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第57回 都市圏研究部会

共 催:経済地理学会関西支部,日本都市地理学研究グループ

日 時: 2015年12月5日(土) 13:00~17:00

会 場:新大阪丸ビル新館609号室
東淀川区東中島1-18-27、新大阪駅から徒歩2分 Tel: 06-6321-1516
会場へのアクセスは、以下をご参照下さい。
http://www.japan-life.co.jp/jp/buil/sinkan/map.html

テーマ:企業のグローバリゼーションと地域振興

オーガナイザー:日野正輝(東北大学)・西原純(静岡大学)・阿部和俊(愛知教育大学名誉教授)・藤塚吉浩(大阪市大)

報告と討議:

日系多国籍企業のアジア立地展開とサプライチェーン・・・・・・鈴木洋太郎(大阪市立大学)

Value Capture Trajectories and Strategic Coupling of Regions with Global Production Networks・・・・・Henry Wai-chung Yeung(シンガポール国立大学地理学科)

座長: 日野正輝(東北大学)、宮町良広(大分大学)

■日系多国籍企業のアジア立地展開とサプライチェーン
鈴木洋太郎(大阪市大)
本報告では、近年における日系多国籍企業のアジア立地展開とサプライチェーン(供給網)の特徴と動向について、産業立地論の観点から研究報告を行った。特に、日系アジア現地法人の原材料の現地調達と製品の現地販売が増大する「サプライチェーンの現地化」に着目して、研究報告を行った。
日系アジア現地法人が原材料をどこから調達するのか(現地からか、日本からか、第三国からか)、製品をどこに出荷するのか(現地向けか、日本向けか、第三国向けか)は、その日系アジア現地法人の役割を反映している。たとえば、原材料をもっぱら日本から調達しているのならば、日本の分工場的な役割を有していると考えられる。また、製品をもっぱら日本向けに出荷しているのならば、日本市場への輸出拠点の役割を有していると考えられる。
最初に、統計データを整理しながら、日系多国籍企業のアジア立地展開とサプライチェーンの特徴を述べた。日系アジア現地法人の仕入高内訳データと売上高内訳データから、2000年代以降、進出国における現地調達割合も現地販売割合も増加してきたことがわかる。特に、現地調達割合については、約40%から約60%へと大幅に拡大している。
日系多国籍企業のアジア立地展開は、労働指向型よりも市場指向型になりつつあり、「市場に関する立地環境」に注目すべきであることを指摘するとともに、日系アジア現地法人の現地調達と現地販売が増大する「サプライチェーンの現地化」の背景には、アジア新興国の大都市圏における産業集積の形成があることを指摘した。
 次に、筆者のインタビュー調査にもとづいたサプライチェーンの現地化についての事例研究を紹介した。現地の市場ニーズに対応した製品開発など日系多国籍企業(家電メーカー)のアジアでの現地販売拡大への取り組みについて述べるとともに、インドネシアとベトナムにおける家電マーケット面での立地環境上の特徴を比較検討した。
また、日系物流企業のアジアにおける事業展開として、インドネシアにおける自動車部品の物流事業のケースとタイにおける食料品の物流事業のケースを述べた。前者は、現地の日系部品メーカーから完成車メーカーへとミルクラン方式でのJIT(ジャストインタイム)物流を行っている。後者は、現地の食品メーカーからコンビニや飲食店への「コールドチェーン」(低温での保管・配送)物流を行っている。
最後に、サプライチェーンの現地化に対応しながら事業展開するための日系多国籍企業の課題として、日系多国籍企業のアイデンティティと「安全・安心・信頼のバリュー」の構築について論じた。

