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第59回 都市圏研究部会(大会部会アワー)
日 時: 2016年11月12日(土) 11:00~12:30
会 場:京都大学吉田南キャンパス 吉田南総合館北棟 3階 共北32
会場へのアクセスは、以下をご参照下さい。
https://www.h.kyoto-u.ac.jp/access/

研究発表:
地域経済循環と都市の経済―都市経済学からのアプローチ―
・・・・・中村良平(岡山大学)

発表者のプロフィールは、以下をご参照下さい。
http://www.cc.okayama-u.ac.jp/~ubbz0252/

コメンテータ:豊田哲也(徳島大学)

連絡先:豊田哲也(徳島大学) toyoda.tetsuya@tokushima-u.ac.jp

<報告要旨>

■地域経済循環と都市の経済―都市経済学からのアプローチ―
中村良平(岡山大学)
都市経済学は、当然ながら「都市域」を対象としており、マクロ経済学やミクロ経済学、また財政学や金融論などと異なり、「空間:距離」という概念を正面から取り扱う経済学である。その意味では、地理学、特に経済地理学とは近い関係にある。また、同じ都市を対象とする「都市計画」とは逆の関係にあるときが多い。都市計画は、土地利用計画など規制を中軸とするが、経済学は市場の失敗があるときに規制を行う。都市経済学では、都市そのものを単体として扱うマクロ的側面、つまり都市の適正規模、都市の産業、都市の住宅問題などと、都市内部を空間的広がりとして扱うミクロ的側面がある。これには、土地利用、人口密度や地価の分布、交通行動などが該当する。
都市を経済循環の視点でマクロ経済的に見る際、域際収支に注目することが多い。三面等価はマクロ経済の基礎概念であり、生産、分配、支出の三面で捉えた金額は等しくなる。ところが、地域経済では一国の経済で考えるより人・財・金の出入りが大きい。生産活動に必要な中間財や本社サービスが都市の外から購入されると当時に、生産されたモノやサービスが都市の外へ出荷される。また、都市の近隣から通勤している就業者の所得は都市外に帰属する。これらは、都市の経済にとって「漏れ」となり、この程度が大きいと生産と分配所得の二面の乖離が大きくなる。
人口や生産額は財・サービスのフローに対価が伴う実物経済の指標であるのに対し、預貸額は金融経済の指標である。地域で分配された所得は、税負担を除いて支出されるか貯金される。預貯金は金融機関にとって融資の資金となるが、自地域内に有望な融資先が見当たらないと、国債や社債など有価証券の購入や東京でのコール市場で運用され、域外へ漏出する可能性が高い。結局、域際収支は「資本収支(有価証券)+所得収支(所得の純流出)+交易収支(移輸入超過)=財政収支(財政移転)」という式で表される。地域経済を語るのに移輸入超過が注目されることが多いが、マネーの流れの全体を把握することが重要である。
現代の日本では、実物経済以上に東京へのマネー経済(資金フロー)における東京集中が進んでいる。東京都の銀行貸出額や卸売業販売額は全国シェアの4割を占める。同じ商業という産業分類に属するが、卸売業は消費者を対象とする小売業と異なり、ほとんどが企業間取引の仲介である。東京には大手総合商社の本社が立地し、財貨の空間的な移動を統括している。地方経済に目を転じても、多くの県で県庁所在都市に経済が一極集中している。長崎県の市町村について域際収支を見ると、人口当たりで見た民間企業の収入額は、長崎市や松浦市、西海市で高く、依存財源額は島嶼部や周辺部の町村で高い。
都市経済を考える視点として、規範的な理論と実証的な手法がともに重要である。データを分析するとき、どうやってそれを読み解くかが課題であり、それには問題解決のストーリーが必要となる。すなわち、「ここをこうすればここがこうなる(はず)」という因果関係の明確化、仮説とその検証が求められる。都市分析の代表的なモデルには、経済基盤モデル、都市階層理論、産業連関分析などがあるが、分析手法として回帰分析や因子分析、クラスター分析、など多変量解析も使いやすくなった。また、政府は総務省のe-Statのほか地域経済分析システム(RESAS)を提供しており、統計データの整備が進められている。
一例として、愛媛県の市区町村を対象とする経済分析を紹介する。個人所得(課税者所得+年金所得)と小売業販売額の関係には線形回帰がよく当てはまる。ところが、新居浜市では市内に大型SCが立地しているにもかかわらず、小売業販売額は予測値より過小となる。これは大手製造業で働く単身赴任者が多く、家族への仕送りなどで所得が漏出しているためと考えられる。次に、通勤流出率と課税対象所得額及び対象人数を勘案し、通勤による所得の流入額・流出額を推定した。松山市、今治市、新居浜市など地域就業圏域の中心市はマイナス(純流出)を示すことがわかる。
地域の産業は、派生産業と自立産業に大きく分類できる。派生産業とは人口や企業の集積が必要な産業であり、行政サービスや対個人サービス、対事業所サービスが該当する。これと対称的に、製造業における工場部門や場所(土地、山、海)を必要とする農業、林業、水産業、鉱業は、需要者が域外に存在し、自然条件のストックがあれば成立しうる。さらに、情報通信技術や輸送技術の進歩で空間の克服も可能となった今日では、IT利用のサービス(ネット販売等)や、供給側が動かなくても需要者がやってくるサービス(観光、視察ビジネス等)も考えられる。
地域の経済成長戦略を描くには、稼ぐ力のある基盤産業と雇用を生み出す雇用吸収産業を見極める必要がある。両者の間にBtoBやBtoCの取引があり連関している地域には強みがある。基盤産業は地域に新たな所得をもたらす産業であり、定量的には純移輸出額がプラスである移出産業として定義される。本来は派生産業であっても人口集積によって移出産業化するため、大都市ではサービス業も基盤産業と見なしうるケースが多い。本社機能を持つ事業所のほか、シンクタンク、デザイン開発、報道機関本社等は情報発信で移出を担っている。こうした基盤産業の数・種類と規模は、東京を頂点とする都市階層の中での位置によって大きく異なる。したがって、都市の階層構造に応じた産業振興策が求められるだろう。

