上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- 
第59回 都市圏研究部会(大会部会アワー)
日 時: 2016年11月12日(土) 11:00~12:30
会 場:京都大学吉田南キャンパス 吉田南総合館北棟 3階 共北32
会場へのアクセスは、以下をご参照下さい。
https://www.h.kyoto-u.ac.jp/access/

研究発表:
地域経済循環と都市の経済―都市経済学からのアプローチ―
・・・・・中村良平(岡山大学)

発表者のプロフィールは、以下をご参照下さい。
http://www.cc.okayama-u.ac.jp/~ubbz0252/

コメンテータ:豊田哲也(徳島大学)

連絡先:豊田哲也(徳島大学) toyoda.tetsuya@tokushima-u.ac.jp

<報告要旨>

■地域経済循環と都市の経済―都市経済学からのアプローチ―
中村良平(岡山大学)
都市経済学は、当然ながら「都市域」を対象としており、マクロ経済学やミクロ経済学、また財政学や金融論などと異なり、「空間:距離」という概念を正面から取り扱う経済学である。その意味では、地理学、特に経済地理学とは近い関係にある。また、同じ都市を対象とする「都市計画」とは逆の関係にあるときが多い。都市計画は、土地利用計画など規制を中軸とするが、経済学は市場の失敗があるときに規制を行う。都市経済学では、都市そのものを単体として扱うマクロ的側面、つまり都市の適正規模、都市の産業、都市の住宅問題などと、都市内部を空間的広がりとして扱うミクロ的側面がある。これには、土地利用、人口密度や地価の分布、交通行動などが該当する。
都市を経済循環の視点でマクロ経済的に見る際、域際収支に注目することが多い。三面等価はマクロ経済の基礎概念であり、生産、分配、支出の三面で捉えた金額は等しくなる。ところが、地域経済では一国の経済で考えるより人・財・金の出入りが大きい。生産活動に必要な中間財や本社サービスが都市の外から購入されると当時に、生産されたモノやサービスが都市の外へ出荷される。また、都市の近隣から通勤している就業者の所得は都市外に帰属する。これらは、都市の経済にとって「漏れ」となり、この程度が大きいと生産と分配所得の二面の乖離が大きくなる。
人口や生産額は財・サービスのフローに対価が伴う実物経済の指標であるのに対し、預貸額は金融経済の指標である。地域で分配された所得は、税負担を除いて支出されるか貯金される。預貯金は金融機関にとって融資の資金となるが、自地域内に有望な融資先が見当たらないと、国債や社債など有価証券の購入や東京でのコール市場で運用され、域外へ漏出する可能性が高い。結局、域際収支は「資本収支(有価証券)+所得収支(所得の純流出)+交易収支(移輸入超過)=財政収支(財政移転)」という式で表される。地域経済を語るのに移輸入超過が注目されることが多いが、マネーの流れの全体を把握することが重要である。
現代の日本では、実物経済以上に東京へのマネー経済(資金フロー)における東京集中が進んでいる。東京都の銀行貸出額や卸売業販売額は全国シェアの4割を占める。同じ商業という産業分類に属するが、卸売業は消費者を対象とする小売業と異なり、ほとんどが企業間取引の仲介である。東京には大手総合商社の本社が立地し、財貨の空間的な移動を統括している。地方経済に目を転じても、多くの県で県庁所在都市に経済が一極集中している。長崎県の市町村について域際収支を見ると、人口当たりで見た民間企業の収入額は、長崎市や松浦市、西海市で高く、依存財源額は島嶼部や周辺部の町村で高い。
都市経済を考える視点として、規範的な理論と実証的な手法がともに重要である。データを分析するとき、どうやってそれを読み解くかが課題であり、それには問題解決のストーリーが必要となる。すなわち、「ここをこうすればここがこうなる(はず)」という因果関係の明確化、仮説とその検証が求められる。都市分析の代表的なモデルには、経済基盤モデル、都市階層理論、産業連関分析などがあるが、分析手法として回帰分析や因子分析、クラスター分析、など多変量解析も使いやすくなった。また、政府は総務省のe-Statのほか地域経済分析システム(RESAS)を提供しており、統計データの整備が進められている。
一例として、愛媛県の市区町村を対象とする経済分析を紹介する。個人所得(課税者所得+年金所得)と小売業販売額の関係には線形回帰がよく当てはまる。ところが、新居浜市では市内に大型SCが立地しているにもかかわらず、小売業販売額は予測値より過小となる。これは大手製造業で働く単身赴任者が多く、家族への仕送りなどで所得が漏出しているためと考えられる。次に、通勤流出率と課税対象所得額及び対象人数を勘案し、通勤による所得の流入額・流出額を推定した。松山市、今治市、新居浜市など地域就業圏域の中心市はマイナス(純流出)を示すことがわかる。
地域の産業は、派生産業と自立産業に大きく分類できる。派生産業とは人口や企業の集積が必要な産業であり、行政サービスや対個人サービス、対事業所サービスが該当する。これと対称的に、製造業における工場部門や場所(土地、山、海)を必要とする農業、林業、水産業、鉱業は、需要者が域外に存在し、自然条件のストックがあれば成立しうる。さらに、情報通信技術や輸送技術の進歩で空間の克服も可能となった今日では、IT利用のサービス(ネット販売等)や、供給側が動かなくても需要者がやってくるサービス(観光、視察ビジネス等)も考えられる。
地域の経済成長戦略を描くには、稼ぐ力のある基盤産業と雇用を生み出す雇用吸収産業を見極める必要がある。両者の間にBtoBやBtoCの取引があり連関している地域には強みがある。基盤産業は地域に新たな所得をもたらす産業であり、定量的には純移輸出額がプラスである移出産業として定義される。本来は派生産業であっても人口集積によって移出産業化するため、大都市ではサービス業も基盤産業と見なしうるケースが多い。本社機能を持つ事業所のほか、シンクタンク、デザイン開発、報道機関本社等は情報発信で移出を担っている。こうした基盤産業の数・種類と規模は、東京を頂点とする都市階層の中での位置によって大きく異なる。したがって、都市の階層構造に応じた産業振興策が求められるだろう。