■Promoting regional development in a world of global production networks
Henry Wai-chung Yeung(National University of Singapore)   
In its World Investment Report 2013, UNCTAD estimated that some 80 percent of international trade was now organized through global production networks (GPNs) coordinated by lead firms investing in cross-border productive assets and trading inputs and outputs with partners, suppliers, and customers worldwide. If these production networks are indeed the organizational backbone and central nervous system of today’s global economy, how does a regional economy develop and thrive by taking advantage of access to markets, technologies, knowledge, and capital embedded in these chains and networks?
I believe regional growth and development can be sustained through a process of strategic coupling that brings together key actors (e.g. firms) and institutions (e.g. state authorities) in regional economies and global lead firms in those production networks. This process of mutual complementarity can work to the benefits of both regional economies and GPNs. The former gain employment, production knowhow, and market access. The latter become more competitive through efficiency gains and technological innovation.
In East Asian regions, my research has identified three forms of such strategic coupling.
1. International partnership: In the Taipei-Hsinchu region, this articulation has taken the form of domestic Taiwanese firms serving as strategic partners of lead firms in the global information and communications technology (ICT) industry. In Singapore, global lead firms have made a direct presence through inward investment. This international partnership with global lead firms, either through transactional relationships or direct presence, brings tremendous growth dynamics and development potential to global industries in both cases: the Taipei-Hsinchu region (e.g. electronics and ICT) and Singapore (electronics, chemicals, finance, and transport and logistics).
2. Indigenous innovation: The presence of the developmental state creates the possibility of indigenous innovation through sustained national efforts in developing new products and process technologies embodied in such organizational forms as national firms (e.g. Samsung and TSMC) and strategic industries (e.g. semiconductors). These are large lead firms emerging from decades of sustained industrial policies that work in tandem with the return of technological and business elites from advanced industrialized economies (e.g. the US). Indeed, some of these national firms have become lead firms in their own global production networks, underscoring the developmental possibility of increased autonomy and capabilities in East Asian regions such as Seoul Metropolitan Area (South Korea), Taipei-Hsinchu (Taiwan), and Singapore.
3. Production platforms: Since the early 1980s, developing regions such as China’s coastal regions, Malaysia’s Penang, and Thailand’s Greater Bangkok region have been strategically coupled with the huge demand for competitive production platforms by lead firms in GPNs. As production platforms, these regions provide very competitive cost structures, abundant labour supply, stable policy environment, fiscal and other financial incentives, and so on.
In short, strategic coupling is a selective process that incorporates only certain regional and GPN actors. It is unrealistic for regional policy makers and practitioners to expect such global-regional coupling process to be always inclusive; it is even more dangerous for them to rely exclusively on such strategic coupling as the only pathway to regional upgrading and positive development outcomes. There is always a critical role for regional institutions and groups of actors to engage in joint decision and collective action to mitigate the negative consequences of such GPN coupling and to consider a more balanced and equitable form of regional development.

■討論とまとめ
討論では,主として以下の点に関して質疑が行われた。
第1に,日系企業の進出先として、アジアを一括して扱うことに対する疑問である。例えば,アセアンは関税を排して一体化した地域とみなせ,アセアン内と外とでは取引が異なる。鈴木氏は,国と地域の違いを多様な側面から検討する必要があるがデータの限界もあると回答した。
第2に,日系企業のアジア進出における現地企業との関係と,現地への貢献に関する質問がなされた。日系企業は主として富裕層を対象にしているのではとの指摘がなされた。鈴木氏は,2000年以降日系企業による現地企業への調達への依存度が高まったことを指摘した。その背景には,進出先の国からの強い要望があり,それは自動車メーカーに対して強く,電器機産業ではそれほどでもなかった。また,日系企業は現地調達の際に,地域・国を使い分けている。アジアのレンタル工場では,1次下請けのティア1だけではなく,ティア2,ティア3と呼ばれる2次、3次下請けも進出している。最後に,BOP(Bottomo/Base of Pyamid)ビジネスに携わる日系企業は少ないが,インドネシアではBOPビジネスに近いことを行っている日系企業があることを指摘した。
第3に,グローバル生産ネットワークにおける国家・地域・都市政府の役割と,多国籍企業の役割に関しての質問がなされた。Yeung氏は,経済的価値を作るのは国家・地域・都市政府ではなく企業であると回答した。しかし,グローバル生産ネットワークにおける多国籍企業の競争は複雑化しており,現在の競争は企業のネットワーク間の競争である。多国籍企業は複数の国・地域を利用して,企業内,企業間,企業外における経済的・非経済的関係の中で競争する。なお,グローバル生産ネットワークとグローバルシティネットワークとは密接に関係し,多国籍企業の本社が置かれる都市がリーダーとなり,それはしばしばグローバルシティとなる。
第4に,グローバル生産ネットワークの中で,発展途上国が内生的に発展するためのカップリングの効果に関する質問がなされた。Yeung氏は,技術と知識に対する投資などにより,国際的比較により内生的競争力を発展できることと,日本の役割を保つために,グローバル生産ネットワークにおける新たな国際分業のあり方を模索する必要があることを指摘した。
(参加者33名,司会:日野正輝・宮町良広,記録:根田克彦)


2015.09.28  Comment:3
第56回 都市圏研究部会
(大会部会アワー)

日 時: 2015年11月14日(土) 11:00~12:30

会 場:大阪大学豊中キャンパス 全学教育推進機構講義B棟 B207
〒560-8532 豊中市待兼山町1番16号
会場へのアクセスは、以下をご参照下さい。
http://www.osaka-u.ac.jp/ja/access/toyonaka/toyonaka.html

