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第60回 都市圏研究部会

共 催:経済地理学会関西支部
日 時:2017年1月28日(土)13:30~18:30
会 場:TKP天王寺会議室
〒545-0052 大阪府大阪市阿倍野区阿倍野筋1丁目3-15 阿倍野共同ビル 8F
会場へのアクセスは、以下をご参照下さい。
http://www.kashikaigishitsu.net/facilitys/kg-tennoji/access/
懇親会参加の場合は,下記の要領で事前申し込みが必要です(先着順)。

テーマ:公共交通と都市空間構造

趣 旨:
近年、人口高齢化や環境問題に対応するため,地域公共交通の維持・改善が政策課題としてクローズアップされるようになった。鉄道やバスなど公共交通を中心としたコンパクトで高密度な都市への再編成に向け,地方公共団体,民間交通事業者,市民の協働が求められている。交通インフラと都市空間構造のあり方や路面電車が果たす役割について議論し,合わせて現状視察をおこなう。

1.研究発表 (13:30~15:45)
地方中規模都市における公共交通沿線の空間構造に関する研究
-地域公共交通網形成計画の今後の動向を視点に-
・・・・・石川雄一(長崎県立大)
路面電車が可能にする交通インフラと一体となった暮らしに関する研究
-大阪 阪堺電気軌道を事例として-
・・・・・徳尾野徹(大阪市立大)

■地方中規模都市における公共交通沿線の空間構造に関する研究―地域公共交通網形成計画の今後の動向を視点に―
石川雄一(長崎県立大)

2007年の「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」施行後、数多くの自治体等が地域公共交通網形成計画の策定に取り組んでいる。本法律では、本計画策定にあたっては市町村の役割が大きく、市町村は、公共交通事業者等その他の関係者と協力し、主体的に持続可能な地域公共交通網の形成に資する地域公共交通の活性化及び再生に取り組むよう努めなければならない、とされている。人口及び人口属性の変化に鑑み、多くの地方中規模都市で、行政主体の交通体系のあり方の見直しが進められつつある。
本報告では、すでに策定された地域公共交通網形成計画から、地方の中規模都市の事例を抜出し、公共交通の現状と方策を考察し、人口減少と高齢化によって公共交通の維持の困難さが増している地方中規模都市の課題を、本計画にも示されている総合的なまちづくりの視点から、公共交通沿線の空間利用・人口分布等の地理学的な分析・考察を中心に論じることとした。
具体的には、人口40万から50万クラスの中心部に路面電車網を有する地方中規模都市(富山市、広島市、松山市、高知市、長崎市、熊本市、鹿児島市)における沿線の都市構造を考察、フランス、アメリカ合衆国の地方都市の事例も参照しつつ、都市間で相違のある運行維持のための方策を検証した。
また北部九州における人口20万から30万クラスで、地域の公共交通としては、バス交通主体の都市(佐世保市、佐賀市、久留米市)における中心市街地バス路線沿線の都市構造を考察し、公共交通の再生・新たな交通モード導入可能性の検証をおこなった。
報告者は、2014~16年にかけて、佐世保市の地域公共交通網形成計画策定のための委員会の委員として策定にかかわり、また実態調査にも関与してきた。佐世保市は天然のコンパクトシティとしての地形上の利点もあり、佐賀市、久留米市と比較してバス交通をはじめとする公共交通利用に適した環境を有する。ただし多様な交通事業者(JRと第三セクター鉄道、市営と民営のバス、さらにこれらと一部競合する民営沿岸航路)が市域に存在し、委員会においてもそこでの意思統一が重要な課題であり、ゆっくりではあるが成果が出つつある。行政が今後、本法律に基づいて、いかに主導的な立場に立てるかが、公共交通改善のカギを握るであろう

