市圏のものづくりは,各々の都市圏で異なる性格を持っている。主要業種,企業規模,取引関係,経営判断情報へのアクセス,消費者や雇用者との関係などなど,一概に述べることは難しい。しかし,中小製造業の集積地は,グローバル化による生産機能の効率化・採算重視のなか,かつての住工調和が,本当の意味での住工混在に変化しつつある。土地利用分析のみを見れば同じ事象かもしれないが,企業間や地域住民との親和性を持った多様性や環境面での同質性を共有する地域が,純粋な意味での住工の機能分離に至り,ものづくりの街としてのつながりが希薄化している。
報告は,二つの方向を示していた。一つは,大都市圏の消費力や情報集積力などの質を活かす新展開,もう一つは製造業集積の経営変化へのネットワーク化である。近隣地域的な町工場の集積は,大都市圏の知的想像力や質的消費購買力との結びつき,個々または協業による技術的優位性を強める中で,騒音振動悪臭などの環境問題に対し,新住民とも調和し存在していかなければならない状況にある。大都市圏において,成長している企業の特徴として,環境制約の考慮,市場占有率や技術的優位性の維持,地域における雇用力などがあげられる。
行政は,経営の柔軟性を持つ中堅企業や中小企業が,地域の雇用,地域での社会的価値を生み出す存在である限り,大都市圏の街づくりにとって必要不可欠なセクターと考えている。そのため,中小企業や地域の現状を把握し,産業振興を図る使命がある。企業実態,企業の地域との関わり方,また都市計画ゾーニングが適切に機能したのか,経過を知り,それを問うことなしに,PDCAのPは有り得ない。立地方策,事業支援方策,そして雇用能力開発方策による総合対応が求められる中,状況把握が重要となる。
最後に,この領域の調査研究が進み,行政にフィードバックされることを大いに期待いたします。

■総合討論
総合討論において,次の二つの課題から議論がなされた。
第1に,ものづくりを生産機能としていかに残すか,という課題である。この点に関して,脱成長社会では生産サイクル全体の海外移転がどの程度進んでいるか,少子高齢社会では将来低賃金労働力が不足する可能性があることが,フロアから指摘された。それに対して,話題提供者から下記の発言があった。
山本俊一郎:10年前とは異なり,金型産業の技術は中国で向上し,自動車産業も海外に移転した。本当に優秀な技術を持つ一部の機能だけが,日本に残っている。
山本健太:クラフト的なことに,若者は興味を持っている。すなわち,バブル経済経験者とは異なる価値観で,好きなことを作ることに生きがいを持つ若者が,日本では生じている。彼らは,親と同居しているために今のところ経済的にひっ迫していない。
加藤恵正:大阪ベイエリアは海外移転が顕著だが,このことは日本経済と地域経済との結びつきで考える必要がある。貿易赤字は先進国の宿命で,問題は海外からお金が流入しないことである。そこで政府は外資系企業を誘致しているが,それは不可避であり,大阪ベイエリアもこのような国の課題に対処する必要がある。また,労働力は高賃金労働力と低賃金労働力に二極分化しており,高付加価値型の労働力を推進する必要がある。
第2に,ものづくりとまちづくりとをどうつなげるか,という課題ある。これは,生産と消費との関係,生産と文化との関係ともいえる。それに対して,話題提供者から下記の解答があった。
小田宏信:ものづくりを可視化する必要がある。アーバンツーリズムと関係づけて大田区を見てもらい,ものづくりを大都市から消さない工夫が必要である。すべての労働力が高賃金労働力になれるわけではないので,ものづくりは低労働力にとって必要である。
山本俊一郎:ものづくりは現代アート的な側面を担い,地域に溶け込むサービス的な要素が必要である。それが豊かな都市につながる。
山本健太:観光は重要だが,見せ方の工夫が必要である。生産現場を見せるだけではなく,サザエさん,ジブリの森のような生産とは直接関係のないような見せ方もある。どのような街をつくりたいか,地域の人の考えを聞く場を設ける必要がある。
加藤恵正:ものづくり産業ではなく,仕事があり生活が豊かになることが重要である。最終的に産業の存在は,市場が決定する。東京のアートの町は羨ましいが,高付加価値の商品を購入できる層が存在するから,それらは存立できる。地域経済を支えているものは何か,真剣に議論する必要がある。日本は現在,東京対その他のエリア,との構図になっている。関西は,関西としてどうするかを考える必要がある。
最後に,コーディネーターの日野正輝(東北大学)氏から,製造業事業所が減少しても,高付加価値の産業を中心とする経済構造に変化する場合は衰退とはいえない。その状態を日本の都市で持続することができるなら,それを新たなモデルとして世界に提供できる可能性があることが,総括として指摘された。
(出席者51名,記録:根田克彦)