研究発表:

都市の空間構造の変容と商業集積―「中心地―補完地域関係」から考える―
・・・・・・・・・千葉昭彦(東北学院大学)

趣旨:2014年に日本都市学会賞(奥井記念賞)を受賞した,千葉昭彦(2012):『都市空間と商業集積の形成と変容』原書房をもとに討議する。本書は,商業集積の盛衰をその補完地域に相当する住宅開発との関係で解明したものである。商業集積の衰退を都市構造の変化との関係で解明することにより,都市地理学の立場からまちづくりに取り組むための理論的枠組みを示した点で高く評価できる。

連絡先:根田克彦(奈良教育大学) E-mail: neda#nara-edu.ac.jp (#を@に置き換えて下さい)

<報告要旨>

■都市の空間構造の変容と商業集積―「中心地‐補完地域関係」から考える―
千葉昭彦(東北学院大学)
 クリスタラーの中心地理論では、供給原理に基づく中心地システムなどでその中心地の分布と補完地域の広がりが論じられている。しかし、これは静学的分析であり、擬制に過ぎないとしていて、現実を扱うのは動学的分析であるとしている。中心地の盛衰を補完地域の変化でモデル化すると、3つのパターンとなる。すなわち、人口が増加した場合、人口減少の場合、人口がほとんど変わらない場合である。以下、主として最寄り品取り扱いを念頭に置いて整理する。
 人口増加の一例として都市郊外での宅地開発を挙げることができる。これは、新たに補完地域が形成されることから中心地の発生をもたらす。特に面積が大きい開発地では、その販売促進に資するために開発地の個性化として商業施設の誘致もみられた。中小規模の宅地開発が多数みられる場合には、開発地の近隣で商業集積が形成されることもあった。これは自家用車普及等によって加速されることにもなった。なお、近年ではまちなか居住の増加に伴い、その近隣での商業施設の立地が目立っている。例えば、小規模スーパーや惣菜等の取り扱いを増やしたコンビニなどである。
 都市の外延的拡大が進む中、人口がそれほど増加しない地方都市などでは中心部での人口減少がみられ、そこでの中心商店街の停滞・衰退が進んだ。旧来の商店街では一定の業種が揃うことによって利便性が確保されていたが、ある業種が欠けることによって利便性が低下し、その商店街などの衰退が加速される。近年では郊外住宅地などでも人口減少・高齢化などの進行によって類似の動向がみられる。特に大型店の撤退・倒産などによって買物難民(弱者)問題が顕在化しつつある。
 人口に変わりがないとしてもその社会的属性が変化することが少なくない。従来専業主婦が居る核家族が中心であった地域の居住者が、単身化や共稼ぎ化するのに伴って、消費者が求める商品量、価格帯、商品内容、営業時間等に変化が生ずる。商店・商業施設がこの変化に適応できなければ受給間のミスマッチが発生することになり、買い物客は他の商業集積を選択することになる。このような状況下ではミスマッチを解消することが商店街の活性化につながると思われる。
なお、買い回り品の取り扱いのウエートが大きい商業集積地の場合、補完地域は広域になることが多い。そのため、人口の増減もその盛衰に影響を及ぼすが、同時に交通体系の変化、とりわけ道路網の整備などの持つ意味が大きいと考えられる。

