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日 時: 2019年11月17日(日)16:10~17:40(大会部会アワー)
  ※今年は2日目の一般研究発表終了後に予定されています

会 場: 関西大学千里山キャンパス

テーマ: 都市計画学と都市地理学の対話

趣 旨:
 複雑化する現代の都市圏研究には学際的視点の重要性がいっそう高まっている。本
研究部会では隣接領域から第一線の研究者を招き、2016年度「都市経済学と都市地理
学の対話」(中村良平・岡山大学教授)、2017年度「都市社会学と都市地理学の対
話」(町村敬志 ・一橋大学教授)を開催してきた。今回は、都市計画学の分野にお
けるコンパクトシティ研究の第一人者であり、国の政策形成にも深く関与する谷口守
氏を招き、コンパクトシティ政策の目的や方法について話題提供いただき、都市圏の
将来デザインと都市構造の再構築に向けた可能性について議論を深めたい。
 なお、本研究部会では、2009年7月に中国四国都市学会および徳島大学と共催で、
公開シンポジウム「地方都市の再生-郊外展開かコンパクトシティか-」を開催して
おり、藻谷浩介氏(当時・日本政策投資銀行)による基調講演をもとに、都市地理学
研究者が中心市街地活性化や大型店立地政策との関係について議論をおこなった。今
回の企画は、それ以降10年間のコンパクトシティ政策を歩みを検証し、都市の将来を
展望する機会となるだろう。

研究発表:
コンパクトシティ政策の課題と再考
 -生活習慣病化する都市に向き合う-
・・・・谷口 守 (筑波大学システム情報系社会工学域教授)

コメンテータ:豊田哲也(徳島大)

連絡先:豊田哲也(徳島大)E-mail: toyoda.tetsuya[at]tokushima-u.ac.jp

■コンパクトシティ政策の課題と現実
―成人病化する都市とおりあう―
谷口 守(筑波大学)
1)はじめに
 地理学は極めて重要な学問分野であるが,社会全般においてその認識が不十分である。特にコンパクトシティなど都市構造に関する議論は地理学に深く関わる領域であり,都市計画や地域政策関係者は日頃から地理学の素養を高めることが求められる。かつて発表者は博士論文として,京阪神都市圏を対象に拠点に相当する「都市機能集積地区」を設定し,交通ネットワーク整備を通じた活性化を定量的に論じた。その成果は25年の歳月を経て,2014年施行の立地適正化計画における「都市機能誘導地区」に投影されたが,現在まで取り組んできた一連の研究は地理学の多くの知見に基づいている。
2)コンパクトシティ政策導入まで
 都市のコンパクト化による効果は多岐にわたり,人口減少社会において避けては通れない課題である。欧州では1987年の国連ブルントランド報告以降,各国の主要政策として採用された。その論拠となる研究として,Newmanらによる都市居住密度と自動車燃料消費の関係図がよく知られる。わが国においては1999年に谷口らが,市街化区域人口密度が倍になると一人当たりガソリン消費量が半減することを定量的に示した。ただ,わが国では該当する法律がないという法律至上主義や,計画と規制の判別が理解できない自由経済主義の中で,コンパクト化政策が国政レベルで採用されない状況が続く。むしろ青森や富山など地方都市の方が国よりずっと先に動いていたというのが実情であった。
 主に工学系の学会や社会資本整備審議会での活動が実り,2007年にガイドラインとしてようやくコンパクト化政策が推奨されたが,法律として日の目を見たのは2012年(エコまち法),実質的に影響力のある法律としては2014年の都市再生特別措置法の改正(立地適正化計画の導入)まで待たねばならなかった。私見では,こうした経緯は社会が都市計画に向き合わず課題を先送りにする「都市計画回避」が積み重ねられてきた結果である。その意味で過去と同じ過ちを繰り返さないためにはどうするかを真摯に考える必要がある。
3)現在の課題
 国政レベルで政策転換が計られた結果,現在では猫も杓子もコンパクト化を標榜する状況となり,中には実態が伴っていないケースも散見される。また,取り組みの多くは都市に対するカンフル剤と誤解され,無理筋の性急な成果が求められることも多い。今や社会に対しコンパクト化政策をどう伝えるかを考え直す時期に来ているのではないか。個人の利益最大化のために「都市計画回避」が支持され続けた結果,日本の都市はいわば各種の成人病に罹患しており,体質改善としてコンパクト化政策が求められている。具体的には都市の現状を循環不全,肥満化,骨粗しょう症,がんなど様々な病理に例えて示すことで,行政担当者や一般市民にとっても実像や課題と対応すべき方策が見えやすくなる。ちなみに,このような生物にたとえて課題解決を目指す学問領域をバイオミメティックス(生物模倣学)といい,都市計画以外の各研究分野では既に広く取り入れられているアプローチである。
 従来の「競争して増やす」という経済原理に基づく発想は,人口減少社会の中でそのスポットだけ黒字拡大を目指すタワー型マンションを生んだ。これは都市圏全体を生命体と見れば「がん細胞」以外の何者でもない。今求められているのはその逆の「協調して減らす」仕組みである。「官から民へ」という利潤追求型思考では各地へのがん転移が進むばかりである。旧東ベルリン地区では,公共事業として建物のボリュームを減らす減築事業がコンパクト化政策として効果を上げているが,「公共事業はすべて悪」というわが国特有の思考停止がそのような取り組みを提案すること自体を阻害している。
4)打開策を探る
 自治体職員に対する継続的な意識調査によると,本音ではコンパクト化政策は実現困難と感じている者が依然多い。ガイドラインが提示された2007年当時と,立地適正化計画が導入された2014年頃を比較すると,関連する諸制度ができたという点では改善と理解されているが,関連業務が増えて手が回らなくなったという指摘が逆に増えている。
 実際どのような具体的方策を取ればよいかという判断は自治体によって全く異なる。当然,他都市の模倣ではなく,自分の頭で考えることが重要だ。そのためには客観的な空間情報を常にアップデートし「見える化」することで,適切な判断ができる環境を整えておく必要がある。都市計画学会では,グーグルアース上で地域の空間構造が一瞬で把握できる「都市構造可視化サイト」を開発し,無償で提供している。このサイトを審議会の場で活用したところ,委員の意見が180度変化したケースもあった。このような「見える化」の推進は関連学会が協力して引き続き取り組むべき課題といえよう。
 人口減少社会では低密度に広がって住むことが不適切であるという意識が市民レベルで共有されない限り,いかなる法制化も都市拡散を止めることはできない。また,総本山である「都市計画法」が適切に改正されない現状では,法律によるコントロールという常識から一度離れることも必要である。さらに,「地方分権化」「住民主権」「官から民へ」「競争」など当然視されてきた既成概念が,一般市民のみならず一部の研究者の思考停止を招き,結果的に都市の成人病を悪化させていることをよく認識すべきである。この社会状況を糺していくためには,都市計画の専門家だけでは明らかに不足し,その対応も偏りがないとはいえない。バランスの取れた地域づくりを実現する上で,地域を研究対象に掲げる地理学者の積極的な関与と一層の行動を期待したい。

