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人文地理学会 大会部会アワー

第53回 都市圏研究部会

日時:11月9日(日):15時45分~17時15分
会場:広島大学東広島キャンパス

テーマ:『よくわかる都市地理学』刊行をめぐって

趣 旨:本年3月、ミネルヴァ書房の「やわらかアカデミズム」シリーズとして『よくわかる都市地理学』が刊行された。執筆陣は都市地理学研究者46名からなり、本分野でこれほど幅広い専門家によりまとめられた入門書は初めてと思われる。平易な記述ながら最新の研究成果も取り入れられ、都市地理学研究の全体像を俯瞰することが可能となった。今日における都市地理学の到達点を確認し、今後の研究や教育の課題を展望するため、本書出版の趣旨について編者から説明を聞き、その内容や意義について参加者で議論をおこなう。

話題提供 藤井正、神谷浩夫

連絡先:豊田哲也(徳島大学)toyoda[at]ias.tokushima-u.ac.jp


<報告要旨>

■挨拶と趣旨説明
豊田哲也(徳島大学):学問が主張するためには,スタンダードな教科書が不可欠である。研究の魅力を広く発信しないと,学問の発展はない。都市地理学の成果を広く共有し,発信するスタートとして本書がある。さらに,本書を活用して広めることも必要である。そのために,次の3点の論点に関して議論したい。
論点1 都市地理学の射程と本書の到達点。本書の構成と内容を振り返り,本書の都市地理学の概説書としての意義と課題を考えたい。
論点2 大学の地理学等の教育における本書の活用法。実際に教科書として利用した経験や活用方法などの情報を共有したい。
論点3 アカデミズムや社会への情報発信。社会・人文科学を視野において,本書をいかにアピールするかを考えたい。

■論点1 都市地理学の射程と本書の到達点
藤井:本書の構成は次のとおりである。
 第1章:都市地理学の視点で全般的な話で,後半は地理学的に都市を研究するために必要と考える地形や災害,景観など。執筆者は地理学者か地理出身者だけ。
 第2章:オーソドックスな教科書的な内容。従来の理論などを概観。
 第3章:現代の都市空間の形成の地理学的視点。
 第4章:都市空間の形成メカニズムの内容。
 第5章と6章:現代的なトピックに対する地理学的なアプローチ。
 第7章:これからの都市ビジョンの地理学的な観点からの取組み。
神谷:今気になるのは,他のシリーズと比べると章を細分しすぎたかもしれない。トピックごとに焦点はある。教科書として用いるには,使いにくいかもしれない。また,第1・2章で地理学史,後半がトピックという構成は,バランスが取れていないかもれない。
涌井:ミネルヴァ書房から発行されたこのシリーズは,一般に2ページ1項目であるが,本書は3ページとコラムというふうに工夫をこらしていただいた。本書は辞典としても利用できることが重視され,トピックが多くてもいい。項目を互いに関連させながら使いやすいやり方で使って頂ければいいと思う。
藤井:ここで,本研究会前に寄せられた,本書に対するコメントを紹介したい。好意的意見として,多くの項目がコンパクトにまとめられており,都市地理学の全体像を把握できる,隣接分野の研究者に都市地理学を認知させるために有効な本であるなどの意見があった。一方,批判点としては,都市地理学との言葉になじみのない学生が購入しにくいのではないか,初学者には難解な記述の項目があるなどの指摘があった。また,半期の授業では使いこなせない分量であることと,今の学生に最初から順に読ませることが困難であるので,学部の授業には使いにくいとの指摘があった。また,都市の政治の項目がないとの指摘があり,内容をどこまで広げるかは難しいと感じた。
阿部和俊・愛知教育大学・名誉教授:本書の刊行を歓迎する。このシリーズに,都市地理学が入ることが社会にアピールする。朝倉書店のシリーズでは,都市地理学という項目はなかった。本書はボリュームが多くて学部1・2回生には無理との指摘があったが,それでいい。教員が自分の使える部分を深く説明して,学生が関心を持たせることができればいい。それが卒論を考えるきっかけになれば,本書は成功である。
戸所 隆・高崎経済大学・名誉教授:多くの項目をコンパクトにまとめている。しかし,一つの項目が濃密であるので,教員が相当補足して説明しなくてはいけない。学部と大学院で使い方が異なり,項目ごとにどう組み合わせて講義をするのか,工夫が必要。本書は資料集としても,教科書としても使える。ただ,この本1冊あれば,他の地理の本が不要となる恐れがある。

■論点2 大学の地理学等の教育における本書の活用法
豊田:上記で,論点2とも関係している発言があった。論点2関して,授業で取り上げた方はいるか?
藤井:論点2に関して,本書に対するコメントを紹介したい。次のようなコメントがあった。本書のターゲットは地理学や地域政策専攻の学生であろう。他分野の初学者に都市地理学を紹介するために適切な教科書である。社会科学に強いミネルヴァ書房から出版されたことは強みである。一方,全体構成がオムニバス的で,各項目のページ数が少ないので授業で用いる際には説明が必要であるとの意見と,授業の際に,複数の項目を組み合わせて教員が説明するほうがいいとの意見があった。この点に関して,編者は,各ページの横に注を入れ,関連項目をできる限り入れ,参考文献も充実させた。さらに,索引も作成したので,関連項目を組み合わせることは容易と考える。
中澤高志・明治大学:本書は高度すぎて,私の所属する経営学部の授業では使えない。非常勤先のゼミで使っている。ゼミで卒論の発表の後で,その卒論と関係する部分を説明する。本書を部品として用いて授業を組み立てることは可能だが,さまざまなトピックをカバーしているので,辞書的な使い方ができるし,1項目が2ページほどであるので授業の余った時間を利用して説明もできる。
豊田:2ページほどしかない1項目だけでも,内容が濃いので90分の授業で使うことはできる。その場合,半期の授業で本書をすべて使わないことになるので,学生にとってお得感があるか疑問がある。
涌井:コラムがたくさんあることが本書の特徴といえる。地図と図版が多いので視覚的にアピールできる。同じシリーズの都市社会学の場合は,写真などが多かった。
戸所:よくできていると思うが,他の学問分野との関係が書かれている部分で,他の分野の影響を受けたことが触れられている。しかし,地理学が他分野に影響したとの視点の書き方が少なかった。本書の最初の部分で,地理学が他分野にプッシュしていることを示してほしかった。都市計画の場合,都市計画が地理学に影響を与えていると思っている人が多いが,都市計画は地理学の理論を用いている。地理学が他分野に影響できる点を強調する必要がある。

