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日時:2018年11月24日(土)10:30~12:00
※人文地理学会大会部会アワーとして開催

奈良大学L棟2階
(〒631-8502 奈良市山陵町1500)

テーマ:人の流動と都市圏

研究発表:ネットワーク科学・情報科学による人流解析の可能性  藤原直哉(東北大)

司会:桐村 喬(皇學館大)

趣旨:
都市圏における人の流動に関しては,従来パーソントリップ調査の結果データが活用されてきたが,より詳細な分析ができるように,パーソントリップデータを加工したものや,全く別の方法で収集されたデータも研究利用できるようになり,「人流データ」として活用が図られている。都市における人々の活動は複雑であるが,ネットワーク科学や情報科学などの分野で開発された手法によって人流データを解析することにより,これまで明らかではなかった法則性が明らかになりつつある。今回は,これらの分析手法により見えてくる,都市における複雑な動的構造について議論したい。

連絡先:桐村 喬(皇學館大) E-mail: t-kirimura[at]kogakkan-u.ac.jp

<報告要旨>

■ネットワーク科学・情報科学による人流解析の可能性
藤原直哉(東北大学大学院情報科学研究科)
近年,いわゆる「ビッグデータ」と呼ばれる,大規模かつ高精度なデータが利用可能となりつつある。このようなデータは,理工系の諸分野のみならず,これまでデータの精度等の問題により定量的解析が困難であった人文・社会科学において大きなインパクトがあると考えられる。
地理学においては様々なデータの分析が重要であるが,その中でも,人流は都市における人々の活動を反映したデータであり,その解析によって,居住地や勤務地などの人口分布のほか,通勤流動など動的な都市機能を明らかにすることができる。取得可能な人流データは,携帯電話の普及に伴ってこの10年ほどの間に大きく変化した。例えば,GPSデータによって得られる位置情報の経時変化によって個人レベルでの流動が得られる。また,通話履歴のデータからも,通話者が使用した基地局の情報を利用して位置情報を得ることができる。これらのデータは,利用者の分布にバイアスがある,プライバシーに十分配慮する必要がある,などの問題点がある。しかし,これらのデータから推定された人口分布や人口流動量などが国勢調査やパーソントリップ調査などのデータと強く相関することが知られている。さらに,災害時のような特別な状況下におけるデータもほぼリアルタイムに取ることが可能であるため,これらの状況でのデータ解析や最適な避難経路の提案など,従来のデータでは不可能であった新たな解析・応用の可能性を秘めている。
このような大規模なデータは極めて複雑な相関関係を含んでいるので,データ規模が大きくなるにつれて,その相関関係を明らかにするための新たな解析手法を開発する必要がある。本発表では,近年開発が進んでいる,ネットワーク科学や情報科学に基づく解析手法を,人流データなど地理学に関連したデータに対して適用した結果を報告し,特に地理学における示唆を議論した。
まず,複雑ネットワークの概観を解説した。ネットワーク(グラフ)は,ノード(バーテックス)およびノードを接続するリンク(エッジ)からなる系であり,数学や社会学などの分野において長い研究の歴史があるが,20世紀末に,スモールワールド性やスケールフリー性などの性質を多くのネットワークが共通して持つことが発見された。これらの性質を持つネットワークは複雑ネットワークと呼ばれ,非常に多くの研究が行われている。地理的な要素を含んだ系においても複雑ネットワークの研究は盛んにおこなわれている。本発表では,世界の航空網の旅客流動のネットワークと世界的な感染症拡大の空間的パターンとの関連や,電力網とインターネット網のような異種のネットワークの相互作用によって大規模停電が引き起こされる例を紹介した。
人流データのネットワーク解析の一例として,本発表では,人流データにネットワークコミュニティ分割(グラフクラスタリング)を適用した結果を報告した。対象となる地域をいくつかの小地域(圏域)に分割することはさまざまな分析・研究において重要であり,米国ではUnited States Metropolitan Statistical Areas,日本では都市雇用圏のように,各国でそれぞれ圏域構造の同定手法が提案されている。ここでは,ネットワーク科学と大規模な人流データを用いて,このような圏域構造を定義する手法を提案する。
解析の流れは以下のとおりである。まず,対象となる地域を,いくつかの小地域に分割する。分割単位には,日本であれば,地域メッシュなどを使用する。次に,人流データを用い,小地域間の流動数を計測する。GPSデータなどのようにトリップが定義されていないデータに対しては,前処理としてトリップを検出し,各トリップを集計する必要がある。
このようにして得られた小地域間の流動量を,重み付きネットワークとみなし,ネットワーク解析の手法を適用する。本発表では,Map Equationと呼ばれる手法を適用した。
その結果,様々なデータに共通して,空間的に連結したコミュニティ構造が得られた。構成法より明らかなように,このネットワークは地理的な距離の情報を陽には用いていない。それにも関わらず空間的に連結したコミュニティが得られたという結果は,交通機関が発達した現代においても人々の移動量が距離に依存していることを示唆している。都市内部においては,人流は十分に混合しており,コミュニティのような構造は検出されない可能性も考えられるが,データ解析の結果はそのような予想には反するものであった。圏域の境界は自治体の境界と一致する場合が多いが,一致しない場合も多数見受けられた。そのような状況では,境界において人流を制限する山や川などの地形的要素が存在しない場合が多い。
また,ジオタグ付きTwitterデータをtf-idfを用いて,時空間的な小領域において,その領域を特徴づける単語を抽出した。ジオタグ付きツイートデータは,位置情報から人流と関係するのみならず,つぶやいた内容から人々の活動に関する手掛かりを得ることができる。解析の結果,「京都」「金閣寺」「清水寺」など,季節に依存しない地域を特徴づける単語のほか,「桜」「祇園祭」など,該当する小領域および季節におけるイベントを示す単語も抽出された。この結果は,Twitterの解析を通じて人々の流動のみならず,各地域における季節的な活動を特徴づけられる可能性を示唆する。
以上のように,本発表では,ネットワーク科学や情報科学を用いた人々の流動と関連するデータ解析の手法について報告を行った。特に,大規模かつ要素が強い相関を持つデータの解析には新たな手法の開発が欠かせない点,また,これらの解析は地理学に対しても新たな知見を与える可能性がある点などを指摘した。検出されたコミュニティ構造は,様々な分野で応用可能であると考えられる。例えば,公衆衛生においては,コミュニティ構造は感染症の拡大対策などの政策を適用する地域的単位と考えることができる。近年発展が目覚ましい,深層学習などの機械学習手法の応用も重要であると考えている。地理学的に重要な問題へのこれらの手法の適用,および適用するデータの検討などの問題は今後の課題である。

