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日 時:2019年7月13日(土)13:30~17:00
会 場:同志社大学 今出川キャンパス良心館RY408
〒602-8580 京都市上京区今出川通烏丸東入
https://www.doshisha.ac.jp/information/campus/imadegawa/imadegawa.html

テーマ:ジェントリフィケーション/リノベーション
趣 旨: 50年以上も前にロンドンで見出された「ジェントリフィケーション」は,そこに何かしらの緊張関係や葛藤を見るためか,様々な論争を含み込み,新たな関心を引き起こしてきたようにみえる。その原動力は,もしかすると街区や建物の変化を「リノベーション」と表現した時に生まれる温度差にあるのかもしれない。いずれにしても,偶然にもジェントリフィケーションをキーワードの一つとして研究に取り組む報告者と巡り会うことができた。しかも,京都,ロンドン,ポートランドといった「認知度」の高い都市を素材とする報告者達である。「比較」のなかにセレンディピティーを期待するのは尚早すぎるのかもしれない。まずは幅広い視野を持って,ローカルな経験を学びたい。

報告者・題目:
■池田千恵子(大阪成蹊大学/大阪市立大学・特別研究員):町家ゲストハウスの増加の要因と地域に及ぼす影響-京都市におけるツーリズムジェントリフィケーション-
■松尾卓磨(大阪市立大学・院):メディアの言説と商業集積に着目した現代ロンドンのジェントリフィケーション研究
■長野 悠(明治大学・院):ジェントリフィケーションの主語を問う-米国オレゴン州ポートランド市カリー地区の市民団体の取り組みから見えて来たこと-

※報告終了後,ショート・エクスカーション(同志社大学の今出川回帰の影響)および懇親会を予定しています。

連絡先:鍬塚賢太郎(龍谷大学) kuwatsuka(at)biz.ryukoku.ac.jp
※お手数ですが(at)を@に置き換えてください。

■町家ゲストハウスの増加の要因と地域に及ぼす影響-京都市におけるツーリズムジェントリフィケーション-
池田千恵子(大阪成蹊大学/
大阪市立大学・特別研究員)
 京都市を訪れた外国人宿泊客数が大幅に増加し,京都市内では宿泊施設が急激に増加している。特に簡易宿所が2011年の249件から2018年9月時点で2,710件へと増加した。簡易宿所の中で,町家を再利用したゲストハウス(以下,町家ゲストハウス)に着目し,町家ゲストハウスが増加した要因,地域に及ぼす影響,地域住民の対応について,ツーリズムジェントリフィケーションの観点を用いながら報告した。
 ツーリズムジェントリフィケーションは,地域住民が利用していた食料品店や小売店などの日常的な店が減少する一方で,娯楽や観光に関わる施設や高級店が増加し,富裕層の来住が増えることにより,賃料が上昇し,低所得者層などの立ち退きを生じさせる現象である。
 町家ゲストハウスは,2014年の40件から2018年9月の597件へと増加しているが,その要因として,京都市の関与がある。条例で玄関帳場(フロント)の設置義務を免除し,ゲストハウスへの改修資金の補助など,宿泊施設拡充の施策や空き家対策としての京都市の関与が確認された。ゲストハウスとして需要が拡大した町家は,不動産投機の対象となり,町家の価格が高騰し,町家の居住者の立ち退き,観光客向けの商業施設の増加など,ツーリズムジェントリフィケーションの発現が確認された。
 地域に及ぼす影響としては,宿泊者が玄関口で喫煙した吸い殻や分別されていないゴミの放置,就寝時間帯の騒音などに住民は悩まされていた。このような状況に対し,六原のまちづくり委員会では,六原学区内の30の町内会と共に簡易宿所の実態調査,届け出のない簡易宿所に対する営業中止の申し立て,町内会と簡易宿所の事業運営者との協定締結への指導などを行っていた。
 また,簡易宿所は,初期には観光地の近隣や交通の利便性の高い場所で増加していたが,2017年から2018年では,菊浜学区や山王学区など居住地への転換が進まなかった地域で急増していることも確認した。
 このように京都市においては,簡易宿所が急激に増加してきたが,2020年には必要な宿泊室数を1万2,000室ほど超える状況となり,今後は簡易宿所の淘汰が見込まれる。過剰に供給された簡易宿所を含めた宿泊施設が,今後どのようになっていくのか。これからも,その動向について検証が必要である。