■討論
根田克彦(奈良教育大学):補完地域について人口増減という観点で整理していたが,都市圏と対応する最高階層の補完地域を念頭においているのか,その他の階層のものも含めて考えているのか。
千葉:いずれの補完地域も視野に入っている。酒田や青森のケースは,最寄品を扱うことを想定している。仙台都市圏のような広い範囲を想定した場合,高速バスや高速道路の整備状況が集客に影響を及ぼしている。人口増減だけでなく,アクセスなどを考慮した交通体系も念頭におく必要がある。
根田:どちらかというと仙台は最高階層に位置する都市であり,仙台都市圏の中心地と想定できる。理論化する場合は,いくつかの段階に分けて考える必要はないか。
千葉:その通りである。
根田:鶴岡の例に関して,中心市街地と郊外とで需要の特性が異なることから,中心地と郊外大型店とですみ分けが可能という点は,ある程度,イギリスの場合と似ている。ただしイギリスでは郊外に計画的に配置されたスーパーストアが,その周辺の需要をまかなっている。一方で日本では立地規制が弱く,住宅地や農地のなかに立地する場合がある。そうすると,日用品や食料品などの需要を郊外全体では満たしているかもしれないが,公共交通や徒歩での利用を考えるならば,需要に対して供給が不足するエリアが生じるのではないか。すみ分けについて,全体的には可能かもしれないが,一方で,中心地論でいう中心地の配置を考慮すべきではないか。
千葉:すみ分けについて,仙台では明確である一方で,鶴岡や白川ではそうではない。後者の中心市街地では買回品と最寄品とが混在していることから,大型店の立地によって郊外に客を奪われてしまう。ただし,ここには客の居住地変化という動きもあり,当該客が中心市街地に求めていたものが変化していくことを考慮する必要がある。こうしたこともあって,すみ分けと明快に言い切れるものではない。このほか酒田の場合,中心部で大火があり居住者が郊外に移転した歴史をもつ。そのとたん中心市街地が衰退していった。これも中心市街地の補完地域が変化した例である。
荒木一視(山口大学):発表テーマから少しずれるかもしれないが,商店街を構成する個々の店舗の実状などについて,お聞かせ願いたい。
千葉:高齢化の進む住宅地の商店街の例になるが,ここは,かつて核家族世帯を客として商売していた。しかし,大学生など単身世帯が増えてきたため,客にあわせて商売のやり方を変える必要性がある。こうしたことを商店街で話す機会があったが,反発もあった。店主のすべてが,これまでの商売のやり方を変えることができるわけではない。この他,小学校や役所の近くで営業していた店舗について,少子化や役所の移転によって客が減少していた。ここでも,時代にあわせ閉店時間を遅くすることなどを提案したことがあるが,店主にも生活があり受け入れづらいものがある。ただし,偶然に遅い時間まで店舗を開けていた際に,以前から関心をもっていた近隣住民の来店があった。そうした状況を考えていく必要がある。
伊東 理(関西大学):どのような意味で補完地域を捉えているのか伺いたい。というのも中心地論の最近隣中心地利用仮説は,現代では自動車利用などもあり崩れてしまっている。また,中心地に対する補完地域それぞれは排他的ではなく重層的である。こうしたことを踏まえると,大型スーパーは近隣商業地をいくつも含むかたちで大きな補完地域をもつこと,また経営サイドからみると最寄品などを中心としたスーパーマーケットが典型だが,成立閾値が人口という観点でかなり上がっていること,こうした点を突っ込んで議論する必要はないか。また,政策などを考えるのであれば,衰退せざるを得ないところと,衰退させてはいけないところなど,中心地を選択的に考える必要はないか。現代的な意味合いで補完地域をどのように捉えれば良いのか伺いたい。
千葉:中心地や補完地域はモデルであり,それが現実にストレートに当てはまるわけではない。ショッピングセンター,食品スーパー,個人商店があったとしても,それぞれの消費者がそれぞれのニーズに合わせ店舗を選択するため,補完地域が重なっているのは間違いない。また,ショッピングセンターの利用においても,最近隣中心地利用仮説は成り立つのではないか。というのも,仙台で消費者の買物行動についてアンケート調査したことがある。それまで,既存のショッピングセンターに行っていた消費者は,近くにできた新規のショッピングセンターに行くようになった。身近なところを通り越して遠くに行くことは,一般的ではない。重層的であることにはかわりないが,原理原則的な傾向は認められる。もう一点,買物難民などの問題との関係から,「なくしてならない中心地」について政策的に考える必要性に同意する。イギリスで聞いた話だが,多くの財政を公共交通機関など様々なインフラ整備に投入した既存中心市街地について,それを無に帰すことは,社会的に不適切な選択になるという考え方がある。これは明らかに商業だけでなく都市空間の整備の問題でもあり,市場に任せれば解決される問題でもない。
伊東:もう一つ質問したい。ショッピングセンターのみを取り上げれば,最近隣中心地利用仮説が成り立つかもしれない。しかし,実際には自然発生的で非計画的な近隣商店街もある。そうした違いを考えることが重要ではないか。計画的なものと旧来からの非計画的なものとの競合を考えると,両者には圧倒的な力の差がある。
千葉:計画的なものが旧来からの近隣商店街に与える影響について,その妥当性を考える必要はあるし, 利便性における競合は間違いなくある。
根田(奈良教育大):イギリスの場合,都市計画においてセンターの階層構造がきちんと設定されている。都心を頂点とするクリスタラー的な階層構造に合わせるかたちで食料品や日用品などの必需品を取り扱うセンターが計画される。一方で,そうでないものは,これが適用されない。こうした点について,どのように考えるのか。
千葉:日本にはイギリスのような計画性はない。ただし,住宅団地のなかに商業施設が誘致されることは,民間の行為であっても,計画的な配置なのかもしれない。 ただし,民間であるが故に撤退などを制約できない。しかも,日本の住宅団地は高齢化が進展し,商業施設の撤退や倒産が発生するなど,利便性が十分でない地域が生まれる。商業政策の問題とはいえ中心地論の体系を想定した場合,それを維持するために補完地域の人口や地域社会のあり方を問う必要がでてくるのではないか。
駒木伸比古(愛知大学):日本の場合,郊外で誘致する自治体があると,大型店の立地もそれに従う傾向がある。日本の場合,政策的影響により,逆に補完地域を歪めるのではないか。
千葉:今回の報告では政策的な話に触れることはできなかった。日本の場合,十分にそれをコントロールするかたちではない。自由にやらせた結果としての現状がある。商業施設の立地とともに居住のあり方も考えないと,結果として不経済なかたちが生まれる。自由にやらせた結果としての買物難民や郊外の人口減少を,どのように考えるべきなのか。そこでの道路やインフラの維持に公的資金が必要となることなどを含め,きっちと考える必要がある。
(参加者25名,司会:根田克彦,記録:鍬塚賢太郎)
2015.09.28  Comment:0
第55回 都市圏研究部会