2014.05.17  Comment:1

第51回 都市圏研究部会
共催:政治地理研究部会

日時:2014年7月26日(土)午後1時30分~4時30分

会場:大阪市立大学文化交流センター大セミナー室
〒530-0001 大阪市北区梅田1-2-2-600 大阪駅前第2ビル6階
https://www.osaka-cu.ac.jp/ja/about/university/access#umeda

発表:政治制度からみた現代の都市問題-都市の境界を考える(仮)

発表者:砂原庸介(大阪大学)

要旨:橋下徹大阪市長によって提案された「大阪都構想」は、しばしば橋下市長
の政治手法と関連付けられて、熱烈な賛美や強烈な批判を受けている。しかし、
そういった賛美や批判とは別に、「大阪都構想」によって提起される都市自治体
の境界の見直しは、少なからぬ現代の都市自治体が抱える問題、すなわち社会経
済的な圏域と政治的な決定単位にズレが生じているという問題をあからさまにす
る重要な論点であると考えられる。本報告では、大阪都構想をめぐる議論の経過
を踏まえつつ、都市自治体の境界がどのように問題化されるかについて、いわゆ
る二元代表制や地方議会の選挙制度といった政治制度の観点から議論する。

コメンテーター:畠山輝雄(鳴門教育大学)、豊田哲也(徳島大学)