■討論
Q 従業人口と交通流動との関係を見ているが、通学との関係を考慮するなら、学校施設との関係を考えるべきではないか。
石川 松浦鉄道沿線には長崎県立大学と高校がある。松浦鉄道利用者のおよそ50%が通学定期利用者である。市バスも通学割合が高い。おっしゃるとおり、通学も考慮する必要がある。
Q 佐世保のバス路線では二つの企業が競合しているので、一つにまとめるということであるが、その前に、航空会社のように共同運行は模索されていないか?
石川 一本化、共同運行などいくつかのパターンを想定し現在、行政とバス事業者との間で調整中である。
Q 今後の動向に関してお聞きしたい。本発表では、詳細なデータを用いて外国との比較を行っている。LRTを導入した富山では公共交通利用者が増えている。外国はもっと徹底しており、公共交通のために税金を投入している。交通システムの導入により都市の空間構造はどう変わったのか、それを検討することにより今後の動向が見えるのではないか。
石川 フランスではサルコジ政権がLRTの建設に税金を投入した。ヨーロッパの都市は、一般に中心部の人口密度が高いのでランニングコストが安い。日本の場合、富山市に続く都市が少ないということは、需要規模の小さい都市で公共交通を維持することが困難であることが考えられる。また、重要なのは国の支援政策が不足することと思われる。国が果たす役割は非常に大きい。地方公共交通は独立財源で運営するが、実際には補助金が入る。しかし、もっと料金を安くすると利用者は増えると思う。利用者にとって、車より公共交通を利用する方が安いなどのメリットがないと公共交通は利用されないのではないか。それがまちづくりにも影響するのではないか。
Q 独立採算を求められているということは、コストの問題がある。採算が合わないから廃止される公共交通もあるだろう。佐世保市の場合は、行政からの支援はあるのか。
石川 行政からの支援はある。市バスの場合は運行収支だけなら赤字である。市が駐車場収益をまわしているので、採算がとれている状況にある。民営の路線バスは、ネットワークが旧市域を超えて合併市域にも広がり赤字路線を抱えているので、路線単位で補助金を得ている。
Q 地方公共交通の法改正で規制緩和が進んでおり、事業者の申請で赤字路線が切り捨てられている。山間部の赤字を中心部の黒字で補てんすることはどこまで可能か。発表では、それは好ましくないとのことであったが。
石川 低密度のところで限界が来ている。街の中心だけなら料金を下げても対応できるが、赤字路線がネックとなっている。
Q 赤字路線を廃止して、中心部の料金を下げることで対応するとのことか。
石川 交通事業者の経営圧迫につながらないように、赤字路線や交通空白地域は別な方策を考えることも必要である。

■路面電車が可能にする交通インフラと一体となった暮しに関する研究―大阪 阪堺電気軌道を事例として―
徳尾野 徹(大阪市立大)
本研究は、建築計画学の視点から路面電車をコンパクトシティにおける交通インフラとして再評価するものである。研究対象は、大阪都心と郊外とを結び、都心・高級・密集・郊外と様々な市街地を通過する阪堺電気軌道である。まず、軌道敷やホームと沿線市街地との接し方や利用者の過ごし方を詳細に観察することにより、路面電車と地域との物理的な繋がりの実態を把握した。ホームへの店舗や住宅玄関の直結、掃除・鉢植え等の沿線住民による自主的環境整備や物干し等の生活感の表出、夜間の住宅・店舗の灯りや賑わいのホームへのあふれ出しにより、地域は沿線環境整備や利用者の安心感醸成に寄与している。また、開放的なホームや専用軌道敷際が通路として沿線住民の生活動線の一部になったり、ホームのベンチが買い物途中の休憩や井戸端会議といった立寄り場所として機能していることも確認できた。以上は、路面電車が有する建築や人に近いスケール感、構築物の簡素性や非完結性に起因すると考えられ、交通インフラに留まらない機能や使いこなしを誘発し、街や建築との高い連続性・接続性、つまり親和性を生んでいる。
次に、利用者アンケートより利用実態を把握した。利用目的は「買物・食事」が最も多く、「通勤・通学・仕事」「病院」が続く。利用距離は2km未満の「近距離」や2~4kmの「短距離」が多く、距離が延びるほど少なくなる。年代別でみると、若年層ほど利用距離は長くなるが、10~20代、30~50代、60代以上のいずれも3~4割で近距離利用がみられる。「主人と買い物に行くと荷物が多くなるので1区間でも利用する」(50代女性)、「定期があるので郵便局など時間に追われている時は迷わず使う」(20代女性)。最寄駅と目的地とから行動パターンを類型化すると、「単一の目的地を持つ型」「最寄駅を起点に一方向に複数の目的地を持つ型」「最寄駅を起点に双方向に複数の目的地を持つ型」「最寄駅を複数持つ型」を確認することができた。このように路面電車の使われ方は、都心と郊外との移動といった郊外電車的利用だけでなく、短距離のバス的利用、より近距離の自転車替わりの利用も加わり、利用者の個別の生活パターンに柔軟に対応する親和性の高い使われ方がなされていることが分かった。
路面電車は、都市や都市生活に対して親和性の高い、暮らしと一体となる交通インフラの可能性を有する。