日 時: 2015年10月17日(土) 14:00~17:00

会 場:明治大学・駿河台校舎研究棟4F第2会議室
会場へのアクセスは、以下をご参照下さい。
https://www.meiji.ac.jp/koho/campus_guide/suruga/access.html

テーマ:現代都市の「住宅問題」―東京圏と地方都市

趣 旨:住宅をめぐる問題は,都市研究の重要テーマであり続けてきた。東京一極集中と少子高齢化の進展によって、住宅問題はその要因や帰結に地域差を孕みながら新たな局面に至っている。本部会では、東京圏と地方圏をフィールドとしてこれらのテーマに取り組んできた2名の研究者を招き、議論を深めたい。

研究発表:2000年代以降の東京都心部における住宅供給と人口増減の地域的対応
・・・・・・・・・・・・・・・・・小泉 諒(神奈川大学)

地方都市における空き家増加のメカニズム―宇都宮市を事例に―
・・・・・・・・・・・・・・・・・西山弘泰(九州国際大学)

連絡先:久木元美琴(大分大) E-mail: kukimoto#oita-u.ac.jp (#を@に置き換えて下さい)

<報告要旨>

■2000年代以降の東京都心部における住宅供給と人口増減の地域的対応
小泉 諒(神奈川大学)
 1990年代後半以降の東京都心部における人口増加や住宅供給,居住者特性に関して様々な研究が蓄積され,東京大都市圏の空間構造への影響が議論されている。本研究では,1990年代後半以降のマンション供給と人口動態を分析し,2000年代以降の都市圏構造への影響を考察することを目的とする。
 東京都心部における平均分譲価格と平米単価の推移を示すと,その関係の変化から,研究対象期間は3区分された。首都圏では,1994~1996年と1999~2005年には8万戸を上回る大量供給がみられたが,2006年以降は急減し,2009年には4万戸を下回った。その翌年には4万戸を回復したものの,供給は未だ低水準である。地域別の供給動向としては,埼玉県と千葉県におけるリーマンショック以降の回復の遅れが指摘できる。供給戸数を部屋数別にみると, 3LDKを典型とする3部屋タイプが全供給の約7割を占めているが,2006年以降は3部屋以上のタイプの供給戸数が大幅に減少している。
 また2000年代後半以降,地価上昇や建設費増大等により,都心部のみならず物件価格が高騰している。一次取得層向けとされる4000万円以下の物件が全供給に占める割合は2007年に50%を割り込み,2014年には33.1%にまで落ち込んだ。住宅取得を促進させる税制として,住宅ローン金利と最大控除額が市況を反映して変動しているが,最大控除額と専有面積平米単価の関係を分析すると,1990年代後半~2000年代前半と2000年代後半以降で異なる関係が示された。
 続いて住宅取得に重要な年齢層と指摘される30代と40代の人口動態(2014年)を分析した結果,23区全体としては流出超過であるが,都心3区や湾岸部など13区で流入超過であることが示された。住宅の所有形態別の平均世帯収入をみると,基本的に持家率と平均世帯収入には正の相関がみられるが,都心3区では高収入世帯の持家率が他地域に比べて低く,この地域における賃貸市場の果たす役割の大きさが示された。
 以上より考察すると,上記のような変化は特にミドルクラスのファミリー世帯の持家取得に影響を与えると考えられる。1990年代後半から2000年代前半は,複数の条件が重なったことで,それまで都心部ではみられなかったアフォーダブルな物件が大量に供給され,住宅取得税制の充実も相まって都心部での持家取得が可能となっていたといえる。しかし2000年代後半以降の住宅価格高騰は,都心部での持家取得を望む世帯に一層の世帯収入の確保を必要とさせ,共働きの必然性を高めている。そのため都心部での持家取得が困難と判断された場合,共働きの就業継続に困難が大きいとされてきた郊外で持家を取得するのか,それとも就業継続を優先し持家取得を先送りないし諦める等の判断に迫られると考えられる。このような状況は,居住地域構造をはじめ大都市圏構造へ影響を及ぼすと考えられ,今後さらなる分析が必要である。