■討論とまとめ
Q 地域の生産活動でモノやサービスの流れは市場を介した取引として示されるが,「本社サービスの購入」は企業内取引で意味が異なるのではないか。
A 本社機能を欠く工場の場合,域外の本社が工場の仕入れや経理など管理サービスを引き受けるのであり,これは企業内取引にあたる。
Q 域際収支の均衡式の右辺(財政移転)について,財政上の理由で地方交付税交付金が削減されれば,均衡がくずれて赤字となり,地域間の不均衡や格差などの問題が深刻化するのではないか。
A 式は財政移転で域際収支が調整されていることを強調している。補助金が減少したら地域の輸入代替産業を振興するなどの政策が必要になるだろう。
Q 県庁所在都市の人口当たり卸売業販売額において, 三大都市が卓越して高いのは当然だが,水戸市が札幌市よりも値が高いのはなぜか。
A 大手家電チェーン本社など本来卸売業に分類される活動が小売業として計上されているのかもしれない。
Q 都市の階層構造に応じた産業振興策が必要という主張について具体的事例があるか。また,現状の東京一極集中を是正するためには中小都市を育成する必要があると思うが,どのような振興策が考えられるか。
A 例えば,四国では四国通信局が松山市に立地した関係で,放送関連業務は高松ではなく松山が中心となっている。多くの自治体は地域振興策として企業誘致に執着するが,工場など固定資本だけでなく人材の誘致も重要である。鹿児島市はデザインやIT産業を集積させるため,人材誘致から産業育成を図っている。
Q 経済学の主目的は法則追及と予測にあると思っていたが,今回の発表は外れ値に表れる地域の個性に着目している点で興味深い。長崎県の域際収支の例示では,島嶼部など周辺部の自治体で財政が赤字となっている。こうした地理的条件不利地域には,自律的振興策だけではなく政策的支援が求められるのではないか。
A ケースが限られているため説明できない部分は多いが,島嶼部では特殊な要因を考慮する必要がある。長崎県の雲仙と熊本の天草は地理的に近接しているため,両地域一体で観光振興を考えるべきである。人材・資源を中心に波及効果が期待できるだろう。
Q 都市地理学の可能性について意見を聞きたい。
A GISとビッグデータは,地域研究のどの分野でも重要性を増しており,情報を共有することが望ましい。

■座長所見
同じ都市を研究対象としながら,都市地理学と都市経済学では異なったアプローチをとる。第一に,地理学は伝統的に土地利用や景観など可視的現象に関心を持ってきたのに対し,経済学は主にモノ・サービスや資本の非可視的な流動を扱う。第二に,地理学は空間スケールを重視し伸縮可変なものとして扱うが,経済学は都市をマクロとして扱うかミクロとして扱うかで別の枠組みを採用する。第三に,地理学はそれぞれの地域の個性に注目するが,経済基盤モデルや産業連関モデルでは規範的な現象理解を前提にする。今回の発表者は都市経済学の立場から具体的な地域分析にも多くの成果を上げ,地域政策立案の助言者としても信頼を得ている。討論では地域分析の方法論や結果の解釈について活発な意見交換がおこなわれ,両分野の対話を通して学ぶべきことは多いと感じられた。(豊田)

(参加者28名,記録:豊田哲也・鍬塚賢太郎・根田克彦)
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2016.10.28  Comment:0
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