■討論
Q 私は、阪堺電車を毎日利用している。発表にあるとおり、阪堺電車は親和性がある。しかし、もっと改良できないかと思う。天王寺駅前からの電車の運行本数は多いが、恵美須町からの路線の運行は田舎のバス並みである。運行本数を増やしてほしいと思うが無理であろうか。そのための案として、恵美須町から路線を北に延長して、日本橋まで延ばすと近鉄と阪神電車と結ぶことができると思う。さらに、バリアフリーに関しては、古い車両は対応できない。
徳尾野 バリアフリーには古い電車は対応できないが、なんとか新車両を導入している。阪堺電車のホームは、乗車しない人も利用する点で、沿線住民・事業者と連携しており、親和性がある。ハード面だけではなく、ソフト面から高齢者対応ができるのではないか。
Q 昔は、恵美須町からの路線は運行本数が多かったが、今は減少した。親和性とまちづくりの観点からみると、この変化をどう解釈していいか。
徳尾野 恵美須町からの路線の方が人口密度や事業所の密度が低く、商業施設などが少ないからかもしれない。
Q 沿線住民が、鉄道沿線に植木鉢などを置くことを、鉄道側がどう考えているのか。沿線で植木鉢などがあれば普通は除外する。都市の親和性にとっては、住民のいい例かもしれないが、管理責任からみると困る。住民の行動を阻害するだけではなく、親和性のある都市空間を形成するにはどういう条件が必要か。
徳尾野 鉄道側は1年に1度調査している。危険なものに関しては、毎年撤去の要請はしている。残っているものは安全なのかもしれない。安全性と責任との関係は難しい。ホームを電車利用者以外の人が利用していることに関して、それが「みまもり」の目となる。賑わいとか安全性とか、長い時間をかけて形成され慣例として定着したものがあり、何らかの価値観を沿線住民と共有していることから可能なのであろう。新たに建設するLRTでは、このような関係性をすぐ形成することはすぐには難しい。運営者が全てを決めてしまうのではなく、時間の積み重ねによって、無人のホームがまちの居場所となるような余白やスキのある運営・計画が必要である。
Q 阪堺電車が好印象である理由が、合理的に説明されてよくわかった。富山のLRTは、車いす対策と視覚障がい者対策に関しては、きちんと整備されている。しかし、親和性の観点からみると、物理的整備が進むと無機質な感じがして、精神的に壁ができるのではないか。今日の発表にあった精神的な面から親和性を形成するということと、物理的なバリアフリーの形成とをうまくよりそうようにするにはどうしたらいいか。
徳尾野 阪堺電車は、レトロな電車が走っていることが親和性を醸し出している。最新型のLRTは工学的には正解だが、沿線の住民に成熟度を醸し出すことや、愛着を形成するには歴史、つまり時間軸を考慮した設計が必要である。
Q 熊野街道沿いと紀州街道沿いに、歴史的建造物がある。歴史的景観の保存と阪堺電車の存続との関係はどうなっているのか。
徳尾野 阪堺電車は街道沿いではあるが、歴史的景観保護と対立するわけではない。路面電車沿線では、線路の錆が舞い上がって瓦屋根に付着して街が汚れることがある。これを「汚れ」ではなく「特徴的な錆色の景観」と解釈すると、路面電車沿いの景観は独特なものに見えてくる可能性がある。

■まとめ
公共交通に対するニーズは,いかなる背景や情況のもとに生まれるのか?公共交通を取り巻く環境が,制度的な側面も含め劇的に変化していくなか,異なる角度から,このことを問いかける示唆に富む報告がなされた。それらは,利用者のアクセシビリティやモビリティを確保することに誰が責任を持つのか,といった交通サービスの担い手の問題やその効率的な運用にかかわる問題とともに,発地と着地ばかりに注目していては見落としがちな,利用者の移動時間や移動経験にも光を当てるものでもあった。このことはまた,自家用車とは対照的に,人々の集う場所(駅・停留所)と時間(時刻表)とを定めることで利用可能となる公共交通が,時間をかけて地域に編み出してきた何らかの「パターン」,もしくは地域や社会の「リズム」といったものついて,より深く掘り下げていくことの大切さを示唆しているようにも思われた。討論では,参加者から自身の利用体験に基づく質問もなされ,また交通サービスの提供側と利用側との視点の違いにも関心が及んだ。
報告終了後,阪堺電車に乗り込みエクスカーションを行った。天王寺駅前と浜寺駅前との間を往復する短い時間ではあったものの,車窓からの風景をゆっくりと楽しむ間もなく,公共交通の持つポテンシャルについて更に活発な議論が交わされた。ご参加頂いた会員の方々に感謝申し上げます。

(参加者28名,企画:鍬塚賢太郎,司会:豊田哲也,記録:鍬塚賢太郎・根田克彦)
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2016.12.10  Comment:0
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