■討論とまとめ
Q 地域の生産活動でモノやサービスの流れは市場を介した取引として示されるが,「本社サービスの購入」は企業内取引で意味が異なるのではないか。
A 本社機能を欠く工場の場合,域外の本社が工場の仕入れや経理など管理サービスを引き受けるのであり,これは企業内取引にあたる。
Q 域際収支の均衡式の右辺(財政移転)について,財政上の理由で地方交付税交付金が削減されれば,均衡がくずれて赤字となり,地域間の不均衡や格差などの問題が深刻化するのではないか。
A 式は財政移転で域際収支が調整されていることを強調している。補助金が減少したら地域の輸入代替産業を振興するなどの政策が必要になるだろう。
Q 県庁所在都市の人口当たり卸売業販売額において, 三大都市が卓越して高いのは当然だが,水戸市が札幌市よりも値が高いのはなぜか。
A 大手家電チェーン本社など本来卸売業に分類される活動が小売業として計上されているのかもしれない。
Q 都市の階層構造に応じた産業振興策が必要という主張について具体的事例があるか。また,現状の東京一極集中を是正するためには中小都市を育成する必要があると思うが,どのような振興策が考えられるか。
A 例えば,四国では四国通信局が松山市に立地した関係で,放送関連業務は高松ではなく松山が中心となっている。多くの自治体は地域振興策として企業誘致に執着するが,工場など固定資本だけでなく人材の誘致も重要である。鹿児島市はデザインやIT産業を集積させるため,人材誘致から産業育成を図っている。
Q 経済学の主目的は法則追及と予測にあると思っていたが,今回の発表は外れ値に表れる地域の個性に着目している点で興味深い。長崎県の域際収支の例示では,島嶼部など周辺部の自治体で財政が赤字となっている。こうした地理的条件不利地域には,自律的振興策だけではなく政策的支援が求められるのではないか。
A ケースが限られているため説明できない部分は多いが,島嶼部では特殊な要因を考慮する必要がある。長崎県の雲仙と熊本の天草は地理的に近接しているため,両地域一体で観光振興を考えるべきである。人材・資源を中心に波及効果が期待できるだろう。
Q 都市地理学の可能性について意見を聞きたい。
A GISとビッグデータは,地域研究のどの分野でも重要性を増しており,情報を共有することが望ましい。

■座長所見
同じ都市を研究対象としながら,都市地理学と都市経済学では異なったアプローチをとる。第一に,地理学は伝統的に土地利用や景観など可視的現象に関心を持ってきたのに対し,経済学は主にモノ・サービスや資本の非可視的な流動を扱う。第二に,地理学は空間スケールを重視し伸縮可変なものとして扱うが,経済学は都市をマクロとして扱うかミクロとして扱うかで別の枠組みを採用する。第三に,地理学はそれぞれの地域の個性に注目するが,経済基盤モデルや産業連関モデルでは規範的な現象理解を前提にする。今回の発表者は都市経済学の立場から具体的な地域分析にも多くの成果を上げ,地域政策立案の助言者としても信頼を得ている。討論では地域分析の方法論や結果の解釈について活発な意見交換がおこなわれ,両分野の対話を通して学ぶべきことは多いと感じられた。(豊田)