参考文献:砂原庸介(2012)『大阪―大都市は国家を超えるか』中公新書

連絡先:山崎孝史(大阪市立大学)yamataka[at]lit.osaka-cu.ac.jp


<報告要旨>

■研究発表:政治制度からみた現代の都市問題―都市の境界を考える
砂原庸介(大阪大学)
 ヒト・モノ・カネの集積地である大都市は、国家にとって「金のタマゴ」を産むニワトリだと言える。国家はその大都市が生み出した貴重な税収を配分するが、大都市に対して強い規制を加えて苛烈に税を徴収すれば大都市の経済成長を阻害する。反対に大都市を放任して税の使い道をその自主性に委ねると、大都市は国家の統制が及ばないほどに自律性を強めて、他の地域から不満が表明されることになるかもしれない。
大都市には、一方でヒト・モノ・カネが集積する都市中枢機能を整備し、それを流通させる交通機関を整備することが、他方で貧困や環境問題などいわゆる都市問題を解決することが求められる。一般に大都市には都市政策を通じて独自の発展を目指しつつ、このような都市問題を自律的に解決することを求められる。しかし、国家にとって大都市が「金のタマゴ」を産むニワトリであるとするならば、都市政策の自律性は単純にひとつの大都市の判断に委ねられる問題ではない。大都市についての意思決定は大都市それ自体の他に、府県のようなより広域の自治体、さらには国家の利害が関連するのである。
成長を続ける大都市は、その政治・行政的な境界を超えて領域が拡大するという問題を常に抱えていた。都市の中心部は住宅などのコストが高く、都市に流入しようとする人々は都心よりも少し離れた郊外に住む。大都市はそういった郊外の人々に住宅や交通の手段を提供してさらなる成長を求めようとする。その時の伝統的な手段は、郊外地域を大都市自治体に編入し、大都市として統一的な都市計画を設定するというものであった。
郊外地域を編入して大都市を拡張していく手法は、大都市の強い自律性を前提としているものでもある。大都市がその域内の都市計画や徴税の権限を集権的に保持し、都市政策の成果として得られた税収をさらなる成長のために再投資していく。戦前日本の六大都市が国家に対して「特別市」として一般の自治体と異なる扱いを求めたのは、大都市の発展のために一般の自治体とは異なる強い権限が必要だったからである。
しかし日本では、大都市に対してそのような権限はなかなか与えられてこなかった。戦後には大都市が合併によって郊外地域を編入する手法が認められず、さらには都市計画が国土計画の下位計画として位置づけられ、大都市は自律的な都市政策の手段を封印されながら、ヒト・モノ・カネの集積地として生み出される成長の果実の多くが他の地域に移転されることになった。
拡張を止められた戦後日本の大都市は、内向きな傾向を強めていく。地方議会の選挙制度として現住の人々の利益を追求しやすくなる中選挙区制が取られていたこともあり、大都市にさらにヒトを呼びこむよりも、現にそこに住んでいる人々のための生活インフラの整備が進められていくのである。さらには、大都市と共存する広域自治体である府県が、主に大都市外の地域の発展を企図した政策を進めようとする。しかもこの財源は、主に大都市での法人税収をもとにしたものであり、府県内での大都市からそれ以外の地域への財政移転という性格を持っていた。集権的な都市政策の担い手がない中で、大都市の中枢機能の更新・整備が立ち遅れ、1970年代以降に大都市への人口流入が減少することとあわせて大都市の経済成長が頭打ちとなっていく。
2010年に大阪府の橋下知事(当時)が打ち出した「大阪都構想」には、このような大都市が抱える閉塞を打開しようとする狙いがかいま見える。すなわち、実質的に大阪市外の大きな部分(=大阪府)を大阪市に編入するとともに、「大阪都」に権限を集中することで実効的な都市政策を実施することを目指すというものである。もちろん、大阪市を拡張するのに大阪府という範囲を全て編入するのは大きすぎるという批判はありうるが、府県の境界を変更するというセンシティブな問題を回避するというメリットも理解できるだろう。現存の境界を問いなおすことなしに、大都市に関わる意思決定の方法を再編成しようというのである。
他方で「大阪都構想」は、特別区への権限移譲や大阪市が行う事業の民営化という権限を分散させる志向も持っている。中核市並みの権限を持った特別区を設置するとか、地下鉄・水道事業を民営化するという主張である。このような独立した意思決定主体を設定すれば、大都市単位での都市政策の実現を困難にする要素となることが考えられるが、「大阪都構想」の中ではその調整の費用がどの程度になるものかはほとんど意識されていない。敢えて言えば、大都市と特別区や民営化された企業が、大都市の発展という共通の目的のために協働することを暗黙の前提にしているということだろう。
「大阪都構想」に対して国家の側は「大都市地域特別区設置法」を制定し、大都市制度改革の可能性を開いたが、その反応は冷淡で、積極的に大都市に対して権限を移譲しようというものではなく、むしろ「特別区」を設置することによって大都市の権限の集権性を更に弱めようとしているようにも見える。高度経済成長期・バブル期を経て経済成長が伸び悩む中で、経済成長のエンジンとしての大都市に期待が高まると考えられるものの、国家としては大都市に積極的に権限を移譲して、自律的な発展を求めるということにはなっていない。
このように国家の中で大都市をどのように位置づけるかの議論が進まないのは、大都市の境界線を巡る制度が柔軟性を欠く中で、大都市・府県・国家という自治体の異なるレベルを超えて大都市を議論する政治的な対立軸が明らかでないからである。それぞれのレベルで既存の自治体の境界を前提として分立的な意思決定を行なうために、自治体という枠では議論が困難な「大都市への集約」について適切な選択を行なうことが難しい。このような問題を議論するためには、そもそも人々がどのように大都市の問題を選択するか、という選挙制度の問題から考え直す必要があるだろう。

