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   日時: 2009年11月7日(土)  10:30~12:15    
   場所: 〒464-8601 名古屋市千種区不老町 
        名古屋大学全学教育棟・文学部棟

  2009年 人文地理学会大会・研究部会アワー

 竹中克行(愛知県立大学) 
  分権化後のスペイン都市における歴史地区の再生
  ―カタルーニャ自治州のタラゴナとレウス―
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■報告要旨
分権化後のスペイン都市における歴史地区の再生
―カタルーニャ自治州のタラゴナとレウス―
竹中克行(愛知県立大学)

 スペイン都市における歴史地区の再生について、集合的行為と記憶共有の舞台をなす建造環境という歴史地区の特性に着目して報告した。対象としたのは、カタルーニャ自治州の中規模都市、タラゴナとレウスである。地中海の重要港湾がある県都タラゴナとそこから15 kmほど内陸側に入った商業都市レウスは、ともに豊富な歴史文化遺産(以下、「遺産」と記す)を有する。報告では、人間と建造環境の相互関係を表すものとして遺産を位置づけ、歴史地区の再生において、遺産の保護・可視化が与えたインパクトに焦点を当てて検討した。ただし、古代ローマ遺跡の上に現代の町が形成されているタラゴナと、19世紀末のムダルニスマ(近代主義)建築遺産を擁するレウスでは、遺産の性格の違いゆえに、都市政策のなかで遺産のもつ重みや役割も大きく異なる。今回は、主としてタラゴナの場合について扱った。

 スペイン都市の多くは、フランコ体制期の乱開発と不動産投機によって、歴史地区の衰退・破壊を経験した。1970年代後半に民主化と分権化が達成されると、都市政治の場にも、過去の禍根を克服しようとするエネルギーが漲りはじめる。先陣を切って分権化を達成したカタルーニャ自治州では、基礎自治体に都市計画のリーダーシップが与えられる一方、遺産保護政策では自治州が主要な権限を掌握した。

 そうした新しい制度のもとで始まった都市政策は、生活・居住環境の改善と都市・文化観光の育成という共通の基軸を有しつつ、遺産都市タラゴナにあっては、 2つの異なる方向性を内包するものになった。すなわち、歴史地区の都市計画に関する主要ツールをなす1986年の上手地区特別計画が推進したのは、「多孔質化」とよばれる、減築・改築による公共空間の創出であった。対照的に、1993年に制定された自治州文化遺産法は、歴史的な建造環境の保存・修復を強く求め、基礎自治体に対して自治州への協力の義務を課した。減築・改築と保存・修復という都市政策の相克は、基礎自治体の都市計画に対する自治州法の優越ゆえに、遺産保護を立てる方向で決着がはかられてきている。

 はたしてタラゴナの歴史地区はどのように変わったのか。明らかなのは、上手地区が古代都市を演出する一種の野外博物館のような様相を深めると同時に、遺産を可視化しインテリアに統合する飲食店や商店の著しい増加をみたということである。他方、装いを新たにした上手地区は、デベロッパーの注目するところとなり、老朽化した家屋の一部が改装されて賃貸市場に放出された。現在の上手地区では、専門職や教員などの新しい住民層が出現する一方で、更新されずに残っている家屋には、高齢化する住民や近年急増した移民が住んでいる。市営市場の閉鎖や最寄品店の減少により、高齢者には住みにくい町になっている面も否定できない。

 こうした上手地区の変化は、歴史地区の再生という観点からどのように評価されるのか。歴史地区が有する多面的な機能のうち、都市外部に向けた魅力の表出(セールス促進機能)が強化されたのに対して、生活・産業の場の保持(スペース保持機能)はむしろ弱体化した、というのがひとつの解釈であろう。しかし、市民と訪問者の双方に対して、つまり都市の内と外に対してタラゴナの個性ある顔を創出する歴史地区の中核的な役割(アイデンティティ創出機能)は、力強さを増している。上手地区は、そこに魅力を感じて住み、働き、集う人々で賑わっている。ヨーロッパ都市をめぐる「美しく整った町」「コンパクトシティ」「市民参加の都市計画」などの言説に対して、「変化しつづける町」「求心力のある町」「人々がざわめく町」という視点からスペイン都市の底力をとらえられないだろうか。

■質疑応答…Aは竹中氏の回答
Q1(橋田光太郎:西南女学院中・高)最近シチズン・プライドという言葉も聞かれるが、タラゴナ住民の自ら住む町に対する愛着やプライドについて教えて欲しい。

A1 いくつか表出していると考えられる。例えば居住という面からみると、高齢化している古くからの住民は商店や市場が減少しているため住みにくくなっているが、町を離れようとしない。また、新しく転入してきている層は、ディベロッパーが新しく開発した分譲や賃貸の住宅に住む30~40代の教員・自由業などの職種の人が目立つ。この両者とも歴史地区固有の賑わいや感性を刺激される環境に魅力を感じているようである。歴史地区固有の賑わいについてより具体的にいうと、上手地区にはかつて5店くらいしかなかったバル(居酒屋兼食堂)は、現在20店程度に増えており、元来話好きのスペイン人でもあるため、そうした店で世間ばなしをするなど、市民生活に根付いている場所ともなっている。こうした環境や雰囲気が愛着を醸成することに寄与していると考えられる。