(参加者28名,記録:豊田哲也・鍬塚賢太郎・根田克彦)
2016.10.28  Comment:0
第58回 都市圏研究部会

日 時:2016年4月23日(土)14:00~17:00
会 場:大阪市立大学文化交流センター大セミナー室
   〒530-0001 大阪市北区梅田1-2-2-600 大阪駅前第2ビル6階
会場へのアクセスは、以下をご参照下さい。
https://www.osaka-cu.ac.jp/ja/about/university/access#umeda

テーマ:小地域データからみた東京大都市圏の居住分化

趣 旨:都市の空間的内部構造と居住分化(セグリゲーション)は旧くて新しい
問題である。人口の都心回帰が進む東京大都市圏では、単身世帯の増加や高所得
者の集中など大きな変化が進行している。本研究会では、小地域統計を用いた
GIS分析によって、賃貸住宅の分布や居住者の社会経済的属性を把握し、居住分
化の実態と問題点を検討する。

研究発表:
賃貸住宅の特徴からみた東京大都市圏における単身世帯の年齢構成
・・・・・・・・・・・・・・ 桐村 喬(東京大学空間情報科学研究センター)
居住者の社会経済的特性と「近隣の質」
・・・・・・・・・・・・・・ 上杉昌也(立命館大学衣笠総合研究機構)

連絡先:豊田哲也(徳島大学) toyoda.tetsuya@tokushima-u.ac.jp

<報告要旨>

■賃貸住宅の特徴からみた東京大都市圏における単身世帯の年齢構成
桐村 喬(皇學館大)

近年の単身世帯の割合の高まりは,とりわけ大都市圏で顕著にみられる現象である。近年の東京大都市圏における5歳階級別の単身世帯数をみれば,1990年では20~24歳が突出するものの,2010年には,25~29歳が最多で,30歳代や60~64歳の厚みも増した。特に増加した青年・壮年層(25~44歳)の単身世帯をみると,1990年代以降,東京大都市圏の都心でその割合が高まっている。また,未婚単身世帯のコーホート残存率を求めると,1990年代後半に青年層(25~34歳)の単身世帯の都心での残存率の高まりが認められ,都心での人口回復の結果として,青年層の単身世帯が増加してきたことがわかる。
近年の単身世帯の増加と,年齢構成の多様化については,人口学などから要因が分析されており,団塊世代の高齢化や離別の増加,子との同居の減少によって中高年・高齢の単身世帯が増加し,未婚の増加によって若年・青年の単身世帯の増加が生じたとされている。単身世帯の年齢構成に関する地理学的な視点からの研究は少ないが,その増加傾向に関しては,都心の人口回復現象や住宅取得を行う女性単身世帯に関する研究において検討されている。
ところで,東京圏(1都3県)の単身世帯を住宅の点からみると,高齢ほど持ち家居住が増える傾向にあり,1990年以降,持ち家に居住する単身世帯が全般的に増加したものの,依然として単身世帯の大部分は,民営の賃貸住宅に居住している。単身世帯に関する既往研究の多くは分譲住宅に着目しており,単身世帯の多数派である民間賃貸住宅の居住者の分析は必ずしも十分ではない。そこで,本研究では,大規模な不動産物件データベースを利用して,民間賃貸住宅の供給(フロー)や既存物件の特徴(ストック)と,近年の人口・世帯動向および,単身世帯の年齢構成の多様化との関係を検討した。