■メディアの言説と商業集積に着目した現代ロンドンのジェントリフィケーション研究
松尾卓磨(大阪市立大学・院/ 
日本学術振興会特別研究員DC)
 英国の首都ロンドンを対象とし,英国の主要メディアの記事分析を通じたジェントリフィケーションの社会的認識と「小売業のジェントリフィケーション(retail gentrification)」とジェントリフィケーション地域における商業集積について報告した。
 前半の記事分析では,2010年から2018年にインターネット上で発信されたジェントリフィケーション関連の記事のうち,ジェントリフィケーションと特定地域を結びつけた内容を含む記事(191件)を対象とした。ロンドンではジェントリフィケーションが特に消費や地価,社会階層等と関連付けて記述されているケースが多かった。時間軸に注目すると,反ジェントリフィケーション運動の発生に伴って特定の時期(2015年)に特定の地域(ショアディッチ&スピタルフィールズやブリクストン)への言及が急増するケースが見受けられた。また,メディアの記事の中でジェントリフィケーション発生地域として言及される回数が特に多い地域はロンドンの中心地域であるインナーロンドンに集中しているということも明らかとなった。
 次に,典型的なジェントリフィケーション地域における商業集積に着目した。ロンドンでは2010年代に入りサラ・ゴンザレス(Sara González)やフィル・ハバード(Phil Hubbard)らによって「小売業のジェントリフィケーション」が論じられるようになり,ジェントリフィケーションが単に居住空間の変容や居住者階層の上方変動だけではなく,消費空間の構成や消費者の購買行動も対象化されているということを紹介した。また,ロンドンの典型的なジェントリフィケーション地域である3地域(ショアディッチ&スピタルフィールズ,ブリクストン,ペッカム)を対象とした現地調査(2019年2月実施)の結果を報告した。この3地域に立地する小規模路面店(1,204店舗)の分布,業種,営業状態の把握を通じて3地域における業種別の店舗構成の違い等を明らかにした。小売業のジェントリフィケーションに関する既往研究ではジェントリフィケーションの進行による既存店舗の立ち退きが問題視されているが,本研究の対象地域ではそうした状況は明確には生じていなかった。店舗の移転や入れ替わりをジェントリフィケーションの影響と捉えることができるのかという点を精査するためにも,経営実態や店舗構成の経年変化をより具体的に確認していくことが今後の研究の課題として浮かび上がった。

■ジェントリフィケーションの主語を問う-米国オレゴン州ポートランド市カリー地区の市民団体の取り組みから見えて来たこと-
長野 悠(明治大学・院)
 人口約60万人の都市であるアメリカ合衆国オレゴン州ポートランド市は,都市環境政策を積極的に実行してきた。例えば1993年には,国内で初めて,市として二酸化炭素排出量を削減するための政策である「地球温暖化防止戦略」を策定し,その翌年の1994年には「持続可能な都市の原則」を発表した。2000年代に入ると,複数の研究者やジャーナリストがそれらの政策を評価し,同市を「持続可能な都市」などと称すようになった。しかしその一方で,ポートランド市では,都市の再開発により経済的に恵まれた層が流入し地価の高騰を引き起こすジェントリフィケーションが深刻化するようになった。その結果,同市に住む貧困層及び有色人種が立ち退きを迫られるケースが続発している。持続可能な都市というイメージの影で,社会的弱者の生活環境が脅かされているのである。
 都市政策における「持続可能性」や「緑化」がジェントリフィケーションに繋がる可能性を指摘する研究(グリーン/環境・ジェントリフィケーション研究)は,特に2010年代に入り,ますます盛んになっている。これらの研究は,公園,エネルギー効率の良い建物,公共交通機関などの開発や整備が進むにつれ,その周辺地域もまた開発対象となり,地価や家賃の上昇,そして住民の立ち退きを招くことを批判的に検討している。しかし,そのような生活環境の改善をめぐる矛盾の指摘が中心的な関心事である一方で,地元住民が,生活環境の改善もしくは立ち退きというジレンマをどのように認識し,その現状からどのように抜け出そうとするのかという,当事者としての住民による複雑で多様な営みに注目する研究は,あまりみられない。
 本研究では,以上に示したことを前提に,ポートランド市北西部に位置するカリー地区で活動する市民団体に注目し,住民自身による公園建設とカリー地区において深刻化するジェントリフィケーション,また,空間形成に対する認識について明らかにした。多くの先行研究は,公園や公共交通機関の整備などの都市環境政策がジェントリフィケーションに繋がる過程を批判的に捉えている。しかし,本研究が焦点を当てた市民団体は,環境に配慮し持続可能な都市空間を創出する営みを全面的に否定しているわけではなかった。住民たちは,そのジェントリフィケーションにまつわる諸問題を認識しながらも,自らの主導で「持続可能な空間」を創出しようとしていた。ジェントリフィケーションによる地理現象について,地元住民は必ずしも全面的に反発しているとは限らない。彼らがこれを,自らの生存戦略に繋げていこうとする方向性についても,今後,さらに分析を進める必要がある。