■討論
Q:トリップデータをクラスタリングする際,個々のトリップを独立したものして扱う場合と,目的を持つ連続的なものとして扱う場合とがある。今回は個々のトリップを独立したものとして分析しているが,結果として,どこかに出かけた後の移動の回遊性がクラスタリングされている面があるように見受けられる。この点についてどう考えているか。
A:ご指摘の通り,人の流動には周期性があり,トリップ空間には相関がある。今回の手法はトリップ間に相関がないことを前提にしており,個人単位の流動を捉えきれていない。ただし,人の流動を介して感染症が運ばれるときなどには,今回の結果と近いことが起こっているであろう。また,長時間の相関を入れた手法が開発されており,その適用可能性を探るという方向性がある。加えて,ネットワークに時間の情報を入れることも可能である。その場合,同じ場所でも時間によって所属するコミュニティが異なるなどの結果が得られると予想される。
Q:人間関係のネットワークにおける地理的要素を考えると,多くの友人は地理的に近い距離にいるが,遠距離にも友人がいる。ネットワーク科学では,どのように定量化できるか。
A:友人数の分布を距離の関数として求めることで定量化可能で,距離とともに友人数は減少すると考えられる。しかし、遠距離の友人が存在することによって,スモールワールドネットワークのように小さな平均距離が実現されていると考えられる。
Q:地理学では交通網の発展などを検証する際にネットワーク分析が行われてきたが,地理学分野でのネットワーク研究はどのように理解しているか。
A:例えば,イギリスだとUniversity College Londonの研究グループが,複雑系の観点から地理的なシステムを精力的に研究を行っている。道路ネットワークの解析で,中心性指標が混雑や都市の発展の歴史と関連することが指摘されている。地理学でもネットワーク解析が古くから存在することは,ネットワーク的な視点の有用性を示唆していると考える。
Q:人の流動をもとに各地区をグループ化する作業をコミュニティ検出と呼んでいるが,ネットワークにもとづく地域区分などと表現すべきではないか。
A:今回用いた手法がネットワーク科学の分野でコミュニティ検出と呼ばれていることから,ここでもそのまま用いたが,社会的なコミュニティと同じ用語になっており,確かに紛らわしい。何か別の表現がないか,今後の検討課題としたい。
(参加者:18名,司会:桐村喬,記録:山神達也)
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2018.10.29  Comment:0
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