分析に用いた資料は,アットホーム社が提供する「不動産データライブラリー」であり,2001~2013年にアットホーム社が取得した賃貸物件情報から,棟単位で情報を集計した。対象地域は,2010年の国勢調査結果に基づく関東(東京)大都市圏である。フローの分析では,2001~2010年を対象に,小地域単位(町丁・字)での民間賃貸住宅の供給状況を求め,人口・世帯の動向との関係から,都心の人口回復への民間賃貸住宅の寄与の程度を検討した。ストックの分析では,小地域単位内に存在する全民間賃貸住宅を分析対象とし,小地域単位でストックの特徴を求め,単身世帯の年齢構成の多様化との関係を検討した。
まず,フローの分析の結果から,民間賃貸住宅の供給が多い鉄道駅周辺地域では,人口増加が総じて顕著であることが確認され,都心の人口回復には民間賃貸住宅の供給も一定程度寄与したことが示された。また,若年(15~24歳),青年(25~34歳),壮年(35~44歳)の男女別人口についてコーホート単位でみると,民間賃貸住宅が多数供給された地域では,年齢が若いほど増加傾向が顕著であり,特に2000年代前半には女性のほうが顕著に増加していることが確認された。さらに,民間賃貸住宅の供給が多かった地域のほうが,単身世帯と夫婦と子世帯の増加が顕著である一方,高齢単身世帯では,供給量の差による増加率の差はそれほどないことが明らかになった。職業別の就業者数の増減と,民間賃貸住宅の供給動向との関係は明瞭であり,供給が多く,都心寄りの地域ほど,ホワイトカラーの増加が顕著であり,販売職,サービス職,ブルーカラーは減少傾向にあることが確認された。
次に,2000年の東京大都市圏を対象にストックについて検討した。まず,小地域単位の単身世帯の年齢構成を類型化し,学生,若年・青年,中高年,高齢という4類型を得た。中高年類型や高齢類型の地域では,面積が広く,家賃の安い民間賃貸住宅が多い。しかし,中高年,高齢類型の地域では持ち家に住む世帯が大部分を占め,民間賃貸住宅のストックとの関係はそれほど重要でないと考えられる。一方,若年・青年類型は,最も多くの民間賃貸住宅が存在する地域に広がり,実際に民営借家に住む世帯が多い。また,相対的に狭いものの,新しく家賃の高い民間賃貸住宅が多いという特徴をもつ。2000年の民間賃貸住宅のストックについての分析を施した結果,年齢が若いほど,新しい小規模な民間賃貸住宅の多い地域に居住する傾向にあり,高年齢ほど,古く広い民間賃貸住宅の多い地域に居住する傾向を確認できた。
続いて,民間賃貸住宅のストックの時系列的な変化が与える,単身世帯の年齢構成の多様化への影響を検討するため,小地域単位の年齢階級別の単身世帯数を時系列的に把握できる川崎市に注目して,1995~2010年の分析を行った。その結果,川崎市では鉄道駅周辺などで民間賃貸住宅の供給が進み,青年層の単身世帯が増加した。一方,民間賃貸住宅の供給が進まなかった地域では,単身世帯の高年齢化が進み,中高年,高齢層を中心とする年齢構成に変化したことが明らかになった。
以上の分析から,単身世帯の増大と年齢構成の多様化に関しては,民間賃貸住宅のフローおよびストックが一定程度寄与してきたことが明らかになった。単身世帯も大幅に増加した1990年代後半以降の都心での人口回復期では,民間賃貸住宅の供給が多い地域ほど人口増加の程度は大きく,ホワイトカラーの増加が顕著になっており,民間賃貸住宅の供給は都心での人口回復に対して一定の役割を果たしたと考えられる。また,単身世帯の年齢構成の多様化に関して,民間賃貸住宅の供給と建築年が新しい住宅の多さは,若い世代の単身世帯の増加に寄与するものであり,単身世帯の年齢構成を“若返らせる”効果があると考えられた。また,高年齢化には直接的に寄与しないが,民間賃貸住宅の供給が少ない地域では,高年齢化が進行しやすくなることも示唆された。