■討論
Q ある自治体で立地適正化計画の誘導施設を決める際,商業機能は不足していないため対象とならなかったが,制度上そのような設定になっているのか。
A(谷口) 自治体側の思い込みで判断が硬直化しているのではないか。中心市街地活性化政策と立地適正化政策を結びつける発想が弱く,国交省,経産省,農水省などセクショナリズムが足を引っ張っている。
Q 立地適正化の居住誘導区域の引きはどのように決めるのか。その外側で住民に不利益は生じないのか。
A 市街化区域とは異なり居住誘導区域に法的な権利の制限はない。誘導区域では今後インフラ整備を進めるため,サービスのレベルに差がつく可能性はある。むしろ重要なのは,防災の観点から都市計画の議論ができるようになったことにある。
Q 合併した自治体でバラバラな都市計画区域を見直そうという動きがあるが,周辺地域では要件を満たさないため設定できない例がある。人口減少時代において都市計画法が合わなくなっているのではないか。
A こうした事態は当初からある程度予想されたことで,地理学会として市町村合併に反対したのかが問われるだろう。都市計画法の抜本改正は2007年以来ずっと言われてきたが,2011年の震災や2014年の立地適正化以降うやむやになった感がある。
Q 歴史的景観を保全したまちづくりはどうすれば実現可能か。自己利益優先の建設や開発で法の抜け道を探すような社会的風潮は許されるのか。
A 日本の都市政策では形式的な安全性が重視され,景観への配慮が足りないと思う。また,都市整備をおこなうのは官か民かという二者択一に陥り,パブリックあるいは「共」の概念が欠けていると考える。

■コメンテーター所見
豊田哲也(徳島大学)
 部会アワーに合わせた「隣接科学との対話」シリーズは,2016年の都市経済学から,都市社会学,情報学に続いて4回目である。都市計画学は望ましい地域の将来像を議論し,そのための方策を探ることを学問的使命としている。国のコンパクトシティ政策に深く関与してきた谷口氏は,都市地理学の意義や研究上の貢献を高く評価しつつも,現状分析にとどまらず提言や行動につなげてほしいと訴えた。空洞化やスプロール化が進んだ現代日本の都市は,いわば成人病患者のような状態にあり,体質改善のためコンパクト化政策は不可避であるという比喩は説明としてわかりやすい。従来の「競争して増やす」という経済原理から「協調して減らす」という計画思想へ転換することの重要性も理解できる。ただし,規制緩和や分権化を是とする新自由主義的主張を疑い,オルタナティブな価値を追究することは,環境政策と同様の難しさをともなうだろう。都市計画学からの期待にいかに応答するかは都市地理学研究者一人一人の課題であると思われる。
(参加者:34名,記録:桐村 喬・豊田哲也)
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2019.09.09  Comment:0
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