■討論
Q 池田報告で示された町家ゲストハウスの増加について,海外のツーリズムジェントリフィケーション研究にどう位置付けるのか。
A(池田) 町家が観光関連施設として利用され,不動産投資の対象となることで、立ち退きが生じている。Q 松尾報告について,対象となる記事の抽出では,言葉を基準にしたのか,それとも内容も含むのか。
A(松尾) タイトルや内容にジェントリフィケーションに関するキーワードを含むものに限定した。地価の上昇という内容でジェントリフィケーションに関する語が使われていないものは対象とはしていない。
Q 長野報告について,人口構成の変化については他の指標を見たほうが良いのではないか。
A(長野) データは十分に確認しておらず,市の調査結果をそのまま使った。
Q アフォーダブル住宅の供給が計画通りではないとのことだが,カリー地区ではどうなのか。また,ポートランド全体から考えて,カリーは特別なのか。
A(長野) カリー地区では市民団体が活発なので,他の地区と比べて供給が多い。また,ジェントリフィケーションがポートランド中心部で生じたのち,玉突きのようにカリーでも生じている。ジェントリフィケーションのこれまでの経験を踏まえて,市がカリーでの取り組みを支援している。
Q 公園建設が貧困対策になるのは一般的なのか。
A(長野) 排除の論理として公園が用いられることはあるが,今後整理する必要があると考えている。
Q 松尾報告について,ブリックレーンはバングラデシュ人の街として観光客を集めているが,主体は零細資本で,周辺のバングラデシュ人の需要を満たすものであることから,立ち退きはなく,住民が入れ替わっただけではないかと考えられる。それをジェントリフィケーションの枠組みで考えてよいのか。
A(松尾) 現時点では現状把握にとどまっているため,ブリックレーンの事例をジェントリフィケーションの枠組みで理解できるかは不明であり,移民の間で零細な経営者が業種や看板を変えて入れ替わっているというのが正確であろう。経年変化を見ていくことで,国際飲食チェーンの資本が入ることなどで立ち退きが生じれば,リーテイルジェントリフィケーションとして捉えることができるのではないか。
Q ブリックレーンを中心とするショアディッチ&スピタルフィールズは,メディアに多く扱われていたというが,メディア自体がそこをジェントリフィケーションと考えているのか。
A(松尾) 今回はジェントリフィケーションという言葉を用いているかどうかを見ただけであり,メディアが年とりふぃケーションを深く理解しているかは別問題である。メディアが注目していることは事実だが,実質的な内容については議論の余地がある。
Q 記事のデータをどのように検索・入手したのか。言説分析はどのように行ったのか。
A(松尾) アーカイブ化されたものをすべて読み,他国のものや意味の異なるものなどを除外して,市内の特定地域に関連するものを抽出した。数の推移については,会社によってアーカイブ化の程度に差があると考えられ,厳密な検討は不可能である。
Q ジェントリフィケーションという言葉を使うだけで,ネガティブな印象があるのではないか。
A(池田) ポートランドの事例では,アフォーダブル住宅の関係からネガティブに捉えられていた。京都市については,ゲストハウスとして利用されることで町家が保全される点でプラスの側面がある。ただし,人が居住しない場が増えることで,地域住民は不安を感じ,地域コミュニティが薄れて,祭に関わる人が減少するなどのネガティブな側面もある。
A(松尾) インターネット検索やロンドンの既往研究を見る限り,必ずしも否定的なニュアンスがあるわけではない。左派系のメディアでは,立ち退きや地域の変化に関する文脈で用いられるが,不動産に関する記事では,資産価値が上昇したという書き方もあり,捉え方は様々である。アカデミックな研究でも同様であり,ジェントリフィケーションそのものよりも,立ち退きや行政のスタンスなどが問題であり,地域の価値が上がることや雰囲気がよくなることについては,価値判断はそもそもできないのではないか。
A(長野) グリーン環境ジェントリフィケーションは,ジェントリフィケーションの善悪の価値判断をゆさぶるものであると考えている。公園ができる過程で周辺の地価が上昇し,公園にアクセスできない人が増える状況がある。また,アメリカであれば,Bike lanes are white lanes(自転車道は白人のためのもの)という言葉が用いられ,自転車道の白人化に対して黒人の人たちが反対するという動きもある。今回報告した事例は,何を起点にジェントリフィケーションを考えるのか,従来のジェントリフィケーション研究における排除の論理をゆさぶるものであると考えている。
Q ジェントリフィケーションではその地域を誰が利用するかが問題であり,住民の上方変動を丁寧に把握する必要はないのではないか。