■居住者の社会経済的特性と「近隣の質」
上杉昌也(立命館大・衣笠総合研究機構/
日本学術振興会特別研究員PD)

近年,欧米を中心とした近隣効果研究をはじめ,拡大する経済格差を背景として近隣(neighborhood)スケールでの居住分化と都市内で不均衡に分布する「近隣の質」や生活の質との関連が指摘されている。本報告ではGISや小地域データを用いた定量的な分析によって,都市内での所得階層による居住分化とそれに関連づけられる「近隣の質」の空間的不均衡との関係を明らかにするため,所得格差の進展する東京都区部を対象とした2つの実証研究を示し,その成果と今後の展望について議論する。
一つ目の分析の目的は,地区の社会経済的特性が犯罪発生に与える効果について,両者の関係が地区によって空間的に変動する不均質性を検証することである。地区レベルでの客観的な治安のレベルを示す指標として犯罪率がある。本分析では地区の社会経済的特性として町丁目単位の高所得世帯割合に焦点を当て,地区の物理的環境とは別に犯罪率(住宅対象侵入窃盗の1万世帯当たり件数)に与える影響を明らかにする。
初めに重回帰分析の結果,地区の昼夜間人口比率や世帯当たり人員,高齢者率が犯罪率に負の影響を与えていることがわかり,「人の目」としての自然監視性が犯罪を抑制していると解釈される。一方,一戸建世帯率や低層共同世帯率,東京駅までの距離は正の効果を持っており,侵入やアクセスのしやすさが犯罪を誘発することを示唆している。そして地区の高所得世帯割合は,これらの物理的環境を統制しても負の効果を持っていた。つまり地区の社会経済階層が高いほど犯罪リスクは低下することを示しており,逆に階層が低いほど犯罪リスクは高まることから,社会経済的困難による社会的コントロールの減退が犯罪を招くとする社会解体理論が支持される。その要因として,経済的な「防犯弱者」の存在や高所得地区での防犯対策の進展なども考えられる。
続いて地理的加重回帰モデルを用いた分析では,高所得世帯割合も含めて環境要因と犯罪率との関係の空間的不均質性が確認された。約9割の地区では高所得世帯割合が高いほど犯罪率が低いが,地理的には江東・江戸川区,足立区,杉並・中野区などで特にその傾向が強かった。これらの地区は近年再開発が進む江東区の湾岸エリアなど一部を除き,相対的に高所得層の割合が低いエリアに属している。逆に非有意ではあるが係数が正となる地区も大田区など一部存在している。このような地区では,高所得層の集積が犯罪企図者にとっての魅力度を高めている可能性がある。以上の知見は,近年地理的に平準化しつつある犯罪発生パターンに対する説明力の向上にも寄与する。また防犯対策の面では,建造環境の操作(防犯環境設計)だけでなく,警察資源の投入の選択・集中といった方策も有効であると考えられる。
二つ目の分析の目的は,地区の社会経済的特性が近隣関係満足度に与える影響について,居住者層や近隣スケールによる違いを検証することである。近隣関係満足度は,個人レベルでの近隣関係に関する主観的な居住満足度を示す指標であり,本分析では「近隣の人たちやコミュニティとの関わり」(国土交通省住生活総合調査2008)について,近隣の所得構成(高所得世帯割合,低所得世帯割合,所得階層多様性)が与える影響を個人・世帯属性と区別して明らかにする。
マルチレベルモデルを用いた順序ロジスティック回帰分析の結果,住宅特性(所有形態,建て方,床面積),世帯主特性(性別,年齢,居住歴),世帯人員,世帯収入といった世帯属性を統制すると,町丁目近隣の所得構成は満足度に有意な影響を与えなかった。しかし,近隣効果の異質性を検証するためクロスレベル交互作用項を導入したところ,高所得世帯ダミーとの交差項のみすべての近隣変数が有意になり,高所得層にとっては近隣の高所得層の存在は満足度に正の影響を与える一方で,低所得層や多様な所得構成は負の影響を及ぼすことが分かった。同質性の原理からは,社会経済的地位やライフステージが類似している方がよい関係や社会的つながりは形成されやすく,逆に異質的だとそれが難しい。また近隣での住宅所有や子育てといった社会経済的投資が可能な高所得世帯にとっては,将来その見返りが期待できる居住者と良い関係を作っていく動機となる。ただし低所得世帯ダミーとの交差項は全て非有意となり,低所得層にとっては近隣の所得構成は満足度に影響を与えないことが明らかになった。この点に関しては,低所得層の方が近隣との社会的相互作用が小さいために正負にかかわらず影響を受けにくい可能性が考えられる。
さらに近隣スケールの影響も確認するため小学校区近隣を想定すると,町丁目近隣で有意であった高所得世帯ダミーと近隣変数との交差項は近隣の低所得世帯割合のみ負に有意であり,さらにその効果量は低下していたことから,地理的に近い近隣ほど居住者に与える影響が大きいことが確認された。いずれにせよ,高所得層の方が近隣環境に敏感であるのは予想がつきやすいが,本分析ではその効果量や近隣スケールの影響を定量的に明らかにしたことが重要であると考える。それにより,例えば一定以上の低所得層が集積しやすい公的住宅団地を特定の町丁目に集中させないなど具体的な対策が可能になると考えられる。
以上二つの実証分析を通して,日本のように居住分化が小さいとされる都市であっても,小地域の居住者特性が「近隣の質」の空間的不均衡を説明する要因にあることが示された。本研究の意義は,両者の関係が場所や居住者層,近隣スケール等によって変化するという不均質性を定量的に明らかにした点にある。それにより,効率的な犯罪対策や近隣満足度の改善が期待される。ただし,本研究では居住者の所得構成のみに焦点を当てているが,世帯類型や年齢階層といった人口属性の多面性を考慮する必要もある。また因果関係やメカニズム・プロセスの解明も重要であり,海外理論の適用可能性も含めた検証や,対象地域の都市圏への拡張や国際比較も念頭に置いた研究の蓄積が今後の課題として挙げられる。