■地方都市における空き家増加のメカニズム
―宇都宮市を事例に―
西山弘泰(九州国際大学)
 近年,空き家の増加によって発生する諸問題(以下,空き家問題)が社会的に大きな関心を集めている。国土交通省が行った試算では,2040年に全国で1335戸,約4戸に1戸が空き家になるという。この空き家問題は,2012年ごろからマスコミなどで大きく取り上げられるようになり,それに呼応するかたちで自治体も空き家の適正管理に関する条例を相次いで施行している。とはいうものの,空き家に対する関心がここ数年で一気にクローズアップされ,いわばブームやパニックの様相を呈していることは否めない。「空き家」という言葉の中身が全く整理されないまま一人歩きし,空き家に対するぼんやりとした不安が市民の危機感を煽っている嫌いがある。本研究は,空き家を詳細な実態調査に基づき,地方都市の空き家問題の本質は何かを明らかにするものである。
 本研究では,栃木県宇都宮市を事例とし,宇都宮市が2013年度に実施した空き家実態調査(空き家の悉皆調査)によって把握された戸建や店舗併用の空き家4,635件を対象に分析を行った。宇都宮市は東京から北方約100kmに位置する中核市である。人口は約52万人で,市域の大部分は平野か緩やかな丘陵地になっており,市街地の拡大が比較的容易なことが特徴といえる。また北関東工業地域の中核的な工業都市でもあり,郊外や市隣接地には大規模な工業団地や工場がいくつも立地している。
 まず,空き家実態調査による空き家の分布をみてみると,1970年までに都市化した地域,すなわち中心市街地とその周辺(以下,既成市街地)において空き家が多かった。では,どうして中心部で空き家が多いのだろうか。
 その要因は,第1に宇都宮市を含めた地方都市の住宅市場から説明できる。大都市圏はともかく,多くの地方都市では圧倒的に戸建住宅志向が強い。それは郊外において地価が安く,場所や住宅メーカーを選ばなければ1,000万円台で購入可能だからである。一方,既成市街地ではそもそも空き家を解消する上で重要な中古住宅の流通が少ないことに加え,ニーズに合致しない住宅も多く,価格も高い。
 第2に地方都市における都市構造の問題である。宇都宮市は道路交通網が高度に発達し,典型的な自動車依存都市である。郊外にはロードサイドの商店街が軒を連ね,自家用車を利用すれば短時間で複数の店舗を回ることができる。一方,既成市街地はスーパーマーケットなどの生活関連施設が少なく,生活が不便である。狭隘道路が多いことから自動車の利用にも適していない。
 以上のように,地方都市の空き家発生の最大の要因は,過度の自動車依存の交通体系とそれに合わせた生活関連施設の郊外移動による都市構造の変化である。そうした都市構造が居住の郊外化をより促進させることで,既成市街地の空き家増加を促進していると結論付けられる。この都市構造の変化こそが地方都市の空き家問題であり,今後の地方都市の持続可能性を揺るがす大きな問題となっていくことを危惧している。

