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 日時: 2005年11月12日(土) 10時~12時
 会場: 九州大学 六本松地区
  〒810-8560 福岡市中央区六本松4-2-1

2005年人文地理学会大会・研究部会アワー

ダラス都市圏における社会経済地域構造と通勤パターンの特性
―LRT開業前後の変化を中心に―
石川雄一(長崎県立大学)


 本報告は、GISを活用し各種社会経済統計地図と土地利用図をもとにLRT開業前後の空間構造の変化を解明し、人口および雇用の成長が持続する北米大都市圏における公共交通導入政策の諸課題を探求することにある。
 日欧の多くの都市圏が、国土の人口の停滞により、これ以上の人口増加が見込めなくなる一方で、アメリカ合衆国、なかでも南部の都市圏は今世紀になっても高い人口成長を持続している。ダラス都市圏の人口は1990年の268万人から2000年には352万人に増加し、この高い成長は今なお持続している。人口増加を支えているのは、主として郊外の成長であるが、そうしたなかで都市化地域が急激に拡大している。とくに都市圏北部にはオフィスと高所得者の住宅が広がり、環状道路周辺にはエッジ・シティが点在している。さらにその成長は環状道路を越えてエッジレス・シティ化した就業・生活空間を拡大させていった。
 しかし90年代になって、環境や公平などの観点からこうした低密度な郊外の成長をコントロールし、サスティナブルでコンパクトな都市圏を造ろうとする政策、いわゆるスマートグロースが誕生した。こうしたなか90年代には、環境と交通弱者の通勤手段確保のためのLRTの導入が多くの大都市圏でみられるようになった。ダラス都市圏においても1996年、DART(Dallas Area Rapid Transit)によるLRTと既存貨物路線を利用したコミューター・レールの開業がみられた。
 各種統計地図および土地利用図からLRT沿線の社会環境をみると、CBD南部に広がる低所得・マイノリティ居住を特色として雇用が少ないインナーシティエリアとCBD北部から延びる旧鉄道沿線の製造業地区、さらにそれに並行するフリーウェー沿いに点在し成長したオフィス・小売業地区を連結する働きがあることがわかる。LRT開業前後の土地利用の変化をみると、住宅地の割合が高い南部ではあまり大きな変化がなく、北部では、工場施設が小売施設や集合住宅に変化しているケースがみられた。また最も大きな変化は、分析年次ではまだ未開業であった北部外縁部の駅周辺でみられた。ここではシェアの高かった未開発地の多くがオフィスに変化していた。
 こうした駅周辺での開発には、人口・雇用の高密度化、土地の混合利用、ソーシャルミックスさらに開業を見越した先行的な開発の重要性が指摘されている。分析の結果、ソーシャルミックスが進展することにより、マイノリティグループの雇用は増加しているものの、低所得のインナーシティエリアからの通勤パターンにはほとんど変化がみられなかった。
 LRTの開業によってDARTの運賃収入は増加したが、開業前後の1990年から2000年にかけての都市圏内における通勤交通手段に公共交通が占める割合は、2.9%から2.2%に低下した。その理由は、自家用車交通に依存する郊外の成長によることが明らかであるが、NCTCOG(North Central Texas Council of Governments)は、都市圏交通政策として都市圏外延部の郊外間ハイウェーの有料化や郊外間を結ぶLRTの建設計画を推進している。トータルな公共交通導入の効果が現れるのは、しばらく先のこととなろう。
Dallas DowntownDallas Downtown WestendDallas DART

〔討 論〕
 本報告は、ダラス都市圏の中心地整備や空間構造変容をLRT整備と関連づけて検討したものであり、海外地域研究の今後の方法論を示唆するごとく、現地調査のみならず、インターネット上などで公開されている各種デジタルデータを丹念に発掘し、それをGISで綿密に分析・考察したところに大きな特徴がある。報告後の討論における主な質疑(Q)応答(A)は、次のようなものがあった。
・Q1:1996年と2002年それぞれの開業駅周辺の間で居住者属性が違うが、何か政策的なものが背景にあるのか。A1:当初の開業区間はブルーカラー系の居住地区とCBDを結んでいたが、新しい方の開業区間はホワイトカラー系の居住地や従業地を貫いているところも多い。
・Q2:USA南部の都市圏では、共生がみられる北部の都市圏と違い所得階層の分離が生じているように思う。こうした階層分離についてどのように考えるか。A2:政策的なものは現段階では詳しい情報を得ておらず、検討は今後の課題としたいが、公共交通は低所所得者に移動・就業機会を与えるものであり、職住両面での社会地区の変化と路線建設との関連をさらに分析することが必要と思われる。
 Q3: LRTの路線状況は、CBD・郊外を結ぶ放射状になっている。今後の都市圏の発展を考えると、環状的なルートが必要ではないか。A3 :北部では郊外間を結ぶルートも計画されている。
 Q4:都心の写真を見るとおよそ20年前と変化していないように感じられるが、実際はどうなのか。A4:ごく一部で再開発は行われているが、飲食店が中心になっている。
 Q5:都心の再生、駅周辺の再開発は、どういう方針で進められているのか。A5:機能の混在化がはかられ、古い施設が残っているところで、それの活用が図られているケースが散見される。
 Q6:最近のUSAではバスがうまく発達してきている。バスネットワークと鉄道ネットワークとの関係は。A7 詳しくは分からないが、郊外ではパーク&ライドが主流である。
 Q7:北部のオフィス集積地について、このあたりは軒並み雇用増加が認められる中、一部は減少していたようだが、これは集計地区のスケールの問題ゆえに生じることか。A7:集計地区のスケールについてはその通りだと思う。一部で工業用地が集合住宅に転換された。類例は他にもあるようだが、一層の深化は今後の課題としたい。
 以上の報告と討論を通じて、都市圏研究全体における今後の課題が幾つか認識された。すなわち、住民や経済の国際化にともなう都市の構造変化と政策の関わり、特に中心市街地の衰退や郊外拡散をふせぐような都市圏構造と整備のあり方である。これは、日本の地方都市とも深く関連する課題であろう。またアメリカ合衆国北部大都市のような中心都市と郊外の共生が南部の都市でも見られるのかといった社会問題への展望を与え得るような研究の展開も求められる。また、これら両方の点に関わって、北米で現在展開している公共交通整備とそれに関連づけた都市整備は、こうした課題にどのような展望を与えるのかもさらに論点として展開すべきと考えられる。
 なお、今回の研究会では最後に、本研究部会の今後の活動方針についても話し合われた。それは、今回の石川報告からも多くの示唆を受けているので、ここで紹介したい。すなわち、本研究部会は、これまで1期2年として2期4年間、活動してきており、今回、新たなテーマでの研究部会設立の声もあったものの、少なくても従前通りの研究部会の名称で、今後2年間、3期目の活動を継続することにした。ただし、そこでは、従前と同様に、主に本邦や北米の都市圏構造の変化に頂点をあてた研究の深化を目指すことともに、新たなテーマも展開したい。すなわち、第1に、対象とする都市圏は、従前あまり取り上げてこなかった地域、例えばアジア・環太平洋地域にも範囲を広げ、国際的な比較をさらに押し進めること、第2に、社会学、GIS、都市・地域計画、行政、NPOなど関連分野との交流促進によって、地理学における都市(圏)の構造研究の新たな方向性を探ることである。
(進行:藤井 正,記録:伊藤 悟,香川貴志,参加者25名)
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2005.11.12 
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