■討論とまとめ

Q 桐村報告で示された京阪神大都市圏と東京大都市圏の比較分析において,青壮年層の単身世帯の割合の高まりを示すため,単身世帯に限って年齢別構成比を求めているが,人口学的には各年齢階級人口に占める単身者割合を分析する方が妥当ではないか。
A(桐村) 今回は単身世帯の内訳とその変化を分析することを目的としたが,別の集計法も試みたい。
Q アットホーム社「不動産データライブラリー」の特性について,登録データは大手不動産会社が扱う物件が主であることから,東京大都市圏における住宅供給分布の一般的傾向をどこまで説明できるのか。
A(桐村) たしかに,古い文化住宅などは含まれていなかったり,駅に近いエリアのデータが多かったりという偏りが見られる。また同社に加盟していない中小の不動産業が強い地域ではデータがない場合もある。しかし,2004年以降は登録件数が多く,大都市圏の一般的傾向を反映しうるものと考えている。
Q データの集計単位は町丁目であるが,町丁目の面積に分析結果が依存するのではないか。
A(桐村) 東京大都市圏では,京都市内のように町丁の面積差が大きいわけではないのでそれほど問題でない。また,件数ではなく比率で分析すると,外れ値が生じる可能性がある。
Q 分析の結果,単身世帯の増加に民間賃貸住宅の供給が寄与している事実が明らかになったとして,そこから導かれる政策的含意はなにか。近年,東京への人口集中と極端に低い出生率が問題視されている。ファミリー層向けの賃貸住宅が少なくかつ家賃が高額なことが,人口構成の偏りを生む要因の一つであろう。賃貸住宅に住む若年単身世帯の増加を“若返り”として肯定的にとらえるだけでよいのか。
A(桐村) 賃貸住宅数の増減を単純に肯定ないし否定するわけでないが,近年増加する空き家問題については注意を払うべきである。また,建て替えなどで退去を迫られた高齢単身者が新たに賃貸住宅を借りられない事例があるため,このようなケースが増加している地区を把握し,新たに賃貸住宅を借りる際に保証人を代行するなど政策的な支援を行うことが必要だろう。
Q 上杉報告分析に関して,犯罪率と高所得者世帯率(または低所得世帯率)との間には直線的な相関関係があるのか。
A(上杉) 犯罪率と変数の単相関は考察していない。既存の研究では物理的な建造環境要因の役割が強調されているが,本分析ではその影響を統制して関係を見ている。なお,回帰モデルでは,犯罪率に対して低所得世帯率はプラスで有意という結果が得られている。
Q 地区の社会経済的属性と犯罪発生率の理論的背景について,1)犯罪発生場所と犯人の居住地との対応関係はどうなっているのか。2)「割れ窓理論」のように犯罪が犯罪を誘発する過程を分析に組み込む可能性はあるか。3)近隣コミュニティの犯罪抑止力をどう考えるか。
A(上杉) 1)犯罪者の居住地や行動を考慮すべきだが,データがなく,分析は困難である。2)割れ窓理論に関しては分析のスケールが異なり,また,社会的コントロールがあれば犯罪の誘発を防ぐことができる。3)コミュニティの監視を変数とすることに関しては,例えば一戸建て世帯率を用いることなどが考えられる。
Q 1)犯罪率に対して東京駅からの距離が独立変数として有意なのは,都心では空き巣に入る住宅自体が少ないためか。2)「近隣の質」に関する後半の分析では,近隣の人間関係の満足度を従属変数とし,近隣環境そのものに対する満足度を扱っていないのはなぜか。
A(上杉) 1)世帯当たりの犯罪率なので,住宅数は分析上統制されている。2)今回の分析では,近隣の何に満足しているかを検討するため,理論的な説明が容易な近隣の人間関係に着目した。また,他の土地全体の要素を変数に含めると解釈が難しくなると予想される。
Q 近隣関係の満足度の評価について,回答者が「濃密なコミュニティの交流があるから満足」と感じるのか,「煩わしい近所付き合いがないから満足」と感じるのか,人によって異なると思われる。実際の日常生活行動と満足度の関係に注目すべきではないか。
A(上杉) 高所得層の方がコミュニティとの関係性が強い傾向があるが,利用したデータでは近隣住民との付き合いを尋ねていないためその点は考慮できない。今後は独自調査が必要と思われる。
Q 世帯規模が小さくなり単身世帯が増加することによって,犯罪や近隣の満足度に対して影響するのか。
A(上杉) その地域の所得が低いから負の外部性を与えているのか,単身世帯が多いことや賃貸住宅が多いことが負の外部性を与えているのか,今後の研究課題としたい。

座長所見 都市の空間構造と居住分化(セグリゲーション)は地理学にとって旧くて新しい問題である。1990年代以降,都心での人口回復が進む東京大都市圏では,単身世帯の増加や高所得者の集中など大きな変化が進行している。こうした社会経済属性の構成や分布の変化は,住宅市場の需要・供給関係と深く結びつくと同時に,近隣空間やコミュニティの質に影響を与えていると考えられる。今回の研究部会では,小地域統計を用いたGIS分析によって,賃貸住宅の分布や居住者の社会経済的属性を把握し,居住分化の実態と問題点を検討することを目的に,2件の発表と討議をおこなった。研究発表はいずれも精緻なデータ分析に基づくもので,東京を事例に近年の都市社会の変化を指摘した点で大きな意義をもつ。ただし,小地域データを用いた大都市圏の分析には,使用できるデータとエリアの限界を克服する難しさも指摘された。また,単身世帯とファミリー世帯,低所得者と高所得者が居住分化する傾向が強まっているとすれば,それは同質的な近隣の形成と住民満足度の向上につながるのか,あるいは社会的格差や分断の空間的な固定化をもたらすのか,今後の都市像を見通す広い視点から議論が求められるだろう。           (豊田哲也)