■討論(AKは小泉氏,ANは西山氏の回答)
Q1(久木元美琴・大分大):(小泉報告に対して)東京圏において子育て世帯が住宅取得しにくくなっていることを指摘されたが,過去と比較した場合どのような違いがあるのか。また、他の大都市圏と比べて東京圏固有の状況とはどういうものがあるか。
AK:過去と現在の違いについては,東京圏においては東京圏出身者割合が非常に高く,そもそもの住宅取得の発地が大都市圏内であるという点で,郊外第1世代とは大きく異なる。また男女雇用機会均等法を背景に,女性のキャリア継続の実現可能性が高まってきたこともあり,女性の職の層が厚い。つまり高給女性も増加していることが,これまでとは大きく異なる特徴といえる。東京圏の固有性については,1980年代以降における東京一極集中が重要と思われる。特にハイクラスの女性の集中と,グローバルマネーの流入が,他の大都市圏にはない東京圏の固有の特徴と考えられる。
Q2(久木元美琴):(西山報告に対して)宇都宮市の空き家の事例が,他の同規模の都市においてどの程度普遍性をもつと考えるか。
AN:推測になるが,空き家の発生状況はある程度人口規模が関係するのではないかと考えている。また人口規模が小さくなれば,空き家率も高まると考えられる。今後,都市規模を変えて空き家の状況を検討することも必要になる。
Q3(久木元):(西山報告に対して)空き家の発生状況には,同じ都市規模であっても中心性の強さや隣接・周辺都市との関係なども影響しているのではないか。
AN:宇都宮の場合は,東京の影響が考えられる。
Q4(後藤寛・横浜市立大):(小泉報告に対して)マンションのストックが東京圏ではかなり蓄積されているが,このことがどのような地域差につながっていると考えるか。また今回の発表は,シンプルな同心円構造を念頭に置いているようだが,例えば京阪神圏では通勤流動が錯綜し,圏域が分極化している。こうした分極化の萌芽は東京圏ではどの程度みられるか。
AK:1990年代後半以降,シングル女性が都心の特定エリアで増加してきたが,近年はそうしたエリアでも家族向けの物件が供給されている。これは,従来の家族的因子の分布パターンを変えていくと考えられ,同心円構造もいっそう不明瞭になっているではないかと考える。また京阪神圏の分極化をふまえた比較検討は,今のところ実施しておらず,今後検討していきたい。
Q5(安倉良二・立命館大学・非):(西山報告に対して)宇都宮市中心部のマンション開発はさほど活発ではないとのことだが,コンパクトシティなど,行政による中心市街地活性化の取り組みはどうなっているか。
AN:中心市街地活性化には取り組んでおり,中心部での居住を促進するための家賃補助なども実施している。しかし,家賃補助の対象年齢を超えると郊外に居住地移動してしまうなど,十分な効果を上げていない。また宇都宮市が掲げるコンパクトシティはネットワーク型のものであるため,郊外にも配慮している。この結果,中心部に集中的に施策を行える状況ではなく,結果的に郊外への分散がすすんでいる状況である。
Q6(川口太郎・明治大):(西山報告に対して)用途地域ごとの空き家の発生状況に違いはあるのか。また専用住宅と店舗併用住宅では空き家発生プロセスが異なると思うが,この点について教えてほしい。住宅所有者へのアンケートも実施されたようだが,そちらの結果についても教えてほしい。
AN:用途地域ごとには分析していないので詳細はわからないが,宇都宮市の用途地域の特徴として,建蔽率が緩やかな用途地域が多いことが挙げられる。これも中心部において空き家が多いことの背景にあるのかもしれない。専用住宅と店舗併用住宅の比較は,今回は分析しておらず,今後検討したい。住宅所有者へのアンケートでは,不明が5分の1とかなりの割合を占めている。また複数の空き家を所有する者が非常に多く,この大部分は貸家であった。これは,1970年代に工場労働者向けに大量に供給されたものであり,この貸家が放置されて空き家化するという状況もある。空き家発生の理由で最も多いのは,借りていた人がいなくなること,次いで所有者の死亡(相続),子どもの元や施設への移動と続く。空き家の定義も住宅所有者によってまちまちであり,住宅・土地統計調査などと同様の結果は得られにくい。
Q7(久木元):(西山報告に対して)空き家問題の焦点化には,政治的な背景があるのではないか。
AN:あるのかもしれない。例えば,限界集落として報道されている山村集落であっても,実際には耕作放棄地も空き家も少ないということもある。
Q8(中川聡史・埼玉大):(小泉報告に対して)今回の報告のマンション供給には分譲だけでなく賃貸も含まれているのか。人口増減からみると,分譲だけでなく賃貸も重要であるし,分譲でも投資用に購入するケースも多いと考えられる。
AK:今回の報告は,データの制約上,持ち家のみを取り上げている。中古や賃貸も取り入れていくべきであると考える。