■論点3 アカデミズムや社会への情報発信
豊田:上記の発言から,論点3となった。地理は他分野の成果を取り入れることは熱心だが,発信することも必要である。
藤井:地理学が他分野から吸収した時期もあったが,編者としては,地理学的な観点のアピールをするとのスタンスで本書を作った。だからこそ,基礎的理論を最初に扱い,現実の都市を分析する第3章と第4章を経て,最後に,将来の都市を考える際に,地理学の手法が有効であることを主張した組み立てとしたつもりであった。
豊田:学問間の勝ち負けの問題ではないと思う。現実の社会問題に有効な処方箋を示せるかどうかが重要である。
戸所:地理学は勝たなければならない。大学で地理学のポストは減っている。たとえば,地域政策の場合,地理学が中心であることを主張する必要がある。地理学が主張しないと,学生は地理学が他の学問のしもべみたいであるとの感想を持つ。
桐村 喬・東京大学:工学部に所属するので,私の周りには都市地理関係者がいない。都市地理学から言いたいことはあるが,どうせ地理でしょ,といわれる。都市工学や都市経済学の人々は都市地理学の内容を知らない。他分野に地理学が貢献することをアピールすればいいと思う。
須田昌弥・青山学院大学:本書を一人で書けと言われて,書ける都市地理学者はいないだろう。都市経済学の場合,教科書でも単著が多い。その差は,理論体系を1つ持つかどうかの違いだろう。地理学の場合,理論はともかく,フィールドに出ろと言われる傾向がある。しかし,地理学にも他学問に影響を与える例は多い。中心地理論は経済学に影響を与えているし,ヘーゲルシュトランドが交通計画に影響を与えている点もある。そのような例を特集することがあってもいい。
長尾謙吉・大阪市立大学:私は都市地理学を担当しないので本書を授業で使うことはできないが,2ページでまとまっている本書のトピックをコピーして配る際には有用である。なお,地理学は多様であり,軸を一本化することは難しい。経済学は軸があるが細かい点は,自分でやれとの風潮がある。学問の特性の違いはあると思う。
神谷:地理学が社会にアピールする点では,本書で,都市地理学のコンテキストの中で理論と実践を整理することもできたかもしれない。
千葉昭彦・東北学院大学:現代のトピックを扱う点は,今までの教科書に比べると画期的である。他の分野がやっているとみなされるトピックを,都市地理学から扱うことができることをアピールする。そういうことにより,都市計画や社会学などとつながっていくと思う。それにより他学問に従うというより地理学が広がると思う。地理学は開かれた学問であるが,本書の後半のさまざまなトピックを広げるだけなら種々雑多で終わる。これを第1章と第2章と関係させると,地理学の根本との関係が見えてくるだろう。本書は教える側の力量により,うまい使い方ができると思う。
由井義通・広島大学:教育学部にいると都市地理学のような特化したことを教えることは難しい。他分野との関係では,地域研究の国際学会で発表すると,地理の人はなぜ発表しないのかといわれる。地理学会だけではなく,他分野の学会で地理学をアピールする必要がある。ハウジングの研究では,地理の定義がそのまま使われている。都市地理学は他分野でアピールすることができる。本書はその際に有用だと思うが,使い方は今後考える必要がある。
若林芳樹・首都大学東京:地理学者ではなくても地理的なセンス・地理的見方を持つ人がある。地理学から,それらの研究に地理学の学問的裏付けを示す必要がある。その際に本書は有用である。
山内昌和・国立社会保障人口問題研究所:人口の推計を扱う中で,地域の問題はクローズアップされている。しかし,地理学的に考えると当たり前と思えることが当たり前ではないことが多い。経済学と社会学には,地理的見方がないことを感じる。本書は人口に関するトピックも多いので,紹介しやすい本でもある。
小泉 諒・首都大学東京・研:本書で地理学が広い可能性があることを再確認できた。都市関係の学生に,持たせたい本である。都市地理学だけではなく,都市関係の卒論を書こうと思っている学生に,本書は有用である。

■まとめ
豊田:これから,本書を広く読んでもらう工夫が必要である。地理学が開かれた学問で多様性が強みであることを,他分野に対してアピールする必要もある。
藤井:都市で考える地理学的研究でも,それが有効ならば都市を考える研究の際にも有用なツールとなる。地域を考える研究と,地域で考える研究との関係のように扱う必要があろう。都市の人口の研究の際には,農村の人口移動も当然考えなければならないことと同様である。
神谷:地理学から情報を発信するためには,他分野の学問の情報を十分に理解する必要がある。それにより,他分野の不足点を指摘し反論することが,他分野へのアピールの有効な方法である。
(出席者27名,司会:豊田哲也,記録:根田克彦)

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2014.09.02  Comment:0
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