(参加者18名,司会:豊田哲也,記録:木村義成・根田克彦・山神達也)

2016.04.01  Comment:0
第57回 都市圏研究部会

共 催:経済地理学会関西支部,日本都市地理学研究グループ

日 時: 2015年12月5日(土) 13:00~17:00

会 場:新大阪丸ビル新館609号室
東淀川区東中島1-18-27、新大阪駅から徒歩2分 Tel: 06-6321-1516
会場へのアクセスは、以下をご参照下さい。
http://www.japan-life.co.jp/jp/buil/sinkan/map.html

テーマ:企業のグローバリゼーションと地域振興

オーガナイザー:日野正輝(東北大学)・西原純(静岡大学)・阿部和俊(愛知教育大学名誉教授)・藤塚吉浩(大阪市大)

報告と討議:

日系多国籍企業のアジア立地展開とサプライチェーン・・・・・・鈴木洋太郎(大阪市立大学)

Value Capture Trajectories and Strategic Coupling of Regions with Global Production Networks・・・・・Henry Wai-chung Yeung(シンガポール国立大学地理学科)

座長: 日野正輝(東北大学)、宮町良広(大分大学)

■日系多国籍企業のアジア立地展開とサプライチェーン
鈴木洋太郎(大阪市大)
本報告では、近年における日系多国籍企業のアジア立地展開とサプライチェーン(供給網)の特徴と動向について、産業立地論の観点から研究報告を行った。特に、日系アジア現地法人の原材料の現地調達と製品の現地販売が増大する「サプライチェーンの現地化」に着目して、研究報告を行った。
日系アジア現地法人が原材料をどこから調達するのか(現地からか、日本からか、第三国からか)、製品をどこに出荷するのか(現地向けか、日本向けか、第三国向けか)は、その日系アジア現地法人の役割を反映している。たとえば、原材料をもっぱら日本から調達しているのならば、日本の分工場的な役割を有していると考えられる。また、製品をもっぱら日本向けに出荷しているのならば、日本市場への輸出拠点の役割を有していると考えられる。
最初に、統計データを整理しながら、日系多国籍企業のアジア立地展開とサプライチェーンの特徴を述べた。日系アジア現地法人の仕入高内訳データと売上高内訳データから、2000年代以降、進出国における現地調達割合も現地販売割合も増加してきたことがわかる。特に、現地調達割合については、約40%から約60%へと大幅に拡大している。
日系多国籍企業のアジア立地展開は、労働指向型よりも市場指向型になりつつあり、「市場に関する立地環境」に注目すべきであることを指摘するとともに、日系アジア現地法人の現地調達と現地販売が増大する「サプライチェーンの現地化」の背景には、アジア新興国の大都市圏における産業集積の形成があることを指摘した。
 次に、筆者のインタビュー調査にもとづいたサプライチェーンの現地化についての事例研究を紹介した。現地の市場ニーズに対応した製品開発など日系多国籍企業(家電メーカー)のアジアでの現地販売拡大への取り組みについて述べるとともに、インドネシアとベトナムにおける家電マーケット面での立地環境上の特徴を比較検討した。
また、日系物流企業のアジアにおける事業展開として、インドネシアにおける自動車部品の物流事業のケースとタイにおける食料品の物流事業のケースを述べた。前者は、現地の日系部品メーカーから完成車メーカーへとミルクラン方式でのJIT(ジャストインタイム)物流を行っている。後者は、現地の食品メーカーからコンビニや飲食店への「コールドチェーン」(低温での保管・配送)物流を行っている。
最後に、サプライチェーンの現地化に対応しながら事業展開するための日系多国籍企業の課題として、日系多国籍企業のアイデンティティと「安全・安心・信頼のバリュー」の構築について論じた。