A(池田) 京都の事例では,ゲストハウスができることに伴う変化が議論の焦点となる。町家がゲストハウスに変わることで,既存の住民の生活空間が狭まり壊されてしまうため,ますます住民が減少してしまう。
A(松尾) イギリスの事例を見る限り,ジェントリフィケーションのバロメーターとして,インナーシティにミドルクラスが入り地価が上昇するというのは,狭義の古典的な定義である。現在では,プラネタリージェントリフィケーションなど第三世界でも適用できる概念になっており,適用の対象もインナーシティには限定されない。立ち退きなどへの言及があやふやであっても,ジェントリフィケーション研究とされる論文が既に多くあることから,古典的な定義で示されている主要素に一つでも関係してればジェントリフィケーションとなるのが現状ではないか。
A(長野) ジェントリファイアーが何かを作り,そこに住む人々を追い出すというジェントリフィケーションのストーリーがあるとすると,公園は住民が求めているものであるとはいえ,確かにジェントリフィケーションの危険がつきまとうことになる。しかしそのなかでも,よりよい生活をするために,住民が自ら行動することに注目することが重要であると考えている。
Q まちづくりとジェントリフィケーションとの差は何か。例えば,まちづくりで,遊休不動産をもとに新しいビジネスが立ち上がり新しい人々が来る。ジェントリフィケーションもはじめはそういうものであったが,富裕層の転入・来訪のなかで行き過ぎた現象が生じるようになったものと捉えることができるのか。
A(長野) 今回の事例ではまだ評価できない。市民団体の考えに近い公園はできたが,今後,住宅市場がどう変化するか,安価な住宅の建設が実現されるのかは不明であり,まちづくりがジェントリフィケーションにからめとられていくのではないかと考える。
Q ポートランドの場合,住民の運動として,ジェントリフィケーションを住民がいかに利用するかというものであったと考えられるが,京都やロンドンの動きはポートランドと比べて何が違うのか。
A(長野) ゲストハウスや小売店は特定の層がアクセスするが,公園は語られ方が異なるのではないかと考えている。また,公園にも多様性があり,排除の空間としての公園も成立する。カリーの場合,包括的に,マイノリティの集まる地区を盛り上げるというものであったと評価した。
Q 公園を作ることのリスクというが,立ち退きがジェントリフィケーションの最も重要なものであるとすれば,解決不能ではない。立ち退きを迫られる人たちに十分な補償がされれば,都市経済学的には問題は生じない。ポートランドの場合,コミュニティの活性化や地域開発に関する問題であり,ジェントリフィケーションの現象ではないと考える。
Q まず,補償すればよいというのはもっともに聞こえるが,ニューオーリンズでの水害では,持ち家所有者以外への補償は十分なものではなかった。その点で,立ち退かざるを得ない人々への視点が求められる。次に,松尾氏の発表に関して,本来のミドルクラスは中小の工場主や商店主であることから,ミドルクラスとニューミドルクラスを区別する必要がある。また,今回の発表の共通点は,アンティディスプレイスメントをどう考えるかにある。ショアディッチ&スピタルフィールズの住民も,ユダヤ人からバングラデシュ人へと大きく変化した。エスニシティをどう考えるかがポイントではないか。
A(松尾) 立ち退きが起こった時,補償がない場合には批判が巻き起こる。また,公営住宅の建て替えにより家賃が上昇して立ち退きが起こり,自治体もそれに対して配慮しないという事例があり,そうしたディスプレイスメントも生じている。

■おわりに
今回は,ジェントリフィケーションを議論の中心に据えつつ,それぞれ対象となる地域や事象が異なり,また研究の視点にも違いがあったことから,共通点・相違点も含め,活発な議論が展開された。今後のジェントリフィケーション研究の深化・多様化が期待される充実した報告会となった。また,研究報告終了後,同志社大学の今出川回帰に伴う変化を観察するショート・エクスカーションを実施した。マンションの増加やゲストハウスに改修された京町家,景観整備された小川通など,3名の報告に関連する事象を現場で確認し,参加者の理解が深まったものと想像する。なお,同じ日に放映された「ブラタモリ」の対象地域が京都市西陣地区であり,エクスカーションでの訪問地がいくつか紹介された。最後に,報告会の会場の手配やショート・エクスカーションのルートの紹介などで同志社大学の二村太郎氏の協力を得た。ここに記して感謝したします。
(参加者:27名,記録:桐村 喬・山神達也)


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2019.05.23  Comment:0
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