■コメントと発表者のリプライ
畠山輝雄(鳴門教育大学、政治地理研究部会):大阪都構想において,大阪市を5つに分区し分権化を図ることは,既存の公共サービスの利用を限定化させコスト増が生じるだけでなく,NIMBY施設の立地調整も困難をきたす可能性があるなど,必ずしも「納税者の論理」にはならないと考えられる。また砂原氏は,大阪都構想の実現に関して大阪府と大阪市でねじれている議会動向に対して,比例代表制の導入など政党が前面に出るような改革の必要性を指摘したが,国や自治体での抵抗勢力との調整など課題は大きいといえる。
豊田哲也(徳島大学、都市圏研究部会):都市地理学的視点から言うと、大都市の経営には社会経済的条件から生じる困難が存在する。その第一は、大都市の実質地域としての都市圏と形式地域としての行政市との間に、大きな乖離が存在することであある。大阪市では昼間人口が夜間人口より33%も多く、それだけ過大な行政需要に応えざるをえない。第二に、大都市の多様性の裏に潜む貧困と格差の問題である。富裕層が郊外に流出し税収は減少する一方、社会的弱者の滞留が財政支出の増大を招いており、大阪市や隣接する門真市、東大阪市では歳出額の2割以上を生活保護費が占めている。現在の大阪都構想がこうした構造的問題を解決できるか、さらに議論を深めていく必要がある。
砂原: (畠山コメントに対して)選挙結果のどこまでが「民意」かという議論をしようと思うと制度の議論が必要になる。一人区の多い府議会選挙と中選挙区制の市議会選挙では出てくる結果は異なる。中選挙区制では有権者の集合的利益がどう反映されているかがわかりにくく、首長がそれを体現するというような話になり、今のような首長と議会の対立が発生する。サービス供給面で分権化する必要がないという点は同意できるし、特別区を導入すると区単位での対立が強くなりやすいので、比例代表制のように区の領域を超えた政党への統合をうながす選挙制度に変える必要があろう。(豊田コメントに対して)1970年代に市域拡張するチャンスがあったが逃している。大阪市の人口比重が大阪府に対して小さく、府議会に占める大阪市選出議員の数も少ない。したがって府政に大阪市の利害を反映させることが難しい。都市と農村の経済格差・再分配の問題は難題だが、都市による農村の搾取とは別に、都市が政治勢力を結集し、国政に利害を反映できる制度になっていなかった。これを都市への「搾取」と表現した。政治制度の面から捉えると、以上のような答え方ができる。

■総合討論と司会所見
 総合討論は、大阪市の貧困化や住民の所得階層の低さの要因など、大都市の社会経済的側面に関する議論からスタートしたが、そうした問題を解決するために大都市の「境界」をどのような「政治制度」のもとに変革できるのかという話に収れんしていった。大阪市の発展を阻む要因について、市外から住民・投資の誘導に反対する地元議員、都市圏の最適設定を妨げる府市(選挙区)の境界、地方議会における「少数者のカルテル化」など、いずれも現行の中選挙区制の問題点と関係付けて講演者は回答した。
 在日朝鮮人など選挙権を持たないマイノリティの利害を中選挙区制が政治に反映させていたとする意見に対して、講演者は、集合的利害を首長一人が代表する現行制度より、比例代表制の導入などによって議会の多数派が形成され、このプロセスにマイノリティの利害が関連付けられることが好ましいと答えた。つまり、中選挙区制により、少数意見が過剰に代表される結果、大都市の集合的利害が表明されにくくなり、大都市問題に対する有効な解答を出せないということなのである。
 このように大阪都構想は、首長と議会という日本における二元代表制の危機も体現しているが、講演者も日本の制度には問題があり、議会に多数派の利害が反映され、首長の政策と連動する制度の創設を強調した。つまり、府市の境界を変えようとする大阪都構想をめぐって繰り返される「混乱」の根底には、地方選挙における中選挙区制の問題点があると講演者は見ているのである。
これまでの日本の都市地理学は大都市の社会経済的実態をつぶさに記述し、都市政策にも反映できるレベルの知見を提供してきた。しかし、今回の合同研究会においては、行政区域の歴史的変遷をふまえて、政治(選挙)制度から大都市の問題点を捉えようとする講演者とは、まだ認識や視角のずれが大きいと感じられた。講演者のような政治学的アプローチは地理学には欠落しがちであるだけに、今回の講演は大いに参考にされるべきであろう。                    (参加者17名、司会・記録:山﨑孝史)
2014.04.22  Comment:1
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