■Promoting regional development in a world of global production networks
Henry Wai-chung Yeung(National University of Singapore)   
In its World Investment Report 2013, UNCTAD estimated that some 80 percent of international trade was now organized through global production networks (GPNs) coordinated by lead firms investing in cross-border productive assets and trading inputs and outputs with partners, suppliers, and customers worldwide. If these production networks are indeed the organizational backbone and central nervous system of today’s global economy, how does a regional economy develop and thrive by taking advantage of access to markets, technologies, knowledge, and capital embedded in these chains and networks?
I believe regional growth and development can be sustained through a process of strategic coupling that brings together key actors (e.g. firms) and institutions (e.g. state authorities) in regional economies and global lead firms in those production networks. This process of mutual complementarity can work to the benefits of both regional economies and GPNs. The former gain employment, production knowhow, and market access. The latter become more competitive through efficiency gains and technological innovation.
In East Asian regions, my research has identified three forms of such strategic coupling.
1. International partnership: In the Taipei-Hsinchu region, this articulation has taken the form of domestic Taiwanese firms serving as strategic partners of lead firms in the global information and communications technology (ICT) industry. In Singapore, global lead firms have made a direct presence through inward investment. This international partnership with global lead firms, either through transactional relationships or direct presence, brings tremendous growth dynamics and development potential to global industries in both cases: the Taipei-Hsinchu region (e.g. electronics and ICT) and Singapore (electronics, chemicals, finance, and transport and logistics).
2. Indigenous innovation: The presence of the developmental state creates the possibility of indigenous innovation through sustained national efforts in developing new products and process technologies embodied in such organizational forms as national firms (e.g. Samsung and TSMC) and strategic industries (e.g. semiconductors). These are large lead firms emerging from decades of sustained industrial policies that work in tandem with the return of technological and business elites from advanced industrialized economies (e.g. the US). Indeed, some of these national firms have become lead firms in their own global production networks, underscoring the developmental possibility of increased autonomy and capabilities in East Asian regions such as Seoul Metropolitan Area (South Korea), Taipei-Hsinchu (Taiwan), and Singapore.
3. Production platforms: Since the early 1980s, developing regions such as China’s coastal regions, Malaysia’s Penang, and Thailand’s Greater Bangkok region have been strategically coupled with the huge demand for competitive production platforms by lead firms in GPNs. As production platforms, these regions provide very competitive cost structures, abundant labour supply, stable policy environment, fiscal and other financial incentives, and so on.
In short, strategic coupling is a selective process that incorporates only certain regional and GPN actors. It is unrealistic for regional policy makers and practitioners to expect such global-regional coupling process to be always inclusive; it is even more dangerous for them to rely exclusively on such strategic coupling as the only pathway to regional upgrading and positive development outcomes. There is always a critical role for regional institutions and groups of actors to engage in joint decision and collective action to mitigate the negative consequences of such GPN coupling and to consider a more balanced and equitable form of regional development.

■討論とまとめ
討論では,主として以下の点に関して質疑が行われた。
第1に,日系企業の進出先として、アジアを一括して扱うことに対する疑問である。例えば,アセアンは関税を排して一体化した地域とみなせ,アセアン内と外とでは取引が異なる。鈴木氏は,国と地域の違いを多様な側面から検討する必要があるがデータの限界もあると回答した。
第2に,日系企業のアジア進出における現地企業との関係と,現地への貢献に関する質問がなされた。日系企業は主として富裕層を対象にしているのではとの指摘がなされた。鈴木氏は,2000年以降日系企業による現地企業への調達への依存度が高まったことを指摘した。その背景には,進出先の国からの強い要望があり,それは自動車メーカーに対して強く,電器機産業ではそれほどでもなかった。また,日系企業は現地調達の際に,地域・国を使い分けている。アジアのレンタル工場では,1次下請けのティア1だけではなく,ティア2,ティア3と呼ばれる2次、3次下請けも進出している。最後に,BOP(Bottomo/Base of Pyamid)ビジネスに携わる日系企業は少ないが,インドネシアではBOPビジネスに近いことを行っている日系企業があることを指摘した。
第3に,グローバル生産ネットワークにおける国家・地域・都市政府の役割と,多国籍企業の役割に関しての質問がなされた。Yeung氏は,経済的価値を作るのは国家・地域・都市政府ではなく企業であると回答した。しかし,グローバル生産ネットワークにおける多国籍企業の競争は複雑化しており,現在の競争は企業のネットワーク間の競争である。多国籍企業は複数の国・地域を利用して,企業内,企業間,企業外における経済的・非経済的関係の中で競争する。なお,グローバル生産ネットワークとグローバルシティネットワークとは密接に関係し,多国籍企業の本社が置かれる都市がリーダーとなり,それはしばしばグローバルシティとなる。
第4に,グローバル生産ネットワークの中で,発展途上国が内生的に発展するためのカップリングの効果に関する質問がなされた。Yeung氏は,技術と知識に対する投資などにより,国際的比較により内生的競争力を発展できることと,日本の役割を保つために,グローバル生産ネットワークにおける新たな国際分業のあり方を模索する必要があることを指摘した。
(参加者33名,司会:日野正輝・宮町良広,記録:根田克彦)


2015.09.28  Comment:3
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。