Q9(西山弘泰・九州国際大学):(小泉報告に対して)東京23区では中古物件がファミリー層の受け皿になっていると思われるが,これはどの程度の割合になっているか。
AK:中古物件はデータをとりにくいという問題があるが,約15%という報告があり,決して小さくない数字である。
Q10(荒井良雄・東京大):(小泉報告に対して):タイトルに東京都心部とあるが,分析では東京23区を対象としている。実際,23区でも都心区と周辺区とでは大きく異なる。この報告ではこれらをどのように区別しているか。また現在の居住を過去と比較検討する場合,両時期の住宅取得行動モデルを同一のものと考えるのは難しいと思われる。例えば,結婚年齢,住宅取得コストなどは現在と30年前とでは大きく異なる。
AK:23区を一つとしてみることには限界があるが,今回の分析は東京圏という大きなスケールで検討するものであるため,あえて形式地域として一つにまとめた。今後,東京23区に着目した分析を行う際には,分譲マンションの分布をもとにして区別していきたい。住宅取得行動については,全体的にライフステージ進行が遅れていることが,特に男性においては影響を及ぼしている。
Q11(川口太郎):(小泉報告に対して)現在の東京圏において割合が高まっている東京圏出身者は,結婚直前に親元に住んでいることが多い。こうした人々が結婚して住宅を探す際,実家の場所が重要な意味を持つ。これが高度経済成長期の住宅取得行動とは大きく異なる条件ではないか。
AK:高度経済成長期には,不動産価値が上がっていったため,住宅取得したほうが資産の総量が大きくなると言う,住宅取得のための誘因があった。しかし現在は,新築で購入しても数年後には価値が大幅に下がるため,マンションを購入する最後の後押しが弱いといえるのではないか。その際に,実家の場所は購入物件の選定に影響を及ぼすと考えられるので,今後検討を進めたい。
Q12(久木元):(小泉報告に対して)現在は,非正規雇用化,給料の上昇が見込めないことなど,住宅取得のコスト感が増しているように思えるが,一方で30年前は物価・給与の上昇と同時に非常に高い住宅ローン金利によるコスト感があった。こうした点を比較検討することも重要と考える。また,東京圏内部におけるライフコースの地域差の検討も重要であろう。
AK:その点も重要と考えているので,今後検討を進めたい.
Q13(荒井良雄):(西山報告に対して):賃貸用住宅の扱いについて,入居者がいないケースも空き家としてカウントされる。これは空き家問題と言うよりは,住宅需給のアンバランスの問題と言えるのではないか。また空き家発生の要因として,就業地の郊外化等を挙げているが,これは空き家発生が顕著になる以前から生じている現象であるため,直接的に空き家発生と結びつけるのは難しいのではないか。むしろ,都心空間が更新されないことが大きいのではないか。
AN:ご指摘のように,賃貸で空き家になっているものは他の空き家とは性格が異なるので,分けて考えるようにしたい。空き家発生要因について,中心部において,デベロッパーがマンション開発を行うメリットがあれば,空き家は解消されていくと思われる。しかし,そのようにはなっておらず,人々は利便性を求めて郊外へと移動していくため,空き家は増加していると考えられる。
Q14(根田克彦・奈良教育大学):(西山報告に対して)中心部では,家主が賃貸料を下げないし売りたがらないため,不動産価格が下がらないという問題もある。これも中心部衰退の要因の一つと言えるのではないか。もう一つ,イギリスの例を挙げると,住宅市場において中古物件が多く,10年後,20年後の人口予測に基づき,新築住宅の建設数は制限されている。同様の政策が日本でなされる可能性はないのか。
AN:住宅市場における民間の力がイギリスと日本では違っており,日本では規制が緩く,民間任せになっているところがあるため,新築住宅が増えていくのではないか。また日本の住宅はスクラップアンドビルドが中心であることも,ヨーロッパとは異なる点である。
Q15(熊野貴文・京都大・院):(小泉報告に対して)東京23区の住宅密集地において,木造賃貸住宅が新たな一戸建て住宅に細分化されているようなケースがあれば教えてほしい。
AK:東京23区は地価が高く,一戸建て住宅の供給には大きな制約になっていると思われる。供給された一戸建て住宅もかなり狭いものが中心である。木造賃貸住宅の密集するエリアは所有関係が複雑な場合が多く,そのような事例は非常に限られていると考えられる。
Q16(熊野貴文・京都大・院):(西山報告に対して)宇都宮市において,民間の分譲業者が参入して空き家が更新されるような事例はあったのか。
AN:中心部において,大規模な空き家をパワービルダーが取得して数棟の住宅を建てるという事例はある。

(参加者17名,司会:久木元美琴,記録:稲垣稜)
2015.07.04  Comment:0
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