Q2 (山下 潤:九州大)地域計画や都市計画の最終的な権限は、カタルーニャ自治州が持っていると考えてよいのか。また、カタルーニャ自治州の文化遺産法が1993年に制定されているが、罰則等を含めた法律の規制の程度について知りたい。さらに、近年の遺産保護に関する市民の関心の低下について触れられたが、タラゴナという基礎自治体の上位にあたる州レベルで法律が制定されたため、タラゴナの市民運動が沈滞したのではないかという推測が成り立つのではないか。こうした法律制定後の市民の対応について教えて欲しい。

A2 基本的な権限は、地域計画は自治州、都市計画は基礎自治体がそれぞれ持っている。ただし、地域計画で決められたことは、基礎自治体は従わなくてはならず、その意味で都市計画は地域計画に従属するという関係がある。しかし、自治州は基礎自治体でなされる都市計画について、上位の枠組みである地域計画に矛盾していないかをチェックするだけで、都市計画自体の策定権限は基礎自治体が持っているといえる。文化遺産法に違反するような事例があった場合、罰金を科す制度はなく、最も強いものは強制収用である。ただし、収用の際の補償金は低く抑えられている。市民運動が近年弱まってきた理由については検証しないと不明だが、インパクトの強い運動は最近起きていないといえる。市民の要求は、都市計画や遺産保護政策など大きな問題に直接関わることではなく、駐車場設置の要求や歴史地区における自動車流入規制など日常生活と関わる点に関心が集まる傾向にある。

Q3(根田克彦:奈良教育大)自治州の地域計画や基礎自治体の都市計画と、その上位に位置づけられる国の法律や指針との関係について教えて欲しい。また、上手地区では最寄品店などが減少しているようだが、都市全体のマスタープランにおける上手地区の商業地域としての位置づけについて知りたい。

A3 それぞれの計画に対して、国が保持している権限は限定的である。例えば、州を跨ぐ道路や重要指定港湾であるタラゴナ港など物理的に国が関わる必要のある計画の策定、あるいは「市街化地域」、「市街化可能地域」、「市街化不可能地域」からなる区域区分の定義などには国は関与するが、地域計画・都市計画の具体的中身には関与しないことが基本である。また、タラゴナ全体のマスタープランと上手地区の関係について、タラゴナに関していえば、現時点ではほとんど連動していない。本来ならば、1993年に制定されたカタルーニャ自治州の文化遺産法と齟齬が生じないようにタラゴナ全体の都市計画を見直し、さらに1986年に策定された上手地区特別計画も修正していく必要性があるのだが、上位法・計画との関係が複雑で、まだできていないというのが実情である。上手地区を含めたタラゴナの商業政策についても、都市計画のなかではあまりみえてこない。この点は、大規模店を都市内部へ誘導しているレウスとは大きく異なるが、今日はあまり紹介できなかった。

Q4 (戸所 隆:高崎経済大)スペインの都市は日本に比べると活性化しているようにみえるが、都市や国の財政力という点からみると日本よりも悪いと思われる。そうした都市が何故求心力を持っているのかについて知りたい。また、郊外が開発されていながら、中心部ではなお求心力を保持し続けている理由を知りたい。

A4 前者については根本的な問題であり、ひとことで説明することは現時点では難しい。むしろ、スペイン都市に関する研究の蓄積を通じて明らかにしたいと考えている長期的課題である。後者について、タラゴナでは確かに郊外にショッピングセンターが開発され、住民の購買行動は郊外へ向かっている面はある。しかし、飲食店については中心部に多く、これが住民を惹きつけている。また、タラゴナの中心市街地はそれほど大きくなく、徒歩で移動できる圏内に飲食店をはじめとした商業機能が立地している。実証することは難しいのだが、気候条件に恵まれた地中海地域では総じて戸外を歩くことが好きな人々が多く、こうした「徒歩の文化」が効いているのではないかと考えられる。

Q5 (山下博樹:鳥取大)上手地区の人口動態を教えて欲しい。また、日本からみればそれほど大きくない都市における公共交通機関の整備状況について知りたい。

A5 最近10年間程度のスパンとしてみれば人口自体は微増である。増加しているのは移民である。また、ディベロッパーが開発した家賃のやや高い賃貸住宅が増えており、それなりの経済力を持った人が増えているのも事実だろう。都市内の公共交通機関は不便といえる。バスはあるが、経由地が多いため目的地まで時間を要するのが実情である。また、タクシーは高いので利用層は少ない。ただし、徒歩圏内に中心市街地が広がっているので、公共交通機関の整備状況は悪くてもそれほど大きな影響はないと考えられる。

(参加者:22名、司会:藤塚吉浩、記録:古賀慎二)
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2009.10.25 
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